矢野経済研究所
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7月15日、トランプ氏はあらためて7月7日に公表した対日書簡のとおり8月1日から日本からの輸入品に対して25%の関税を課す方針である旨、表明した。高官間の交渉内容は報道された範囲内で推し量るしかないが、そもそも与しやすい相手であることを前提に協議に臨んだ米国側と相思相愛であるはずとの勘違いに心情的な期待をかけていた日本側との埋めがたいギャップがあったのではないか。いずれにせよ残された2週間内に双方あるいはどちらかの政治的な譲歩がない限り、関税発動は避けられない情勢だ。

問題はその後である。米国市場におけるシェアの維持をはかるべく、輸入する側が負担する関税相当分を輸出価格の値下げで相殺するような動きがどこまで、どういう形で広がるか、ということだ。当然ながら輸出元企業の利益圧縮だけでは吸収できない。原価の引き下げ、言い換えれば、取引事業者に対して相応の値引きが要請される、ということだ。

公正取引委員会、中小企業庁、業界団体等の取り組みの成果もあって下請法違反は減少傾向にある。しかし、支払い遅延、代金の減額、買いたたき行為は依然として高い水準にあり、この3類型で実体規定違反の87%、手続規定違反を含めた違反行為全体の33%を占める(令和6年度、中小企業庁)。「トランプ関税による売上への影響を最小化したいなら納入価格を下げてくれ」という連鎖のしわ寄せが行きつく先は結局のところ中小下請企業ということになりかねない。

トランプ関税の対象は日本だけでない。世界にとって対米輸出依存度の高さは今やリスクであり、リスク低減に向けた国際連携やサプライチェーン再編の動きも顕在化しつつある。一方、この機に乗じた価格競争も懸念される。しかし、これに巻き込まれる、あるいは、自らダンピングを仕掛けることは取引先ひいては国内経済を必要以上に疲弊させるとともに結果的に自らの体力、信用、成長力を奪うことになる。少なくとも輸出元である多くの大手企業は3年半を耐え抜くだけの内部留保はあるはずで、米国そして世界が買わざるを得ないクオリティとオリジナリティの創造に向けて全経営資源を集中させていただきたい。

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代表取締役社長 水越 孝