矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

29日、政府は5月6日を期限とする「緊急事態宣言」を延長する方針を固めた。延長期間は1ヵ月、対象は全都道府県、最終判断は5月1日に予定されている専門家会議を踏まえ、決定するという。
ご承知のとおり、日本の「緊急措置」は国民に危機の共有と要請への従順を求めるものであり、特措法にもとづく休業要請にも罰則規定がない。
このことが、収入や生活品質の低下を受け入れ、自身に自粛を課す大多数の人たちの一部に、要請や協力に応じない者、収入や日常に影響が出ない人に対する極端な不寛容を生じさせつつある。

「協力に応じない者は、取材され、顔が晒されることを後悔すればよい」、「県の職員に給付された10万円は県の財政として活用する」など、刺激的で強面な発言で “強い指導者” を装う軽い政治家が後を絶たない。幸い日本の民度はこうした質の悪い同調圧力に与しない健全性を維持している。
しかし、長期化する経済活動の自粛と感染への不安は、強力な社会統制を求めるポピュリズムの温床となりかねない。

問題の根本は自粛を要請し、収入の自主的な放棄を命じる側の責任が曖昧なことに尽きる。社会を同調圧力で覆い、善意の無償奉仕に頼るやり方はいかにも狡いし、ましてや財政事情の異なる自治体に対応を委ねるべきものではない。
公共の利益と国民の生命、自由、幸福追求の権利をどうバランスさせるか。これは統治の在り様の問題であり、つまり、国家のカタチそのものである。

26日、イスラエルで注目すべき司法判断があった。ネタニヤフ政権は治安機関が保有する対テロシステムを活用し、感染者の行動を過去2週間に遡って追跡、感染者と接触した人に自主隔離を要請する。これに対してイスラエル最高裁は「治安機関が一般市民の行動履歴を本人の同意なしに活用することは問題」としたうえで、政府に対して「個人情報保護に配慮した立法措置がない状態での監視の継続は認めない」と判決した。
対テロにおいて世界最強硬・最右翼のイスラエルにあって、それでも新型コロナ対策において明確な一線を引いた。危機にあって守られるべき価値は何か、私たちはここを問われている。

今週の“ひらめき”視点 4.26 – 4.30
代表取締役社長 水越 孝