矢野経済研究所
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6月16日、経営再建中の日産自動車は保有する仏ルノー株式を売却、1000億円を調達し商品開発投資に充てる方針を明らかにした。両社はこの3月末、相互出資の保有義務を15%から10%へ引き下げることに合意したが、この1000億円は売却可能となった5%に相当する。

4月1日付でCEOに就任したイヴァン・エスピノーサ氏は2026年度までに営業利益とフリーキャッシュフローを黒字化すると宣言、5000億円のコスト削減、2万人のリストラ、車両生産工場の17から10工場への統合を骨子とする“Re:Nissan”計画を発表した。販売台数に依存しない、キャッシュの創出に軸足を置いた再建計画は、目標の未達を繰り返し続けたゴーン氏以降の経営体制への決別と言っていいだろう。株式の売却もその一環だ。

とは言え、生産拠点の統合やサプライヤーの集約は膨大なコストを伴う。先行開発や2026年度以降の商品開発を一時的に停止、変動費の削減に向けて3千人のエキスパートを投入する。北九州市に計画したバッテリー工場の新設も中止となった。目の前の危機のその後の成長戦略に懸念が残る。そうした中、4月に中国で発売された新型EVセダン「N7」の受注が約1ヵ月で1.7万台を越えるヒットとなった。苦戦が続いた中国市場におけるN7の好調ぶりを伝えるリリースの文章は「Re:Nissanの商品戦略の再構築を力強くサポート」と締めくくられる。“今度こそは”との期待がにじむ。

中国合弁会社の關口勲総経理は「ワクワクするカーライフを」と語る。エスピノーサCEOも「ワクワクする商品をお客さまに」とメッセージする。はたしてワクワクするクルマとはどんなものか。非日常の走行性能? 多様なライフスタイルの演出? 6月10日、AIを使った自動運転システムを開発する英国のベンチャーWayveと米Uber Technologiesの2社は「ロンドンで完全自動運転の公道実験を開始する。OEMパートナーは数カ月内に決定する」と発表した。そう、実験の主役はソフトウェアベンダーとプラットフォーマーであり、“自動車工業からモビリティ産業への変革”とはつまりこういうことだ。Wayveと日産自動車は提携関係にある。完全自動運転が実現する未来にあってクルマの「ワクワク」をどう再定義するか。生き残り戦略の本質はここであり、それは日産だけの問題ではない。

今週の“ひらめき”視点 6.15 – 6.19
代表取締役社長 水越 孝