「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)

目次

  1. 前身の金属加工会社の創業から70年を超える歴史 高度な曲げ技術と溶接技術を生かして機械のフレームなど複雑な形状の金属製品を製造している
  2. 京都市伏見区に本社と工場を構える 妥協のないものづくりを徹底し、工場には多種多様な工作機械をそろえる
  3. 工作機械だけでなく生産管理システムや3D-CADをはじめとするデジタル面での設備投資にも積極的に取り組んできた
  4. 多様な個性を持った人材の力を集めて相乗効果を生み出し、プラスワンの価値を顧客に提供している
  5. 先行きが不透明な時代 製造業をめぐる課題に対応するためデジタル技術の更なる活用を進める
  6. 新たな一手としてAIを活用した図面検索システムと見積の自動算出システムを導入 経験が浅い人材でもベテランが担っていた業務を担当できるようになる
  7. 後継者不足に悩んでいるものづくり企業の支援と連携に力を入れ、既存事業の拡大と新規事業の創出につなげる
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前身の金属加工会社の創業から70年以上の歴史を持つ京都府京都市の株式会社シンエイが、従来からの生産管理システムの活用に加え、金属加工業界向けに開発された見積自動算出システムや、AIを用いた図面検索システムなどのデジタル技術を導入し、業務効率の向上と時間の有効利用に重きを置いている。変化が激しい時代に対応できる強くしなやかな経営体制を築こうとしている。(TOP写真:シンエイの工場に設置されている曲げ加工に使うベンディングマシン)

前身の金属加工会社の創業から70年を超える歴史 高度な曲げ技術と溶接技術を生かして機械のフレームなど複雑な形状の金属製品を製造している

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
シンエイのコーポレートマーク

金属加工のエキスパート企業、シンエイは、1952年に創業した前身の金属加工会社、中栄鈑金有限会社から独立する形で2007年に設立された。一つひとつの製品に思いを込める「一品入魂」をモットーに、高度な曲げ技術と溶接技術を生かして機械のフレーム(骨組み)をはじめとする複雑な形状の金属製品を製造している。

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
一品入魂の文字を入れたシンエイの法被

シンエイが製造した金属フレームは半導体製造装置、液晶パネル製造装置、オゾン発生装置、印刷機器、医療機器といった日本産業の根幹を支える分野で使用されている。扱う金属は鉄、ステンレスを中心に、アルミニウム、銅、真鍮(しんちゅう)など幅広く、試作品の製作から継続的な大量生産まで多種多様な注文に対応している。協力会社と連携して仕上げる表面加工や塗装の技術にも定評がある。

京都市伏見区に本社と工場を構える 妥協のないものづくりを徹底し、工場には多種多様な工作機械をそろえる

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
工場で溶接作業に取り組むシンエイの従業員

シンエイは、ものづくり企業が集積する京都市伏見区の幹線道路近くに鉄骨造3階建ての本社と工場を構えている。本社と工場が一体となった建物内では、3階にオフィスや会議室、1階と2階に工場を配置している。照明が明るく整理整頓が行き届いた工場では、全自動ガトリングプレス機、レーザー加工機、NC(数値制御)プレスブレーキ、スポット溶接機、ファイバー溶接機、ベンディングマシンなど金属加工関連の様々な工作機械が並ぶ。本社の門扉には江戸時代初頭に活躍した画家、俵屋宗達が描いた風神雷神図をモチーフにした自社製の金属プレートを飾っている。

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シンエイの工場の様子
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シンエイの工場に設置されているレーザー加工機
「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
門扉に飾っている雷神(左)、風神(右)をモチーフにした金属プレート

「妥協のないものづくりを徹底し、機械の性能を最大限発揮して生産効率を高めるために常に業務内容の改善に取り組んでいます」と取材に応じた多田慎太郎代表取締役社長は、快活に話した。シンエイは品質向上に強い意欲を持つ。部署ごとに品質維持目標を数値化した上で、月1回の品質管理委員会でモニタリングを行い、不具合があった場合の原因究明や再発を防ぐための恒久的な対策を徹底するようにしている。環境保護にも強い関心を持ち、2019年には環境マネジメントシステムに関する国際規格、ISO14001の認証を取得した。

工作機械だけでなく生産管理システムや3D-CADをはじめとするデジタル面での設備投資にも積極的に取り組んできた

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
生産管理システムを活用する様子

創業家出身の多田社長は、2013年にシンエイが中栄鈑金を吸収合併した際、30代前半で社長に就任した。同業他社が手を出さない難度が高い仕事を積極的に請け負うことで会社の競争力を高めてきたという。取引先の課題解決につながる設計や試作段階からの提案型営業に力を入れ、工作機械だけでなく生産管理システムや3D-CADをはじめとするデジタル面での設備投資にも積極的に取り組んできた。

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
シンエイは3D-CADと3D-CAMシステムを使って3Dデータを基に展開図などを作成している

シンエイは2007年の設立と同時に導入した販売管理機能が備わった生産管理システムを活用して基幹業務をデジタル化している。また、3D-CADと3D-CAMシステムを使って取引先から受け取った金属製品の設計図を基に展開図とNCデータを作成しており、製造した製品のデータはすべて生産管理システムで一元管理している。「デジタル技術は、前向きに活用する現場の主体性がなければ100%使いこなすことはできません。デジタル機器やICTソリューションを導入する際は、現場の意見を最大限尊重するようにしています」と多田社長は話した。

多様な個性を持った人材の力を集めて相乗効果を生み出し、プラスワンの価値を顧客に提供している

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シンエイの多田慎太郎代表取締役社長

シンエイは、実績を重視した人事評価システムの導入や得意分野に配慮した適材適所の人員配置などを通じて人材を育成している。設計、製造、検査、総務、営業、梱包、配送といった各部署では36人の従業員が活躍している。「仕事の属人化の解消に努め、互いにフォローし合う体制を整えています。社員には、将来を見据えたキャリア形成を意識すると同時に常に新鮮な気持ちで業務に取り組んでほしいと思っています」と上木直玄取締役は穏やかな口調で話した。

海外人材の活用にも力を入れ、インドネシアとベトナム出身の6人が在籍している。「社員一人ひとりが個性と特技を存分に発揮できる職場環境を何より大切にしています。多様な個性を持った人材の力を集めて相乗効果を生み出すことで、プラスワンの価値をお客様に提供しています」と多田社長は力強く語った。

先行きが不透明な時代 製造業をめぐる課題に対応するためデジタル技術の更なる活用を進める

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
シンエイのオフィス

多田社長は、少子高齢化による深刻な人手不足、米国の関税政策に伴う世界のサプライチェーンの変動リスク、材料価格の高騰といった製造業をめぐる課題に対応していく上で、デジタル技術の活用がこれまで以上に大事になると考えている。

「デジタル技術やAIの進化によって社会が変化するスピードは年々加速し、ものづくり業界も大きな変革期にさしかかっていることを実感しています。他社では簡単に真似のできない仕事をこれまで以上にこなしていくには、意思決定と行動のスピードを速めて、持っている強みをさらに磨いていかなければならないと危機感を抱いています」と多田社長は語った。新しい技術や手段を使ってこれまで以上に時間を有効活用していきたいという。

新たな一手としてAIを活用した図面検索システムと見積の自動算出システムを導入 経験が浅い人材でもベテランが担っていた業務を担当できるようになる

2024年には、金属加工業界向けに開発されたAIを活用した図面検索システムと見積の自動算出システムを導入した。図面検索システムは、クラウドストレージで一元管理した過去の膨大な図面やCADデータの中から必要な図面を瞬時に抽出する機能を備えている。AIが学習を繰り返すことによって検索と抽出の精度は着実に向上するので、活用すればするほど効果を期待できるという。また、見積システムは、あらかじめ見積に必要な項目を入力しておくことで正確な見積金額を瞬時に算出する機能を備えている。

「見積は重要な業務ですが、それだけでは利益を生み出しません。ベテランでなければ対応が難しかった見積業務を経験が浅い人材でも担えるようにすることで、ベテランの技術と経験を利益につながるほかの業務に振り向けることが可能になります。デジタル技術を上手に活用することで人材をより効率的に活用できるようにしていきたい」と多田社長は話した。自らを含むベテランの経験とノウハウの継承にデジタル技術を活用することも検討している。

後継者不足に悩んでいるものづくり企業の支援と連携に力を入れ、既存事業の拡大と新規事業の創出につなげる

「一品入魂」をモットーに日本のものづくりを支える 個性豊かな人材とデジタル+AIで飛躍を目指す シンエイ(京都府)
シンエイの本社の外観

多田社長は、後継者不足に悩んでいるものづくり企業の支援や技術を補完し合える企業との連携に今後、力を入れていきたいという。強固な企業ネットワークを形成して既存事業の拡大と新規事業の創出につなげることを目指す。ネットワーク間での安全で効率的な情報共有を実現するためにクラウドサービスの活用にも目を向けている。「デジタル技術を活用して業務を効率化することで新しく生み出した時間を、新たな成長戦略の策定や実践に使っていきたい」と多田社長は抱負を語った。

時間に対する高いコスト意識を備えてものづくりに取り組んでいるシンエイ。先行きが不透明な時代には平時にないビジネスチャンスがある。変化に臨機応変に対応する強くしなやかな企業グループの構築に挑戦する上で、AIやデジタル機器は大きな武器になるはずだ。

企業概要

会社名株式会社シンエイ
本社京都府京都市伏見区下鳥羽浄春ヶ前町120
HPhttps://www.shin-naka-ei.com
電話075-605-6020
設立2007年7月(創業1952年)
従業員数36人
事業内容  半導体・液晶製造装置、オゾン発生装置の外装フレームやパネル、SUS製タンク、ブラケット類、印刷機器等の外装フレームやパネル、ブラケット類、医療機器関係の外装フレームやパネル、ブラケット類などの精密鈑金加工業