
目次
- 子どもたちをめぐる状況・保護者ニーズの変化で、きめ細やかな対応が求められる放課後児童クラブは「第三の居場所」として重要な存在
- さまざまな知識や専門性が求められる支援員。行政主催の研修も多く、体系的なシステムによって運営されている
- 補助事業のため報告・申請業務に追われる日々。子どもたちと接する時間を確保するためにも業務効率化が必要
- 突然のトラブル発生に震撼。パソコンが破損し、提出用データを滅失。USBメモリを使ったデータの保管にも課題が生じていた
- NASを導入してデータのバックアップ体制を整備。保守契約やサポートプランも付与して安心して使える体制を構築できた
- 業務管理システムアプリを導入し、保護者からの出欠連絡やお知らせはスマートフォンでやりとりが完結
- ICTを上手に活用すれば、支援員と子どもが触れ合う時間が確保でき、保育の質の向上にもつながる
労働や疾患、家族の介護などにより、保護者が昼間家庭にいない小学校の子どもたちにとって、放課後預かってくれる学童保育は欠くことのできない存在だ。地域により名称はさまざまだが、所轄するこども家庭庁では「放課後児童クラブ」と称し、児童福祉法に基づき各自治体に設置されている。設置・運営形態は市区町村による公設・公営をはじめ、運営を民間に委託する公設・民営のほか、民間事業者による民設・民営のケースがあるが、その多くを公設・民営が占めており、地域の保護者などで構成する運営委員会が運営を担うケースが多い。
このような公設・民営の場合は補助事業の対象となり、行政への申請・報告書に要する業務が数多く発生する。そのうえ、支援が必要な子どもの増加や社会環境の変化により、支援現場ではきめ細やかな対応を求められている。生身の人間同士でのコミュニケーションが必要な保育の現場で、ICTのソリューションは支援員たちをどのようにサポートしているのだろうか。日々奮闘する放課後児童クラブの舞台裏を紹介する。(TOP写真:授業を終えた小学1年生を迎え入れ、支援員が手洗いを促している。こうした生活訓練も放課後児童クラブの日々の風景だ)
子どもたちをめぐる状況・保護者ニーズの変化で、きめ細やかな対応が求められる放課後児童クラブは「第三の居場所」として重要な存在

高崎市小八木地区の中川学童保育クラブは1978年(昭和53年)4月に設立され、1999年(平成11年)4月に法制化以降認可された。高崎市で最も歴史のある放課後児童クラブである。同クラブは中川(1、3年生対象)のほか中川東(2年生対象)、中川南・西(4、5、6年生対象)の3ヶ所が増設され、現在4ヶ所の学童保育クラブで135人前後の児童を受け入れている。受け入れは授業終了後の放課後のほか、夏休みなどの長期休暇にも応じるため、学校や保護者との連携は欠かせない。

「設立して最初の頃は公民館で子どもを受け入れていましたが、定員20人に対し、だんだん子どもが増えて70人になってしまったので、この中川小学校の敷地内に新しく建てられました」。そう話すのは、同クラブで主任支援員の渡辺昌子氏だ。渡辺主任は開設の翌年に入職し、長年地域の子どもたちや保護者を見守ってきた。この建物の設計時には渡辺主任をはじめ支援員も意見や希望を伝え、子どもたちにとって居心地が良く、安心・安全な空間が完成した。


近年は食物アレルギーを持つ子どもや発達障がいの子どもが増え、専門的な知識が必要とされる場面も多いという。また、低学年児の生活訓練をはじめ、不登校の兆しをいち早く察知して学校や家庭につなぐなど、重要な役目を果たすこともあり、国は放課後児童クラブを家庭、学校に継ぐ「第三の居場所」と位置付け、支援員の育成に力を入れている。
さまざまな知識や専門性が求められる支援員。行政主催の研修も多く、体系的なシステムによって運営されている

基本的に公設の放課後児童クラブでは、学習指導は実施しない。ただし、単に子どもを預かるだけでなく、発達段階に応じた遊びなどを提供することにより、子どもの主体性や社会性、創造性を育んでいる。そのため、支援員には多方面の専門知識が求められ、行政は障がい児対応の研修や遊びの指導員研修、地域広報研修など多種多様な研修を年間を通じて実施。同クラブでも支援員の多くが意欲的に参加している。また、放課後児童クラブで働くための資格は不要だが、国は放課後児童クラブの質的向上を目的に、2020年より放課後児童支援員という国家資格を有する支援員を2名以上置くことを定めている。
この資格研修で習得する事項は六つに大別される。(1)放課後児童クラブの制度への理解や子どもの権利擁護、子ども家庭福祉施策への理解。(2)障がい児も含めた子どもを理解するための基礎知識、(3)放課後児童クラブにおける子どもの育成支援の方法、(4)保護者や学校、地域との連携・協働、(5)安全対策や緊急時の対応、(6)放課後児童クラブの運営管理や法令遵守など。
放課後児童クラブの運営管理や子どもへの支援、地域連携がこれほど体系的に行われていることに驚くが、それだけに行政への申請や報告業務にも忙殺される。子どもたちと触れ合う時間を充実させるためには、管理・運営に関わる業務の効率化が肝になる。
補助事業のため報告・申請業務に追われる日々。子どもたちと接する時間を確保するためにも業務効率化が必要

以前は行政とのやりとりでFAXが必要だった時期にFAX受信機能付きの複合機を使用していた。その後2025年3月には新しい複合機を導入。これは受信したFAXデータを本体に保存できるペーパーレスFAXのため、画面で内容を確認した上で不要な用紙は消費せず、必要なFAXだけを印刷できるため不要な紙の消費を防ぐことができるように改善された。さらに紙書類はスキャンしてデジタルデータに変換し、保存することも可能となり業務効率が大幅にアップした。
渡辺主任は日々子どもたちと接する時間を大切にしている。一人ひとりの様子を実によく観察し、声掛けも欠かさない。しかし、渡辺主任にはもうひとつ重要な業務がある。それは、先述した行政へ提出する各種申請書類や報告書類の作成業務だ。毎年春には新入生が入り、年度ごとに各学年の児童の利用申請も発生する。しかも、この作業は前・後期に分けて行われ、補正作業も生じるため煩雑な作業である。そのほか、研修の申し込みや電気代の申請、その日の利用者人数、天候の報告など実にさまざまな報告が求められるという。補助事業であるゆえに厳正な手続きが求められるのは致し方ないが、子どもたちと触れ合う時間が減るのは本末転倒だ。そんな状況がひとつ前進したのがコロナ禍以降だった。
「以前、申請・報告書類は役所の担当窓口に持っていかなければなりませんでした」と振り返る渡辺主任。かつて、行政機関への申請や報告業務は、市の担当部署から記入用紙がFAXで送られ、それに書き込んで窓口で提出するのが慣例だったという。その後ICTの普及によって書類の授受方式がFAXからメールに変わったが、申請時には窓口への持参が求められていた。それがコロナ禍で接触機会削減を目的に電子申請が可能になったのだ。窓口に出かける時間が削減されたのはありがたいと、渡辺主任は変化を歓迎する。
突然のトラブル発生に震撼。パソコンが破損し、提出用データを滅失。USBメモリを使ったデータの保管にも課題が生じていた

書類の作成とデータ管理における体制構築には、少々痛みを伴う出来事が改革の契機となった。同クラブでは申請書類・報告書類の作成はパソコンで行っており、それらのデータはパソコンのハードディスクに保存されていた。しかし、災難は突然訪れた。2023年に新しく導入したノートパソコン2台のうち1台が、1年後のある日突然動かなくなり、作成中の報告書類などのデータを失うという事態に陥ったのだ。
渡辺主任は非常に困惑したが、パソコンに詳しい人材が社内にいなかったため、システム支援会社に保守を依頼。そして、修理対応の一環としてSSDを交換したが、残念ながらデータは消えていた。そこで、今後の不測の事態に備え、画面共有機能を使って遠隔で対処方法を連絡できる電話サポートシステムを導入することにした。
NASを導入してデータのバックアップ体制を整備。保守契約やサポートプランも付与して安心して使える体制を構築できた
これまで、USBメモリを使ってデータのバックアップを行っていたが、新規児童の情報が毎年更新されるたびにUSBメモリが増加し、必要なデータをすぐに見つけられないという問題があった。そこで、2025年3月に複数の端末でデータを共有できるストレージ「NAS」を導入することにした。これにより、多数のUSBメモリをNASにまとめて2台のPCで同じデータを簡単に閲覧できるようになった。さらにNASは自動でパソコンのフルバックアップを行うため、データ消失のリスクにも備えることができる。行政へ提出する書類は5年間の保存が義務付けられているが、NASなら十分な容量があり、USBメモリを探す手間や紛失の心配もなくなった。
業務管理システムアプリを導入し、保護者からの出欠連絡やお知らせはスマートフォンでやりとりが完結

子どもたちへの支援や行政への申請・報告業務のほか、放課後児童クラブで日々行われる大切な仕事がもうひとつある。それは、保護者との連絡業務だ。同クラブでは2007年から放課後児童クラブ等に特化した業務支援アプリを導入し、保護者とともにスマートフォンで利用している。
たとえば、日々実施される児童らの出欠連絡、そして、登下校時に注意を要する発雷警報や行事連絡など、随時発出される連絡事項のほか、前述した月ごとの「おたより」もこのアプリから画像で配信されている。既読確認機能があるので複数の連絡事項があっても受け取り漏れがなく、スマートフォンで随時確認ができるため、保護者はもちろん同クラブにとっても利便性が高い。
「このアプリはもう手放せません。便利な道具はどんどん使うべきですね」と渡辺主任も使い勝手の良さを実感している。さらに2025年5月からは利用料などの支払手続も、このアプリから実施できるよう準備を進めているという。「金融機関が違うと振込手数料も発生しますし、忙しい保護者の方が振込に行く手間も時間も削減できますので、アプリでの支払手続に移行することにしました」(渡辺主任)

ICTを上手に活用すれば、支援員と子どもが触れ合う時間が確保でき、保育の質の向上にもつながる

同クラブでは保護者との連絡にスマートフォンのアプリを使用しているものの、日々の子どもたちの様子を保護者に報告する「連絡帳」だけは、アナログ方式でノートを使っている。このノートには保護者からのコメントや連絡なども書かれており、いわば支援員との交換日記のような存在だ。渡辺主任は、手書きのノートにつづられた保護者たちの筆跡や文章から、子育てへの不安な気持ちを抱える心の機微が感じ取れるという。
「最近はお母さんへのフォローが必要になってきていると感じます。地域の狭い交友関係の中では、話しにくい場合もあるでしょうし」と、渡辺主任は理解を寄せる。時には子どもを迎えに来た母親や、卒業した子どもの母親が訪れてひとしきり渡辺主任と話していくこともあり、渡辺主任をはじめ支援員の存在は、子どもだけでなく保護者にとっても欠かせない存在となっているようだ。
このように、子どもや保護者と生身でふれあう時間をできる限り多く確保するためにも、同クラブのようにICTと人の手を的確に使い分け、申請・報告業務や業務連絡においてはICTを活用して効率化を進めることが欠かせない。子どもたちを慈しみ、質の高い保育を実現している同クラブの運営は、他の放課後児童クラブにも参考になるだろう。中川学童保育クラブのような放課後児童クラブが後に続くことを大いに期待したい。
企業概要
法人名 | 中川学童保育クラブ |
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住所 | 群馬県高崎市小八木町1860-3 |
電話 | 027-362-1138 |
設立 | 1999年4月 |
従業員数 | 25人 |
事業内容 | 放課後児童クラブの運営(「中川学童保育クラブ」「中川学童保育クラブ東」「中川学童保育クラブ南」「中川学童保育クラブ西」) |