障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)

目次

  1. 主に知的障がいの利用者が通所で利用する事業所。生産活動や創作活動、レクリエーションなどを実施し、利用者の地域生活を支援
  2. 入職した頃は全ての書類が手書き。その1〜2年後にパソコンが導入され、事務書類のデータ化が進んだ
  3. 複雑な制度に対応するため、申請・報告・請求業務においては障がい者福祉システムの導入が必須となった
  4. 通所施設のため、利用者の日中記録は今のところ手書きで十分。年に2回のアセスメントや個別支援計画にはシステムが欠かせない
  5. ICTは今や欠かせないソリューション。時代に即した環境を構築し、後に続くスタッフが働きやすい職場環境を作りたい
  6. 独自の梅加工商品が好評。自主製品によって収益を上げ、利用者の工賃を増やして日中支援活動の充実につなげたい
  7. 障害者総合支援法の施行により、身体・知的・精神障がいの全てに対応を迫られる現場。柔軟な支援にICTはいかに貢献できるか
中小企業応援サイト 編集部
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報は中小企業応援サイトてお知らせいたします。

群馬県高崎市で通所型の障害福祉サービス事業所「清涼園」を運営する社会福祉法人明珠会(みょうじゅかい)。同法人は知的障がいを持つ親たちの要請によって1970年に設立された、高崎市で最も歴史のある法人である。同法人は利用者が通所で日課や創作活動を行う生活介護事業と、生産活動を通じて就労に必要なスキルを身につける就労継続支援B型事業を手がける多機能型事業所だ。

障がい者施策において現場に大きなインパクトをもたらしたのは、2006年の障害者自立支援法と2011年の障害者総合支援法である。障害者自立支援法では3障がい(知的・身体・精神障がい)共通の制度となり、障害者総合支援法においては地域生活への移行を目的に、生活介護事業や就労継続支援B型事業など新しいサービス内容を設置。支援の充実が図られている。このような施策の変遷にともない、同園でも支援の充実が図られ、運営を支える事務職員の業務においてはICT活用が迫られた。(TOP写真:ホチキスの針を箱詰めする生産活動に従事する利用者たち)

主に知的障がいの利用者が通所で利用する事業所。生産活動や創作活動、レクリエーションなどを実施し、利用者の地域生活を支援

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
1970年に法人認可された社会福祉法人明珠会が運営する、障害福祉サービス事業所「清涼園」。2019年に創立50年目を迎えた

同園は高崎公園に隣接する緑豊かな環境に立地する。利用者は知的障がいを持つ人が中心で、日課や生産活動などに従事して過ごしている。「知的障がいを持つ人たちにおいては、安定的に毎日同じ作業を続けられることが必要です」。そう語るのは、同園で園長を務める境野智仁氏。利用者たちが主に行っている生産活動はホチキスの針の箱詰め作業で、地元のホチキスメーカーから受託しているこの業務は、同園創立当初から続いているという。

利用者のレクリエーション活動においては園内でのさまざまな行事のほか、支援員が付き添って町に出かけることもあり、生産活動で得た工賃で買い物を楽しむこともあるという。

入職した頃は全ての書類が手書き。その1〜2年後にパソコンが導入され、事務書類のデータ化が進んだ

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
1993年に同法人に入職した境野智仁園長

「私が入職した時はまだ全ての書類が手書きで、利用者への工賃の計算も手計算でした。保護者にお送りする『おたより』はワープロで作成していましたね」と振り返る境野園長。その1〜2年後の1994〜1995年頃にようやくデスクトップ型のパソコンが導入され、事務作業においてはパソコンで作成するようになったという。そんな同園でICTの導入が進んだきっかけは障害者福祉制度の改変だった。

かつて精神薄弱者授産施設と呼ばれていた同園の生産活動は、2011年の新体系サービス施行以降、就労継続支援B型事業という呼称となったが、利用者が行う作業自体は同じ内容である。ただし、大きく変わったのが事務職員の手がける給付申請などの業務だった。

複雑な制度に対応するため、申請・報告・請求業務においては障がい者福祉システムの導入が必須となった

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
利用者の工賃計算、職員の給与計算、申請、請求など財務関係の事務を担う宇田川さん。当初は複雑な制度設計に戸惑ったという

同園では新体系サービス施行を視野に、保守契約も付帯した障害者福祉システムを2008年に導入し、Wi-Fiも整備。データはサーバーで保管する形をとった。2020年に同園に入職した職員の宇田川珠穂さんは、「福祉システムを利用した申請や介護給付請求などの業務を手がけているが、このシステムはサポートがオンラインで確認できるおかげで、異業種の経験があってもすぐに操作に慣れることができました」と感じた。一方業務システムに慣れるまでには苦労を要したという。「私は異業種からの転職でしたので、複雑な障害者福祉制度を理解するまでが大変でした、それに、画面を開くとエラーメッセージが出ることもたびたびで、相談できる人もいないので困っていました」と振り返る。

そこで業務中にパソコンでよくでるエラーメッセージを解消するべく、2024年に困った時に問い合わせができる電話サポートを導入し業務に専念できるようになり、さらに翌年には新しいサーバーを導入し、作業効率はより一層向上した。

通所施設のため、利用者の日中記録は今のところ手書きで十分。年に2回のアセスメントや個別支援計画にはシステムが欠かせない

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
支援員は利用者への年2回のアセスメントを行い、報告義務があるが、日々の日中活動の記録は手書きで行っているという

一方、支援員が行う記録業務において「手書きとデジタル化が混在しています」と話すのは2009年に入職したサービス管理責任者の野村祐子さん。「高齢者入所施設でしたら、バイタル測定記録なども必要でしょうけれど、ここは通所施設ですし活動の記録だけなので手書きで済んでいます」(野村さん)

ただし、個別の利用者に対して半年ごとに実施するモニタリングとアセスメントにおいては、障がい者福祉システムを利用する。モニタリングにおいては利用者の変化や状況を見直し、次の支援に反映するための確認項目がある。それらをシステムに記録することで利用者の半年ごとの変遷は、データとして可視化される。これらのデータの傾向から将来的に起こりうることを分析し、備えることもできるだろう。

ICTは今や欠かせないソリューション。時代に即した環境を構築し、後に続くスタッフが働きやすい職場環境を作りたい

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
経理事務担当の宇田川珠穂さん(左)とサービス管理責任者の野村祐子さん

制度に応じた申請などの業務にはICTが存在感を発揮している同園だが、宇田川さんは「まだまだデジタルで省力化できることは多い」と指摘する。「私は振込等で銀行に出かけている時間がかなり多いのですが、インターネットバンキングに移行できれば、出かけていた時間を別の作業に振り分けられます。うちは歴史のある社会福祉法人ですが、スマホも含めデジタルを普通に使う人が増える時代に合わせることで働く人に支持されると思います」と話す。デジタル化によって可処分時間が増え、働く人がイキイキとしていると利用者もそのパワーをもらうケースが多い。またデジタルを活用した働き方改革は国の要請でもあり、これから本格的なデジタル導入が検討されそうだ。

独自の梅加工商品が好評。自主製品によって収益を上げ、利用者の工賃を増やして日中支援活動の充実につなげたい

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
さまざまな種類がある同園の梅加工商品。地元のスーパーマーケットなどでも販売されており、好評だ

同園では2009年に加工場を増築し、市内の契約農家から仕入れた梅で、梅干しやドリンクなどの梅加工品づくりを生産活動として実施している。これらの品々は地元のスーパーやJAなど4店舗で販売され、この地域では知られた商品となっている。「今はホチキスの針の箱詰めが中心ですが、違う仕事も探していかねばなりません。仕事が減れば、利用者さんの工賃が減ってしまいますから」と危惧(きぐ)する境野園長。そうした意味でも、同園のオリジナル梅加工品は利益率が高いため利用者にとってもメリットとなる。境野園長は、このような独自商品を今後も開発していきたいと考えている。

社会福祉法人以外の民間参入も増え、近年は農福連携など異業種とのコラボレーションも活発だ。福祉の規制緩和ともいうべき障害者総合支援法は、サービス提供のありかたをも確実に変えているようだ。

障がい者の生活支援と就労を支える多機能型施設 独自商品の開発、ICTの整備で安定運営を目指す 明珠会(群馬県)
梅商品の加工場で作業を行う利用者。丁寧な仕事には定評がある

障害者総合支援法の施行により、身体・知的・精神障がいの全てに対応を迫られる現場。柔軟な支援にICTはいかに貢献できるか

障害者総合支援法に基づき、サービス提供側には身体・知的・精神障がい(発達障がいも含む)を一体的に受け入れることが求められている。しかし、支援員の野村さんは、「異なる障がいへの対応は、一律ではうまくいかない」と難しさを感じている。

とりわけ知的障がい、精神障がい、発達障がいにおいては脳機能における障がいでありながらも障がい特性が異なり、発生した要因や背景もさまざまだ。しかも、知的障がいと発達障がいが併発することもあり、対応には時に困難も伴う。それでも、野村さんは「学びながら、現場で柔軟に対応できるようにしていきたい」と意欲を示す。

最近の動向として、障がい者の日中活動などに、YouTubeやVRによるレクリエーション、旅行体験などICTを活用する現場が増えている。さまざまなコンテンツが次々と登場する中、支援に適したソリューションが活用できる可能性もありそうだ。

また、さまざまな研修が実施される障害者福祉業界では、コロナ禍を契機にZoomによるWeb研修に置き換わっているという。しかし、移動時間がなくなり、時間のロスが減らせた一方で、他施設の職員との生身の交流が減ったことが残念だと、宇田川さんは感じている。

利用者の立場に立つと実際になかなか行けない海外や映画の世界は手軽に観ることが出来るYouTubeやVR等は効果的だ。ただSNSでも盛んにオフ会を開催してリアルでのコミュニケーションがあるようにハイブリッドで行うことでバランスの取れた人間形成が出来ると思われる。リアル一辺倒だったコロナ前、バーチャルでしか会えないコロナ禍、そしてコロナ後はバーチャルの良さを生かした体験型の利用者サービスの提供や職員のコミュニケーションが求められている。AIやアバターの本格利用を迎え、ワクワクする体験が出来る時代になって来た。障害者福祉分野のこれからの飛躍を期待したい。

企業概要

法人名社会福祉法人明珠会 清涼園
住所群馬県高崎市宮元町153
HPhttps://myojukai.com
電話027-325-2810
設立1970年4月
従業員数15人
事業内容障害福祉サービス事業所の運営(生活介護事業、就労継続支援B型事業)