業績不振
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

会社が業績不振に陥った場合、事業の縮小や希望退職を募るなど、さまざまな対策が考えられる。従業員を減らすことなく会社を存続させたいならば、従業員の給料を減らす「減給」という選択肢もある。ここでは、業績不振から脱却するために減給できる条件や手順について説明する。

目次

  1. 業績不振で減給できる条件とは?
  2. 業績不振による減給の手順を3ステップで解説
    1. 1.減給を行う制度を作る
    2. 2.役員クラスの報酬を減らす
    3. 3.減給について従業員に説明する
  3. 減給に関する法律はどうなっている?
  4. 減給に関する規則
  5. 減給に関して従業員ができる3つのこと
    1. 1.減給の妥当性の確認
    2. 2.減給される金額に注意する
    3. 3.減給を適用される期間を確認する
  6. 業績不振で減給する場合は従業員に十分な説明を

業績不振で減給できる条件とは?

会社が業績不振になったからといって、会社の一存で従業員の賃金を下げる「減給」をすることはできない。それでは、減給を行うためにはどのような条件が必要なのだろうか。

減給するには、まず、「労働契約」の変更が必要だ。「労働契約」は契約の一種であり、「契約の自由」が認められているため、基本的には内容を自由に変更できるが、契約者双方が合意しなければならない。しかし、会社と労働者の力関係を考えれば、対等な立場で契約内容の変更を行うことは難しいだろう。

労働組合がある会社では、「労働協約」の変更によって減給を行うことができる。「労働協約」で規定している労働条件の中の給与の部分を、労働組合と会社の協議によって変更することになる。ただ、問題となるのは、労働組合がない会社、あるいは全員が労働組合に加入していない場合だ。

そのような場合には、会社の「就業規則」の変更によって減給を行うことになる。ただし、「労働契約法第9条」では、以下のように定められている。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない

つまり、労働者にとって不利となる減給は、会社と労働者との合意がなければできない。従業員にとっては、自分の給料が減らされることは受け入れ難く、「就業規則」の変更によって減給することはかなり困難であることがわかる。

ただ、同じ「労働契約法」の第10条には、以下のような記載がある。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が(中略)合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする

つまり、「就業規則」の変更点について、雇用している全労働者に周知徹底し、変更内容が合理的なものであると認められれば「就業規則」の変更ができるのだ。

「就業規則」の変更点を従業員に周知させることは比較的簡単である。ただ、従業員に対して規則変更の合理的な説明ができるかどうかは、会社にとっても悩ましい点である。合理的か否かの判断基準については、「労働契約法第10条」では、以下5点の基準を満たさなければならないとされている。

 ① 個々の労働者がどの程度の不利益を被るのか
 ② 会社が労働条件を変更しなければならない必要性は何か
 ③ 就業規則の変更後の内容自体は妥当なのか
 ④ 就業規則の変更に際して労働者側との間で講じた手続きなどの状況
 ⑤ その他の就業規則の変更にかかる事情

会社は、以上の5基準を十分に検討した上で、「減給」に関する「就業規則」の変更を行う必要がある。

業績不振による減給の手順を3ステップで解説

業績不振を打開するために減給をせざるを得ない場合、どのような手順で行うかを説明する。

1.減給を行う制度を作る

減給を行うためには、まず会社に制度を作らなければならない。減給は従業員の生活に直結する措置であるため、会社の判断のみで一方的に行えるものではない。

会社は、従業員の減給を行うことによって、会社の経営がどのように持ち直すかといったシミュレーションをしなければならない。そして、個々の従業員にどの程度の不利益が生じるかも考慮する必要がる。業績回復のシミュレーションを行わないと、従業員の納得を得ることは不可能であり、逆に経営陣の責任を問われることになりかねない。

2.役員クラスの報酬を減らす

従業員の減給を行う前に、役員の報酬のカットも検討しなければならない。会社で社員が不祥事を起こした場合、その社員を処分することはもちろん、その社員の上司や経営者が責任を取るケースは少なくないが、これはあくまで会社が社会的な責任を取ることを示すものだ。

業績不振による減給に至る原因は、会社の経営に負うところが大きいはずであり、社員の給料を減額する前に、役員が率先して自らの給料、報酬をカットしなければならない。具体的には、取締役会を開催して決議するというプロセスを踏むことになる。

3.減給について従業員に説明する

最後に、経営陣が、全従業員に対して現在置かれた会社の現状や減給についての詳細を説明しなければならない。」業績不振への対策として経費削減などを行っても業績が上向かないため、やむを得ず従業員の減給に踏み切ることとなった」といった経緯を説明することになる。

減給の説明をした上で従業員の同意が得られれば、従業員にとって不利益となる労働契約の変更であっても、減給を遂行できる。全従業員を一堂に会して役員が説明を行うと、一方的な伝達として捉えられて従業員に不満が残る恐れもある。最初は各部署で責任者が従業員と個別に面談を行い、給料を減額する旨を説明して従業員の理解を求めるとともに、相談に応じる方法が良いだろう。

従業員は、減給を言い渡された際に「いつまで続くのだろう」という不安を抱くこともある。給料の減額を説明する際には、「業績が回復すれば給料を現状まで回復する」など今後の展望についてもしっかりと伝えることが重要だ。

減給に関する法律はどうなっている?

会社に雇用される従業員の労働にかかる最低限の権利などを規定している法律が「労働基準法」だ。会社と従業員の力関係を比べてみると、明らかに従業員が弱い立場になるため、雇用される側の権利を守る目的で1947年に施行された。

基本的に、会社は給与などの労働条件を自由に決めて良く、従業員も自由に労働条件を提示することができる。両者の条件が折り合えば労働契約が成立して会社に雇用されることになるが、採用する権限は会社にあるため、実際には会社が従業員よりも上の立場になることが多い。

力関係で上にある会社の一存で、従業員の給料を減額できる事態にもなりかねないが、弱い立場の従業員を保護する目的で作られた「労働基準法」では、減給に関して規制した条文がある。それが、「労働基準法第91条」であり、条文は次の通りだ。

「労働者が、無断欠勤や遅刻を繰り返したりして職場の秩序を乱したり、 職場の備品を勝手に私用で持ち出したりする等の規律違反をしたことを理由に、制裁として、賃金の一部を減額することを減給といいます。1回の 減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。(以下省略)」

しかし、この条文は従業員が社内の規律を違反した場合の減給に対しての規定のみであって、労働基準法では、会社の経営不振に基づく減給については規定されていないのだ。

減給に関する規則

減給に関する会社と従業員の取り決めは、大きく分けて「労働協約」「就業規則」「労働契約書」の3つがある。

・労働協約

「労働協約」は、労働組合と会社が締結している規則であり、ここに「会社が経営不振になった場合には減給してもよい」といった減給に関する文言があれば、減給を行うことができる。しかし、その文言がなければ会社は基本的に減給を行うことはできない。

・就業規則

「就業規則」は、従業員の勤務時間、休暇、給与などが規定されているもので、会社と従業員のトラブルを防止する目的がある。従業員の不利となる就業規定の変更は認められていないが、全従業員に周知徹底させ、規則の変更内容が合理的なものと判断されれば、変更することができる。

・労働契約書(雇用契約書)

「労働契約書(雇用契約書)」は、一般的に従業員が会社に雇用される際に締結する。契約の一種であるため、減給に関する会社の申し出に対して従業員が同意すれば減給は可能だ。逆に言えば、従業員が同意しない限り、減給することは困難となる。

減給に関して従業員ができる3つのこと

従業員が会社から減給を言い渡された時にまずやるべきことは、減給の理由や条件が妥当か、そして適切な手続きを踏んでいるかの2点について確認を行うことだ。

1.減給の妥当性の確認

減給の妥当性については、会社が今後の業績不振回復の計画表や財務諸表を作成しているか否かによって、判断できる。もし、会社が計画表や財務諸表を作っていなければ、従業員は作成を求めた上で、作成された計画表や財務諸表を十分確認する必要がある。

既に必要書類が作成されていた場合には、実現可能なものかどうかを確認しなければならない。財務諸表などの経営に関わる書類に詳しくない従業員もいるであろうから、個人で確認するよりも、労働組合あるいは従業員の中で財務に詳しい者を代表に立てて確認した方がよいだろう。

2.減給される金額に注意する

減給される金額にも注意を払う必要がある。従業員の懲戒における減額は、最大10%と定められているが、あくまで懲戒を受ける従業員の生活を保障するための措置であり、業績悪化という従業員に直接関係のない理由で10%を上回る減給を受けるのは現実的ではない。

会社から提示された減額される予定の金額が現在の給料の10%を超えるような場合は、応じられない旨を伝えても構わない。

3.減給を適用される期間を確認する

減給の妥当性や金額などに十分納得した後は、減給措置がいつまで続くのか事前に会社側に確認した上で「同意書」に署名しよう。

減給は、「倒産」などの最悪の事態を回避する手段であることで納得できても、「一体いつまで我慢すればいいのか」という疑問は誰しも抱くはずだ。減給期間がはっきりしないと、当面の生活費やローンの支払いなどの目途が立たない。自らの生活を守ためにも、会社に不安を払拭するための問い掛けをしなければならない。

業績不振で減給する場合は従業員に十分な説明を

業績不振によって、従業員の解雇や会社の倒産を回避する目的で減給の措置を取れば、従業員の不安は相当なものである。従業員の生活に影響が出る減給には、厳密な手続きが必要であり、会社の意図や今後の見通しを従業員に納得のいく形で説明する必要がある。会社は従業員の協力なしには成り立たないことを、改めて理解いただきたい。

文 ・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)

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