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南波建設株式会社は群馬県北西部に位置する吾妻郡東吾妻町を本拠に、公共工事を主体に地域に密着した事業を展開する郡内屈指の建設会社だ。70年を超える歴史で培ってきた確かな技術力と品質管理能力をベースに、地域のインフラ整備に貢献してきている。同時に、近年は施工面でのICTの活用に積極的に取り組むほか、工事採算面で重要なカギを握る積算業務の精度向上を図るなど、厳しい市場環境下でも企業努力を通じて確固たる事業基盤を堅持している。(TOP写真:南波建設が請け負う「上信自動車道」の橋梁(きょうりょう)工事現場(南波建設提供))
建設業参入までは紆余曲折 建築事業でスタートも現在は土木事業が主体 公共工事での高い技術力に発注元もお墨付き
南波建設は1952年の設立で、手掛けてきた公共工事には定評がある。2016年に地元、東吾妻町での烏帽子支線林業専用道新設工事で農林水産大臣賞を受賞したことをはじめ、現在までに林野庁長官賞や群馬県知事賞など数多くの表彰実績があり、発注元からはその技術力に高いお墨付きを得ている。
しかし、南波建設を創立するまでの道のりは紆余曲折をたどった。初代社長の南波春海氏は戦時中の1943年、神奈川県横浜市に軍需向けの木工業として八洲工業株式会社を設立したものの、終戦近くの1945年5月に空襲で工場が全焼する憂き目に遭う。戦後は地元の群馬県に戻り、1946年6月に個人事業として木工業と製材業を手掛ける八洲工業所を立ち上げた。その後、吾妻郡内でも学校建設が増えたことから建設業への参入を決断し、南波建設の設立に踏み切った。
当初は校舎の建築事業でスタートしたが、現在は土木事業をメインに据え事業全体の8割を超える。地盤の吾妻郡は山間地域であり林野庁関係の森林管理道の整備のほか、高度経済成長期には道路建設などのインフラ整備が加速し、土木事業のウエイトが増し、今日に至っている。
事業の9割は公共工事 「上信自動車道」新設工事で実力発揮

実際、現在も2029年の全線開通を目指す関越自動車道・渋川伊香保インターチェンジ(群馬県渋川市)付近から長野県東御市に至る延長83キロメートルに及ぶ地域高規格道路「上信自動車道」の建設計画が吾妻郡で最盛期を迎えており、土木事業の受注が増えている。
湯本常務は「上信自動車道の工事については、今後もしばらくは道路新設工事が続く。さらに山間地域で河川も多く橋梁の工事もあり、土木の仕事が多くなってきているのが現状」と話す。
建築事業については学校関係や自治体庁舎など公共施設がほとんどで、近年は耐震化工事を手掛けてきた。その意味で「請け負う工事は土木、建築を合わせ事業全体のほぼ9割方が公共工事」(湯本常務)であり、まさしく吾妻郡という地域に密着した建設会社の姿を如実に反映している。
深刻な人手不足には、とにかく少人数施工のためICT化必須 ドローンやICT建機も積極活用へ

ただ、建設業界を取り巻く環境は厳しい。湯本常務はこの点について「現在はこの地域で進められている上信自動車道の建設は最盛期であり、当社が手掛ける工事は多い。しかし、完成後は工事の減少も考えられる」と今後の事業環境をシビアに見据える。さらに業界全体でも人手不足は深刻で、南波建設もその例外でない。
実際、かつては新卒採用を続けてきたものの、ここ10年は新卒採用が難しくなり、中途採用で補っている。さらに外国人も受け入れ、現在は在留資格を持ったベトナム人技術者2人を雇用しており、2025年4月には新たに2人のベトナム人技術者を採用した。人手不足は技術者ばかりかむしろ作業現場の方が深刻で、このため、南波建設は施工面でのICTの活用に積極的に取り組んでいる。
「人手不足を克服するには、とにかくいかに少ない人数で作業を進められるかが重要」とし、南波建設は上信自動車道の工事に備え2017年頃から施工のICT化に取り組み始めた。具体的にはかつては2人で当たってきた測量作業を1人でできるようにしているほか、自前で保有するドローンで工事の完成写真を撮影しており、さらに活用の幅を広げる方針だ。
施工現場のICT化について湯本常務は「昔はバックホーなどの建設機械はオペレーターの技術次第で工事の出来、不出来が左右された。ただ、今はICTを組み込んだ建機を活用することによって、極端に言えば運転さえできれば技術レベルに関係なく適正な施工ができるようになっている。ICT建機は保有しなくてもリースで利用できる機種も増えており、今後はより積極的に活用していくことが必要になってくる」と語る。
ICT建機にとどまらず、現在の建設現場では作業効率化や契約の適正履行を目的に、現場から離れた場所からWeb会議システムなどにより映像や音声を共有し確認作業に当たる遠隔臨場を国土交通省が推進している時代でもあり、DXの流れが加速している。南波建設もこれに対応して工事現場にタブレット端末を導入し、業務効率化に取り組もうとしている。
工事採算のカギを握る積算業務の精度向上を図るべく2人体制に 新たに初心者でも対応できる積算ソフトを導入

一方、建設会社にとって工事費用を算出する重要な業務である積算業務について、南波建設は積算の精度を高めるために新たな仕組みを取り入れた。請け負う工事の品質と精度を上げながらいかに予算を抑え利益を確保するかという意味で、工事採算の重要な鍵を握る積算業務の精度向上は欠かせない。このため、従来、営業担当の1人が担当していた積算業務を2023年に2人体制に切り替えた。
担当者1人が一つの積算ソフトで積算業務に当たった場合、思い込みなどから誤りが生じるケースもある。それを防ぐ観点から新たに公共土木工事向けの積算ソフトを導入し、2人体制でそれぞれ異なる積算ソフトを使って積算業務に当たる仕組みに切り替えた。
この積算ソフトはCADデータだけでなく、紙の設計図を複合機でスキャンして取り込むだけで積算ができる点が特徴だ。ほぼ7、8割程度の精度で工事費用を算出し、後は積算担当者が細かい部分を修正するだけで済む。
導入の狙いは積算精度の向上にあることは言うまでもない。ただ、もう一つの理由は2人体制に移行して新たに積算業務担当者となった社員が建設業とは無縁な業種から入社し、建設業界特有の積算業務が初めてという事情があったからだ。この点、導入した積算ソフトは、極端に言えばパソコンの基本知識と使い方を知っていれば素人でも高い精度で積算業務が可能なことから、導入に踏み切った。新ソフト導入後は積算精度の向上はもちろんのこと、従来に比べて積算のスピードも格段にアップしているという。
積算業務については、かつてはベテランの積算担当者が持つ経験や知識といったノウハウが求められ、属人化されがちだった。しかし積算ソフトの普及によってこの課題は解消されつつある。特に近年は積算ソフトメーカーが都道府県、自治体ごとの最新情報の提供で競い合うなど機能が高度化したソフト開発が進んでおり、初心者でも積算業務が担えるようになってきている。
バックオフィス業務では書類のPDF化を加速 ペーパーレス推進と社内情報の共有化を実現
また、バックオフィス業務の効率化に向けては現在、書類のPDF化を進めている。元々、少数の社員がAdobeのソフトは導入していたものの、社内外ともにPDFでやり取りするケースが増えてきていた。活用する社員も多くなったことから、新たに使用期限などを一括管理するサービスを導入した。
実際、自治体など発注元からの設計書もPDFで送られてくるし、メールでのやり取りも従来までExcelやWordで編集していたものをPDFに変換して送るように会社として改めている。狙いはペーパーレスの推進と社員間の書類の共有化で、これまで紙ベースで社内に回覧していた書類も現在はクラウド上でPDFを閲覧する形に切り替えた。
完全週休2日制をはじめ社員の働きやすい環境づくりを先取り 背景にあるのは「品位・明朗・責任」でのメリハリある職場環境

南波建設は施工のICT化やDXによる業務効率化に取り組む一方、働き方改革も率先して推進している。建設業界は慢性的な人手不足に加え、2024年4月には時間外労働規制が強化されるなど、労働環境は大きく変化しつつある。南波建設はこれに先駆けて2022年に完全週休2日制を導入し、年間休日は115日に設定している。さらに有給休暇を入社時に10日付与している。時間外労働についても2015年に毎週水曜日を「ノー残業デー」とするなど、建設業界としては早い時期から働き方改革に取り組んでいる。
「時間にメリハリをつけて仕事をした方が効率は良く、休日にはしっかり仕事のことを忘れて自分の時間を自由に使ってもらった方が、仕事に対しても良い効果が出る」と湯本常務は働き方改革に取り組んできた理由を強調する。南波建設の強みについて湯本常務は「とにかく技術者一人ひとりが丁寧な仕事を心がけている」点を挙げる。社訓として掲げる「品位・明朗・責任」を守る姿勢と、働きやすい環境作りがその強みを後押ししているようだ。
企業概要
会社名 | 南波建設株式会社 |
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住所 | 群馬県吾妻郡東吾妻町大字原町452 |
HP | https://www.namba-web.co.jp/ |
電話 | 0279-68-2511 |
設立 | 1952年12月 |
従業員数 | 48人 |
事業内容 | 土木一式工事、建築一式工事、舗装工事、生コンクリート製造販売 |