【VCインタビュー】コマース革命の旗手-New Commerce Ventures(前編)

“Create the Future of Commerce”

今回のインタビューでは、小売・流通のDXを加速する国内初のコマース特化型VCファンドを運営するNew Commerce Ventures株式会社の松山馨太さんと大久保洸平さんにお話を伺いました!

2部構成でお送りする今回の【前編】では、お二人のこれまでのキャリアやNew Commerce Ventures設立の経緯、New Commerce Venturesの組織体制について詳しく探っていきます。

コマースの最前線を支えるVCの視点から、新たな時代の潮流を紐解いていきます。

STARTUP LOGでは、VC・投資家のみなさまの活動紹介を行い、スタートアップ関係者にとって有益な情報提供をさらに拡充していきます。
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目次

  1. 松山さん・大久保さんのバックグラウンドについて
  2. New Commerce Ventures設立の背景
  3. New Commerce Venturesの組織体制について

松山さん・大久保さんのバックグラウンドについて

ーまず松山さんのこれまでのご経験やバックグラウンドについてお聞かせいただけますでしょうか。

【VCインタビュー】コマース革命の旗手-New Commerce Ventures(前編)
New Commerce Ventures 松山 馨太さん

松山氏:2008年に新卒でヤフーに入社し、広告営業を担当しました。入社2年目にヤフーがUSENから動画配信サービス「GyaO」を買収、そのタイミングでGyaOに出向しました。当時はまだテレビ番組がインターネット上で見られる環境ではなく、広告営業を行いながら、テレビ局とのインターネット上での番組配信や収益化の仕組みづくりに参加させていただき、現在のTVerの原型となるプロジェクトに携わりました。

もともと起業を目指してヤフーに入社したこともあり、その後、副業として地方創生系のメディアや観光体験のCtoCサービスに取り組みました。事業を成長させる難しさを痛感する中で、VC(ベンチャーキャピタル)の方々とお話する機会があり、VCの持つ経験値知に魅力を感じるようになりました。その流れで、ヤフーグループ内のYJキャピタル(現:Z Venture Capital)へ移り、VCとしてのキャリアをスタートさせました。YJキャピタルでは、主にシードステージの投資を担当し、シード投資を中心としたアクセラレータープログラム「Code Republic」の運営にも携わりました。そして、2022年にYJキャピタルを退職し、New Commerce Venturesを独立して設立しました。

ーありがとうございます。ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアは、ご自身の意思でスタートされたのでしょうか?

松山氏:そうですね。事業成長の課題についてVCの方々と話す中で、多くの気づきを得たことがきっかけです。それまで自分にはなかった視点を学び、VCの持つ事例やノウハウの豊富さに魅力を感じました。そこで、一度VCの世界で経験を積みながら、自分のスキルを高めたいと考えるようになりました。将来的にもう一度起業に挑戦したいという思いもあり、「まずはVCの経験を積みたい」と会社に申し出て異動。これが、ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアをスタートさせた経緯です。

ーでは、大久保さんのご経歴やバックグラウンドについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

【VCインタビュー】コマース革命の旗手-New Commerce Ventures(前編)
New Commerce Ventures 大久保 洸平さん

大久保氏:2015年に新卒でヤフーに入社し、ヤフーショッピング事業部に配属されました。営業職として出店者の売上向上を支援する業務に携わる一方、新規事業の立ち上げやECサービスの企画、広告戦略の立案などにも関わりました。

その後、社内異動でYJキャピタル(現:Z Venture Capital)へ。もともとEC領域に関わっていた経験を活かし、YJキャピタルでもEC関連の投資を中心に活動しました。具体的には、主にシリーズA以降のステージを対象に出資を行い、シードステージを担当していた松山さんとは異なる投資フェーズを担っていました。YJキャピタルで約5年間勤務した後、3年前に退職し、New Commerce Venturesを立ち上げました。

ー異動を経て、大きくキャリアチェンジされたと思いますが、その際の思いについてお聞かせいただけますか?

大久保氏:当時、ベンチャーキャピタルの具体的な仕事内容を深く理解していたわけではありませんでした。しかし、ヤフーがスタートアップから始まり、大企業へと成長した背景を知る中で、短期間で大きな産業を生み出すダイナミックな成長に魅力を感じていました。

その経験から、「次のヤフーのような大きな企業が生まれる初期段階」、つまりゼロからイチを生み出すタイミングに関わりたいという思いが強まり、VC業界に興味を持つようになりました。その結果、VCという職業を通じて、スタートアップを支援する道を選びました。正直なところ、当初は業界のことを完全に理解していたわけではありませんでした。それでも、強い関心を持ち、自ら飛び込んだことがVCキャリアのスタートでした。

ーでは、お二人にお伺いします。ファーストキャリアとしてヤフーを選ばれた理由を教えてください。

松山氏:もともと起業願望があり、大学時代にMySpaceやMixiの登場に衝撃を受けました。特にMySpaceの存在は大きく、バンド活動をしていた自分にとって、北海道の田舎では情報や機材へのアクセスが限られる一方、東京では簡単に手に入る現実を目の当たりにしました。

MySpaceが「音楽を通じて地理的制約を超え、作品を発表し収益化できる場」を提供していると知り、ネットで機会の格差を埋めるサービスを作りたいと考えるようになりました。起業を見据え、ネットサービスの多くが広告収入で成り立っている点に注目し、「ネット × 広告」を学べる環境を求めました。広告代理店やネットメディアを検討し、最終的にヤフーを選んでいます。映画、スポーツ、ビューティーなど多ジャンルの広告収益化を手がけ、幅広く学べる環境が整っていると感じたことが決め手でした。

大久保氏:大学院時代にシリコンバレーに行く機会があり、GoogleやTeslaなどの本社を見学しました。その際、自由闊達な雰囲気や、新しい産業を創出していくエネルギーを肌で感じました。その体験がきっかけで、日本での就職活動でも同じように急成長する市場に身を置きたいと思い、就職先を探していました。

その中でヤフーを選んだ理由としては、国内に本社があり、自ら意思決定を行いながらサービスを展開している点が特徴的だったことです。また、ヤフーには「ジョブチェン」という社内転職制度があることを知っており、入社後もさまざまなサービスに携われる可能性があると考えました。

結果的にヤフーショッピングを志望したのですが、当時、孫さんが「eコマース革命」を掲げ、楽天やAmazonが業界の王者である中、ヤフーショッピングは出店料や手数料を無料にするという大胆な戦略を打ち出していました。そのような変化が大きい環境で働きたいと思い、インターネット業界の中でも特にeコマースに魅力を感じてヤフーを選びました。

ーヤフーやYJキャピタルでのご経験が、現在どのように活きていると感じていますか?

松山氏:最も活きていると感じるのは、投資検討時の着目点を学んだことです。VC業務は未経験だったため、当時の経験がすべて基礎になっています。YJキャピタル時代には、投資先の企業数が約180社に達しており、幅広い投資先に関わる機会がありました。その中で、多くの経営者や先輩VCと対話し、成長するスタートアップの特徴を理解する経験を積むことができました。

また、投資先の経営者へのインタビューを通じて、初期段階で成功している企業の共通点を分析するプロジェクトにも携わりました。この経験を通じて、成功する企業がどのような戦略を取り、どのような特徴を持っているのかを体系的に学ぶことができました。現在の投資検討プロセスでは、当時得た洞察が今でも活きていると感じています。

大久保氏:まず、ベンチャーキャピタル業務そのものをYJキャピタルで初めて経験したため、現在の基盤となるスキルの多くが当時の経験に支えられています。それ以外では、ヤフーというインターネット業界の中心的な存在で働いたことが大きな財産になっています。そこでの経験を通じて、デジタル領域やインターネット産業が今後どのように進化していくのかを肌感覚で捉えられるようになりました。

特にYJキャピタルはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として、ヤフーやLINEの中長期的な戦略を考える役割も担っていました。そのため、事業部がどのような視点で意思決定を行うのかを、内部から直接学ぶ機会があったのは大きな経験です。

こうした経験のおかげで、現在、外部から業界を見ても、国内テックジャイアントの次の展開をある程度予測できるようになりました。それだけでなく、それらを支える企業の戦略や意思決定の背景も想像できるようになるなど、CVCで培った内部視点が、現在の投資活動や市場分析において大きく活かされていると感じています。

New Commerce Ventures設立の背景

【VCインタビュー】コマース革命の旗手-New Commerce Ventures(前編)

ーNew Commerce Ventures設立の背景をお聞かせいただけますでしょうか。

松山氏:私はYJキャピタルで3年間の経験を積んだ後、「もう一度起業したい」と考えていました。いくつかのビジネスアイデアを検討し、挑戦のタイミングを見計らっていた中で、大久保に相談する機会が増えていきました。彼はYJキャピタルの中でも特に優秀だと感じており、アイデアを共有して意見をもらうことが多かったです。

私自身、小売や物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関心がありました。以前の起業経験では地方創生にも取り組んでいましたが、地方では人口減少により小売業や物流業の維持が困難になる課題が顕著になっていました。スーパーの撤退や店舗縮小が進む中、これらの業界は生活インフラとして非常に重要です。これらの課題をテクノロジーの力で解決したいという思いが強くありました。

一方で、大久保はYJキャピタルやヤフーショッピング時代からEC(電子商取引)領域に強みを持っており、コマース領域のVCとして独立したいと考えていました。話を重ねるうちに、お互いの目指す方向が一致していることに気づいたのです。コマースやリテール領域のスタートアップを支援し、それらのテクノロジーを地方や全国規模の企業に導入することで、小売や物流の維持、成長につなげる。このビジョンを共有し、「それなら一緒にやろう」と意気投合してNew Commerce Venturesを立ち上げるに至りました。

ーなるほど。最初はご自身で小売や物流のDXを推進する会社の立ち上げを考えつつ、その方向性が大久保さんの考えと一致したということですね。

松山氏:そうです。もともと、小売や物流のDXに取り組む企業を立ち上げたいと考えていましたが、その構想を進める中で大久保も同じ方向性を目指していることが分かりました。大久保と組めば、より大きな挑戦ができると確信し、「一緒にやりたい」と思うようになりました。

ー 大久保さんはいかがでしたか?

大久保氏:子どもが生まれたことで、「この子が大きくなる頃には、より良い世の中になっていてほしい」と強く思うようになりました。そこで、「未来を創るのは誰か」と考えたとき、目の前でキャリアや人生を懸けて挑戦する起業家こそが、何よりも素晴らしく、かっこいい存在だと改めて感じました。そして、本気でベンチャーキャピタルに取り組むことを決意したんです。

次に考えたのは、自分にとってどのようなキャリア選択が最も価値のあるものかということでした。独立してVCを立ち上げるのか、現職でリーダーシップを取るのか、それとも他のVCに移りGP(ジェネラルパートナー)として活動するのか。いくつかの道がある中で、自分らしい挑戦を考えた結果、最も意義があり挑戦的なのは独立することだと確信しました。たとえ失敗したとしても、その経験自体に大きな価値があると感じていたからです。

ただ、独立するからには「負け戦は避けたい」という思いがあり、どのようにすれば競争力のあるVCを作れるのかを徹底的に考えました。その結果、一人で立ち上げるのは難しく、特化型でオンリーワンの強みを持つことが重要だと結論づけました。そして、誰と組むかを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが松山でした。

松山とは3年間一緒に働き、ビジネスの価値観も合い、自然と議論ができる関係性が築けていました。ファンド運営は長期にわたるものですが、信頼できる相手と始めることが何よりも重要だと考えていました。ちょうどその頃、松山と「起業を考えている」「VCをやりたい」という話をする機会が増え、お互いの目指すゴールや世界観が驚くほど一致していることに気づいたんです。「それなら一緒にやろう」と自然な流れで話が進み、New Commerce Venturesの設立に至りました。

New Commerce Venturesの組織体制について

【VCインタビュー】コマース革命の旗手-New Commerce Ventures(前編)

ーでは、組織体制についてお伺いしたいのですが、チームの体制や規模感などについて教えていただけますでしょうか。

松山氏:現在は完全に2人で運営しており、投資業務のすべてを共同で対応しています。投資先スタートアップとの向き合い方も、ソーシング、デューデリジェンス、投資実行、モニタリングといった一連の流れを、分担せずに2人でフルに関与する形をとっています。また、LP(出資者)とのディスカッションも同様に2人で行っています。

バックオフィス業務についても、基本的には2人で分担しながら対応しています。さらに、イベント開催や情報発信の頻度も比較的多く、その部分も役割を分けながら進めています。そのため、大きなチームを編成しているというよりは、少人数で柔軟に対応しながら、全体をカバーしている状況です。

ーありがとうございます。基本的には同じ役割をこなしつつ、お二人それぞれの強みや特徴に応じて対応されているイメージでしょうか?

松山氏:そうですね。基本的な役割は2人とも共通していますが、若干のバランスの違いはあります。例えば、投資業務の中心は大久保が担当し、私はバックオフィス業務を中心に担う形になっています。とはいえ、全体を2人でカバーしているため、大きな役割の差があるわけではありません。 また、来年に向けて2号ファンドの設立を計画しており、そのタイミングでチームを拡大したいと考えています。

大久保氏:具体的な人材要件は固まっていませんが、「New Commerce Venturesで一緒に挑戦したい」と思ってもらえる方がいれば嬉しいですね。私たちは領域特化型のベンチャーキャピタルとして、特定の産業でイノベーションを推進し、事業会社やスタートアップと共にエコシステムを構築していくことを目指しています。現在、「インダストリーベンチャーキャピタル」というコンセプトを掲げて活動しており、この考え方に共感し、一緒に取り組んでくれる方が増えると、とても心強いです。

(後編に続く)

後編はこちら:https://startuplog.com/n/n63c8a9956b07