最低賃金引き上げに対処する方法は?具体策や支援制度を紹介

目次

  1. 最低賃金引き上げの影響は?
  2. 最低賃金引き上げに対処する方法
  3. 最低賃金引き上げに対処する企業を支援する制度
  4. 最低賃金引き上げを機に生産性向上に取り組もう

最低賃金法に基づいて国が定めている地域別最低賃金は毎年改定され、その額は年々、上昇しています。企業にとっては、今後も進む労務費の増加に向けた経営環境の整備が求められます。
物価上昇や円高によるコスト増対策や人材難に悩む中小企業は、最低賃金引き上げという状況をどう受け止め、どのように対策を進めるべきなのでしょうか。そこで今回は、最低賃金引き上げに対処するための具体的な方法や、賃上げに関する国の支援制度についてお伝えします。

最低賃金引き上げの影響は?

地域別最低賃金の額は毎年上がっており、2023年には全国加重平均額が1000円を超えました。こうした最低賃金の引き上げは、中小企業の経営や業務にどのような影響を与えるのでしょうか。

人件費の負担増

最低賃金の引き上げは、企業の人件費の負担拡大につながります。特に、パート・アルバイト社員が多く活躍する企業は、最低賃金に合わせた時給の見直しが求められるため、その影響が大きくなります。労務費の増加が、企業の利益を縮小することも懸念されています。

また今後、さらに最低賃金は引き上げられる見込みです。そのため企業には、労働時間を抑えるための省力化の施策や、コスト削減の取り組みがよりいっそう求められます。

パート・アルバイト社員の労働時間減少

最低賃金の引き上げは、パート・アルバイトで働く従業員の労働時間の減少にもつながります。扶養の範囲内で働くことを希望する従業員が、年収の制限を超えないために賃金の引き上げ前よりも勤務時間を減らす可能性もあり、スタッフが不足することが懸念されます。

また企業が、人件費削減のため、時給で働くパート・アルバイトの採用や、非正規雇用従業員の労働時間を減らす方向に舵を切れば、正社員の業務負担が増える可能性があるため、注意が必要です。

最低賃金引き上げに対処する方法

では、最低賃金引き上げの影響を乗り越えるため、中小企業にできる取り組みとは何でしょうか。最低賃金引き上げに対処するための主な方法は、以下のとおりです。

業務改革や設備・システム導入によって生産性を向上

労働時間や残業時間を抑えながらも企業活動を円滑に進めるためには、生産性向上の取り組みが有効です。業務の棚卸によるムダの削減や、業務フローを見直すといった業務改革や、省力化につながる設備投資や、業務をサポートするITツールの導入によって、仕事の効率化を進めましょう。

生産性向上の取り組みは、人件費の安定だけでなく、長時間労働の是正や、従業員にとって働きやすい職場作りにもつながります。

従業員のスキルアップのための教育を強化

従業員のスキルアップや、仕事に活かせる新たな知識の習得を進める取り組みも、最低賃金引き上げへの対処法として有効です。ひとりひとりが自分の能力に合った職場で成果を上げて活躍できるよう、研修の実施やeラーニングの提供、また、外部セミナーの参加支援といった取り組みで、従業員の職業能力の向上を目指しましょう。

スキルアップ支援は、従業員の仕事に対するやりがいやモチベーションの向上、また職場へのエンゲージメントの強化にもつながります。優秀な従業員に長期にわたって活躍してもらうためにも、人材育成の取り組みを積極的に進めましょう。

賃上げのための価格の見直しを取引先に交渉

最低賃金の引き上げに対処する上では、取引先に対して、労務費の増加に応じた価格転嫁を進めることも重要です。最低賃金引き上げのルールに対応しながら、適切に従業員の賃金を上げていくために、適正な価格の実現に向けて交渉を行いましょう。

公正取引委員会は、企業が賃上げを進めるための施策のひとつとして、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定。サービスや商品の発注者や受注者が、賃上げに伴う価格転嫁に関してとるべき方法をまとめています。指針では、価格設定に関する課題を持つ受注側の企業は、国・地方公共団体の相談窓口や、商工会議所などの中小企業の支援機関に相談しながら、情報を収集して積極的に値上げの交渉に臨むべきとしています。

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(公正取引委員会)

最低賃金引き上げに対処する企業を支援する制度

最低賃金のルールへの対応や、賃金の引き上げを進める上では、厚生労働省や中小企業庁による支援制度を活用することも有効です。賃上げと同時に取り組む生産性向上や、人材育成に活用できる主な制度は、以下のとおりです。

業務改善助成金

賃金の引き上げとあわせて生産性の向上を進める中小企業と小規模事業者を支援する制度が、業務改善助成金です。機械設備の導入やコンサルティング、または教育訓練などを行うとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる中小企業に対して、設備投資等の費用に関して、最大600万円を支給します。

助成の対象は、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること、解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないことという要件を満たす中小企業・小規模事業者です。業務を支援する設備・ITツールの導入や、経営コンサルティングによる業務フローの見直しの費用などに活用できます。

費用に対する助成率は、事業場内最低賃金が900円未満の場合は9/10、900円以上950円未満では、4/5(生産性要件を満たした場合は9/10)、また950円以上の場合は3/4(生産性要件を満たした場合は4/5)です。支援の上限額は、最低賃金の引き上げ額や、引き上げる労働者の数によって定められています。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

キャリアアップ助成金は、契約社員やパートタイムなどの非正規雇用労働者のキャリアアップの取り組みを支援する制度です。この中の「賃金規定等改定コース」では、有期雇用労働者などの基本給を定める賃金規定において、3%以上増額する改定を行った場合に助成金を受け取れます。

対象は、雇用保険適用事業所の事業主であること、雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いていること、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、計画期間内にキャリアアップに取り組むなどの要件を満たす中小企業です(中小企業以外の場合は助成額が2/3程度)。

3%以上5%未満の賃金増額改定・適用をした場合は1人あたり5万円、5%以上の改定・適用をした場合は、1人あたり6万5000円の支援を受けられます。

人材開発支援助成金

従業員のスキルアップによる生産性向上に取り組みたい企業は、人材開発支援助成金を活用できます。従業員に対する職業訓練を実施した場合や、教育訓練休暇等制度を導入した場合に、訓練の経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。

人材開発支援助成金には、「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」「建設労働者認定訓練コース」「建設労働者技能実習コース」の6つのコースがあります。職務に適した職業訓練にかかる経費を助成するコースのほか、高度デジタル人材の育成や、新規事業立ち上げに必要な新しい分野でのスキル習得を支援するコースもあります。

事業の安定化につながる従業員のスキルアップだけでなく、自社のチャレンジを担う人材の育成にも活用しましょう。

最低賃金引き上げを機に生産性向上に取り組もう

最低賃金引き上げが中小企業に与える影響は少なくないものの、賃上げの検討にあたって、助成金の活用や取引先への値上げ交渉を進めることは、生産性向上や経営環境の見直しを進めるチャンスです。今後も続くコスト増や労務費の上昇に備えて、支援制度も活用しながら、業務の見直しや人材育成の取り組みを積極的に進めましょう。

最低賃金引き上げに対処する方法は?具体策や支援制度を紹介
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 ( リコージャパン株式会社運営
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