
目次
建設業においては、見積や受発注の際にやりとりされる帳票を電子化して送受信することを電子商取引と呼んでいます。
建設業の電子商取引は、公共発注でも民間でも導入が広まっています。特に民間では、発注側企業(ゼネコン等)と受注側企業(専門工事業者等)との調達・請求業務等取引での電子化が進んでいます。
電子商取引には多くのメリットがありますが、導入にはコストもかかります。無駄な投資をしないためにも、導入検討の電子商取引がどんなものかをよく理解しておきましょう。
2つの電子商取引、「EC」と「EDI」
最初に、そもそも「電子商取引」とはなにかを確認します。
本来の電子商取引は、EC(Electronic Commerce)のこと |
---|
「電子商取引」は、英語の「Electronic Commerce」(EC)を翻訳した言葉であり、インターネットなどの通信ネットワークを通じて、モノやサービスを売買することを指します。
一般消費者を対象としたBtoC領域であれば、大手通販サイト(ECサイト)によるショッピングなどがおなじみですね。
企業を対象としたBtoBの領域でも、例えば、業務用の部材や道具を1個単位で購入できる通販サイトがあります。あるいは、業務用のソフトウェアをインターネットのクラウド上で利用できるサービスとして提供しているWebサイトも多数あります(「ASP」や「SaaS」とも呼ばれます)。
こういったWebサイトを利用して、業務用の物品やサービスを売買することが、BtoB領域での電子商取引(BtoB EC)ということになります。
受発注契約等のデータを電子化する「EDI」も電子商取引に含まれる |
---|
一方、BtoBでの業務委託に際して、見積、受発注契約、請求等を、専用システムと通信ネットワークを用いて、データとして送受信する場合があります。このような仕組みのことを「EDI」と呼びます。
EDIとは「Electronic Data Interchange」の略で、日本語では「電子データ交換」になります。EDIは、あくまで電子データを交換するルールや仕組みのことなので、電子商取引(EC)とイコールの概念ではありません。しかし、EDIを利用して業務の受発注をすることも、広い意味での電子商取引に含めて考えられています。
BtoB ECとEDIの目的の違い |
---|
BtoB ECとEDIとは、そもそも異なる概念ですが、実際に利用する場合に即してみると、以下のように、目的やメリット、仕組みの違いがあります。
BtoB ECは、基本的に多くの不特定多数の顧客に対してモノやサービスを販売するための仕組みです。販売側がECを利用する目的は、販路の拡大です。また、購入側の主なメリットは、その場にいながらにして様々なモノやサービスを購入できることです。 BtoB ECにおいて、購入側が利用するのは、汎用的なWebブラウザやスマホアプリで、特別なシステムを導入する必要は通常ありません。販売側はECサイトを構築して決済システムなどを導入する必要があります。
それに対し、EDIは、少数の決まった取引先と数多くの帳票や書類をやりとりする場合に、その処理を効率化して生産性を向上することが主な目的となります。また、EDIを利用するには、受注側と発注側が同一のEDIの仕組み(仕様)に基づくシステム(ソフト)を導入する必要があります。
建設業における電子商取引
建設業における電子商取引システムは、主に見積や受発注の際に用いられ、EDIの仕組みを使ったシステムと、帳票をPDF化してやりとりするシステムとに大別できます。
以下では、前者のEDIの仕組みを使った電子商取引のことを「電子商取引(EDI)」と表記します。
電子商取引(EDI)を用いた受発注システムは、データの利活用がしやすく業務効率化に有効 |
---|
建設業といっても、様々な分野、業態がありますが、発注側企業(ゼネコン等)から工事を受注している中小ゼネコンや専門工事会社の場合、特定の発注企業と繰り返しの取引をすることが多いでしょう。このような場合は、EDIを用いることが業務効率化に有効です。
建設業における電子商取引(EDI)の仕組み
建設業における電子商取引(EDI)は、下記のような業務について、専用システム(ソフトウェア、Webサイトなど)から、システムごとに定められた形式でデータを作成して、送受信するというものです。
・基本契約業務(基本契約締結)
・見積業務(見積依頼・回答)
・契約業務(確定注文・注文請け)
・出来高・請求業務(出来高要請・報告・確認/請求・請求確認)
・資機材等取引業務(資機材等取引・確認)
電子商取引(EDI)に必要なシステム |
---|
建設業の電子商取引(EDI)を利用するには、専用のシステムが必要になります。
これは、建設業EDI電子商取引システム、あるいは受発注システムといったジャンル名称で、パッケージソフトやクラウドサービス(ASP:Application Service Provider)の形で、複数のソフトウェアベンダーから提供されています。
複数のソフトウェアが存在しますが、デファクトスタンダード(事実上の標準)として市場シェアの多くを占めているような製品はいまのところ存在していません。
国土交通省が定めた標準的なEDI、「CI-NET」とは |
---|
国土交通省が、建設業界のDXを推進するために、電子商取引に関するEDIの標準的なルールとして定めているのが、「CI-NET」です。
CI-NETは、現在約20,000社の建設関連会社が活用しており、大手ゼネコン、中堅ゼネコンから地場ゼネコンや専門工事会社の多くが利用しています。
なお、CI-NET自体はEDIのルール(規格)であり、それを利用した具体的なソフトウェアサービスは、複数のソフトウェアベンダーが提供しています。
建設業における電子商取引では、契約業務(注文・注文請け)の実施にあたり、建設業法施行規則第13条の2 第2項に規定する「技術的基準」に関わるガイドラインで定められた3要件(見読性の確保、原本性の確保(改竄防止)、本人性の確保)を確保する措置が必要となります。
CI-NETサービスでは、発注側・受注側の双方で電子証明を利用する等により3要件を確保し、なりすまし防止等のセキュリティー対策を講じています。
帳票のPDF化による電子商取引 |
---|
電子メールのメール本文で見積や受発注を伝えたり、エクセルファイルなどをメール添付で送受信したりする方法もあります。また、PDF化した帳票を用いる専用の電子商取引システムのサービスも提供されています。これらは、EDIとは仕組みが異なります。
これらには、導入のハードルが低いなどのメリットはありますが、以下で述べるEDIのメリットの多くを享受できません。
建設業で電子商取引(EDI)を導入するメリット
建設業で電子商取引(EDI)を導入すると、以下のようなメリットがあります。
見積、請求等の業務の効率化 |
---|
帳票作成を電子化することで、紙やエクセルなどでは発生しがちな、帳票の転記ミスや二重入力、紛失などの可能性が減ります。見積、契約、出来高、請求まで、同じデータを一気通貫で使用することができます。
また、以前に作成した見積等のデータの流用も簡単で、送受信の時間も短縮できます。これらによって、見積や請求業務が効率化、時間短縮でき、生産性が向上します。
バックオフィス業務全体の効率化にもつながる |
---|
電子商取引(EDI)システムで作成したデータは、会計システムや原価管理システムなどの自社システムとのデータ連携が可能です。データ連携を進めれば、見積や受発注業務だけではなく、バックオフィス業務全体での生産性向上につながります。
また、電子商取引の作業は場所を選ばないため、リモートワークの推進にもつながります。
コスト削減 |
---|
電子化により、書類を印刷、郵送する必要がなくなります。また紙をファイリングして保管する必要もありません。これらにより、紙、プリントインク、ファイル、保管場所、郵送費などのコストがすべて不要になります。さらに、電子契約により収入印紙も不要になります。
また、事務作業の生産性向上により残業が削減できれば、人件費も削減できます。
インボイス、電子帳簿保存法などへの対応もしやすくなる |
---|
請求業務を電子化することで、インボイスや電子帳簿保存法への対応も容易になります。
人材の採用、定着 |
---|
建設業では人手不足が続いています。優れた人材を採用、定着させるためには、効率的な業務環境が整っていることも大切です。
建設業で電子商取引(EDI)のデメリット
電子商取引(EDI)導入にはデメリットもあります。
導入コスト、ランニングコスト |
---|
まず、当然ですが、システムの導入費用やクラウドサービスの場合は月々のランニングコストが必要です。
ベンダー、ソフトウェアがIT導入補助金に対応している場合もあるので、確認してみましょう。
学習コスト |
---|
もう1点は、システム利用にあたっては、ある程度の学習が求められることです。短期的には学習コストはかかりますが、長期的にはメリットのほうが大きいでしょう。比較的ITリテラシーの高い若手社員を、システム担当にするという方法もあります。
また、電子商取引システムを提供しているベンダーは、通常、ユーザー用ヘルプデスクを設置し、初心者にもわかりやすくサポートしてくれるので、それほど心配はいりません。
ただし、システムの内容を経営者が把握できていないと、なにか問題が生じたときに困るので、担当者まかせにせず、経営者自らも、システムについて学ぶ姿勢が求められます。
電子商取引(EDI)をどのように導入するか
電子商取引(EDI)のシステムには多種多様な製品が存在します。どのように選定、導入すればいいのでしょうか?
発注元のシステムとあわせることが基本 |
---|
システムの選定方法は単純です。EDIはその仕組み上、取引先と同一、あるいはデータ互換性のあるシステムを導入しなければ、利用できません。
そこで、基本的には取引先(元請会社)が利用しているシステムと同じシステムを導入することになります。
ただし、EDIの仕組み上、例えば自社に発注する元請け会社の3社がそれぞれ異なる電子商取引(EDI)システムを利用していた場合、すべてのEDIに対応しようとすると、自社は3つのシステムを導入しなければなりません。
そういった状況の場合は、もっとも売上割合の高い元請けと同じシステムから導入するなど、優先順位を考える必要があるでしょう。
なお、CI-NETの場合は、システムが異なってもデータは互換性があります。
コンサルタントやヘルプデスクの活用も |
---|
自社が発注側となり、協力会社と共に、電子商取引(EDI)を新規に導入しようとする場合は、コンサルタント会社やソフトウェアベンダーのヘルプデスクなどに相談したほうがいいでしょう。利用するグループの規模や求める機能などにより、最適な製品は異なります。
電子商取引の導入が難しい場合にはAI-OCRなどで事務効率化も
業務効率化のために電子商取引を導入したいと思っても、発注側の企業などから、紙の書類(またはそのPDF)での起票を求められるといった理由により、紙の書類を残さざるを得ない場合もあるでしょう。一部でもそういった取引先がある限り、全面的に電子商取引に移行するわけにはいきません。
そのような場合は、電子商取引導入の前に、あるいは併用して、AI-OCRなどのデジタルツールを用いて業務効率化を図る方法もあります。
AI-OCRは、従来のOCRに、AIによる学習機能を付加したツールで、AIに学習させることで、フォントだけではなく、手書き文字の認識率も高めることができます。AI-OCRに手書きの書類を読み込ませることで、書類の整理や保管の効率が向上します。
手書きの書類を多く作成している企業であれば、導入を検討してもよいでしょう。
まとめ
建設業では、もちろん施工現場業務をしっかりとこなすことが大切ですが、バックオフィス業務をIT化し、スピーディーで間違いのない見積・受発注・請求業務を心がけることも、取引先からの信頼を得るためには欠かせないポイントです。
それに加えて、人材不足時代の業務効率化を考えると、建設業でも電子商取引(EDI)による経営革新を進めることは必須だといえます。

鶴田 隼人(つるた・はやと)
一般財団法人建設業振興基金 金融・経理・契約支援センター 情報化推進室

中小企業応援サイト 編集部 ( リコージャパン株式会社運営 )