目次
- 地域の廃食用油再生のリーディングカンパニー
- 国内で年間約40万トンにのぼる廃食用油は有用な資源 低コストでコンプライアンスを徹底したサービスを提供している
- 地域の環境保護活動に取り組む協働ネットワーク、ぐりんぐりん古賀に参画 2023年7月には廃食用油回収ボックス4台を古賀市に寄贈
- クラウド型の車両運行管理システムを導入し、効率的に廃食用油を回収 一日あたりの回収件数は1.5~2倍に向上した
- 会計、販売管理、在庫管理の各システムをクラウド化 場所に縛られず仕事をするためノートパソコンも導入して働き方を改革
- 追跡記録、許可証、契約書などのデータ保存にNASを活用 VPNサーバーとしても活用している 従業員の出退勤の記録も紙製のタイムカードからICカードでデジタル化
- 「古賀市ごみ減量化推進優良事業所」として認定 ペーパーレス化の推進に複合機のスキャン機能を活用している
- ホームページで廃食用油の再生工程を写真付きで詳しく説明
- より良い未来に向けて社会に必要とされる新しい取り組みを前に進める
生活に欠かせない料理に使う食用油の適正処理は、環境保護の大きなテーマだ。廃棄されて川や海に流れると環境汚染を引き起こし、焼却処理すれば二酸化炭素の発生を増やすことにつながってしまう。福岡県古賀市に本社を置く小寺油脂株式会社は、環境に大きな影響をもたらす使い終わった食用油を回収し、有用な資源としてリサイクルする事業に取り組み、地域の環境保護活動にも積極的に携わっている。環境保護に取り組む企業のロールモデルになることを目指して、デジタル技術を活用した業務効率化やペーパーレス化に前向きに取り組み、「古賀市ごみ減量化推進優良事業所」として認定。これからの循環経済(サーキュラーエコノミー)を目指して活動を続けている。(TOP写真:廃食用油をリサイクルする過程で油水分離タンクを使って不純物の除去作業に取り組む小寺油脂の従業員)
地域の廃食用油再生のリーディングカンパニー
食品会社の工場が集積する福岡県古賀市で、1983年10月に設立された小寺油脂は、地域の廃食用油再生のリーディングカンパニーだ。主に福岡県内のファーストフードをはじめとする外食やコンビニエンスストアのチェーン店などで調理に使われた年間4千数百トンの廃食用油を自社トラックで回収。本社と併設した工場で、鶏や豚の畜産飼料や環境負荷の低いバイオマス燃料(SVO)としてアスファルト製造時の重油代替燃料やバイオマス発電などにも活用されている。
国内で年間約40万トンにのぼる廃食用油は有用な資源 低コストでコンプライアンスを徹底したサービスを提供している
「お客様の視点に立って、低コストでコンプライアンスを徹底したサービスを提供しています。資源の乏しい我が国にとって、国内で年間約40万トンにのぼる廃食用油は有用な資源です。廃食用油の回収を通じて地域の環境保護に貢献すると同時に、活用できる資源として再生することで産業面でもしっかりと貢献していきたいと考えています。様々な業務の効率化に役立つICTやデジタル機器は、環境に配慮した取り組みとの親和性が高いので、費用対効果を考えながら積極的に活用するようにしています」。企業団地の一角にある小寺油脂の本社で取材に応じた原田典元(のりちか)代表取締役社長は、明るい表情で快活に語った。
地域の環境保護活動に取り組む協働ネットワーク、ぐりんぐりん古賀に参画 2023年7月には廃食用油回収ボックス4台を古賀市に寄贈
小寺油脂は、地域の環境保護活動に積極的に携わっている。その一つが、古賀市内の住民、ボランティア団体、企業、行政が連携して地域の様々な環境保護活動に取り組む協働ネットワーク、古賀市環境市民会議(ぐりんぐりん古賀)への参画だ。2012年の設立当初から企業会員として登録し、資金援助も行っている。
ぐりんぐりん古賀は、古賀市内の河川の清掃、環境保護の啓発イベントの企画、市内に生息する動物や昆虫の観察・調査といった多彩な活動を展開している。2023年7月には、使い終わった食用油のリサイクルに対する市民意識の向上を目的に、廃食用油回収ボックス4台を古賀市に寄贈した。回収ボックスの寄贈で小寺油脂は旗振り役としての役割を果たし、集まった廃食用油の回収も担当している。
古賀市は廃食用油回収ボックスを、アクセスしやすい市役所などの公共施設と市内の商業施設にそれぞれ2台ずつ設置している。家庭で使用した食用油を可燃物として処理する際は、紙に吸わせたり固めたりといった煩わしい作業が必要になるが、市民は公共施設や商業施設に立ち寄ったついでにペットボトルなどに入れた廃食用油を回収ボックスに収めるだけで処理できるようになった。
小寺油脂は、ぐりんぐりん古賀の取り組みと連動しながら、各家庭からの不要になった廃食用油だけでなく、賞味期限の切れたサラダ油などの回収にも力を入れていきたいと考えている。食品廃棄物や剪定された枝などのバイオマス資源のリサイクルにも取り組む方針も示す。今後、自治体と連携して各家庭から廃食用油を回収する取り組みをほかの地域にも広げていきたいという。「事業所だけでなく各家庭からも廃食用油を効率的に回収する仕組みを整えることで、地域の環境保護に貢献していきたい」と原田社長は話す。
クラウド型の車両運行管理システムを導入し、効率的に廃食用油を回収 一日あたりの回収件数は1.5~2倍に向上した
小寺油脂が環境保護とともに力を入れているのが、デジタル技術の活用による業務の効率化だ。自社トラックを使った廃食用油の回収業務を効率化するために2021年からクラウド型の車両運行管理システムを導入し、トラックにGPS機能を備えたタブレット端末を配備している。
小寺油脂が廃食油回収の契約を結んでいる事業所は千数百ヶ所を数え、複数の自社トラックを使って毎日様々なコースで回収作業にあたっている。トラックを運転する回収作業の担当者は、タブレット端末に表示される最適な回収ルートや回収先の詳細な情報を通じて効率的に巡回することができる。
システムには、収集車両の位置、時間、収集状況の情報を事務所と車両間だけでなく車両同士でもリアルタイムに共有することができる機能や日報を短時間で作成できる機能も備わっている。システムを導入したことによって、一日あたりの回収件数は1.5~2倍に向上し、燃料費の節減や担当者の作業負荷の軽減と労働時間の短縮につながっているという。
システムは、事業者が排出した廃棄物の引き渡しの記録(マニフェスト)の電子化にも対応している。環境省により認定された電子マニフェストシステム、JWNETとの連携も可能だ。タブレット端末に現場で記録したデータをそのまま電子マニフェストに反映できるので、以前は紙ベースで行っていたマニフェストを代行起票する業務が楽になっただけでなく、ペーパーレス化の推進につながっている。
「システム導入の効果は想定以上でした。回収ルートに慣れるまでの時間も短縮できるので、新たな人材を迎え入れた際の育成もスムーズに進みそうです」と原田社長は笑顔で話した。
会計、販売管理、在庫管理の各システムをクラウド化 場所に縛られず仕事をするためノートパソコンも導入して働き方を改革
小寺油脂は基幹業務でもデジタル技術の活用を進めている。2024年7月から本社と長崎県内の子会社で、既存の会計、販売管理、在庫管理の各システムをクラウドサービスに移行した。場所に縛られずに各システムにアクセスできるようにしたことで、より多様な働き方の実現とBCP(事業継続計画)の強化につなげている。また、本社から離れた場所でも仕事をしやすいように、本体だけでデータ通信ができる機能を備えた小型のノートパソコンを4台導入した。社外でWeb会議に参加する時にも活用しているという。
本社と子会社の各システムをクラウド化したことによって、出張などで本社を離れた時でも、以前なら本社のパソコンでしかできなかった会計や販売状況のデータを確認できるようになった。本社から子会社のデータの確認もできるようになったので、子会社のパソコンに保存したデータを確認するために、担当役員が毎月長崎県に出向く必要もなくなったという。
原田社長も全国油脂事業協同組合連合会のコンプライアンス室長・有効利用委員会委員長などの業界団体の役員を務め、出張することも多いのでクラウドサービスを重宝している。「以前は社外にいる時に過去のデータが必要になった時は、本社にわざわざ電話をして確認しなければなりませんでした。今は、いつでもどこでも確認できるので本当に便利になりました。会社全体の仕事のスピード感も各段に上がりました」と原田社長。
追跡記録、許可証、契約書などのデータ保存にNASを活用 VPNサーバーとしても活用している 従業員の出退勤の記録も紙製のタイムカードからICカードでデジタル化
小寺油脂は、過去の廃棄物の受け渡しから再資源化までの追跡記録、許可証、契約書などのデータをNAS(ネットワーク接続型ストレージ)に記録している。追跡記録を保存、管理、活用する上でも業務のデジタル化はその利便性、確実性、透明性を高めてくれているという。2024年7月にはNASをVPN(仮想専用線)サーバーとして活用できるようにして本社の外からの接続機能を高めた。
現在、紙製のタイムカードで行っている従業員の出退勤の記録も近く、勤怠管理システムを活用してデジタル化する。現在は、月ごとにタイムカードの記録を給与計算システムに手作業で入力しているが、勤怠管理システムを活用すれば、従業員がICカードを使って記録した出退勤の時刻がそのまま給与計算システムに反映できるようになる。
「定型業務のデジタル化を進めなければ、これから先の人手不足の問題を乗り切っていくことは難しい。情報の共有化を進めて仕事の属人化を解消するとともに、これから入社してくる従業員がすぐに仕事になじめる仕組みを整えていきたいと考えています。働きやすい環境づくりにこれまで以上に力を入れていきたい」と原田社長は話した。
「古賀市ごみ減量化推進優良事業所」として認定 ペーパーレス化の推進に複合機のスキャン機能を活用している
小寺油脂は「古賀市ごみ減量化推進優良事業所」として同市から認定を受けている。ペーパーレス化はもちろん、コピー用紙の裏面使用を行うといった取り組みのほか、廃食用油の回収に使う一斗缶を食品容器として再生するためリサイクル業者に引き渡すといった取り組みを進めている。紙の書類をデジタル化してペーパーレス化を進める上で複合機のスキャン機能は欠かせないという。「紙の書類をデジタル化することで物理的な保管場所を最小限にすることができますし、検索機能を使って必要な書類を効率的に見つけることができるので本当に助かります」と原田社長。今後、複合機に備わっているOCR(光学文字認識)の機能も活用していきたいという。
ホームページで廃食用油の再生工程を写真付きで詳しく説明
小寺油脂は、企業向けのホームページ作成システムを使って2021年3月にホームページをリニューアルし、会社の事業内容とともに工場での廃食用油の再生工程を写真付きで詳しく説明している。本社の業務と関連した農林水産省、環境省、全国油脂事業協同組合連合会などへの外部リンクも豊富に設置している。機動的な情報発信を通じて自社の取り組みを知ってもらうだけでなく社会の環境保護意識の醸成にも活用していきたいという。
より良い未来に向けて社会に必要とされる新しい取り組みを前に進める
「デジタル技術の力を借りて、社会に必要とされる新しい取り組みをどんどん前に進めていきたい」と意欲的に話す原田社長。今後は廃食用油だけでなく廃棄物全般のコンサルティングや一元管理システムの提供といった新規事業も検討していきたいという。現場と基幹業務の両面でデジタル技術を活用して業務を効率化することで、小寺油脂はこれから先の取り組みに時間を振り向けている。持続可能なより良い未来を築くことを目標に、着実に歩み続けている。
企業概要
会社名 | 小寺油脂株式会社 |
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本社 | 福岡県古賀市糸ヶ浦38番地 |
HP | https://www.e-aozora.net |
電話 | 092-942-4586 |
設立 | 1983年10月 |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 産業廃棄物収集運搬業(廃食用油)、産業廃棄物中間処理業(廃食用油)、食品産業より排出される廃食用油の回収並びに再精製事業(飼料用・工業用原料・燃料用) |