目次
- 開放型の福祉農園を運営 半世紀前から農福連携を推進 大事にしているのは「人と人がつながって生きていることの大切さ」
- 農場の敷地内で利用者の入所施設、通所施設のほかショップや地産地消のレストランも運営
- 茶の栽培と養豚を主要事業に、様々な作物を栽培 利用者一人ひとりの個性に合わせた仕事で生産し、付加価値を生み出す第6次産業へ
- 地域の交流拠点としても大きな役割 「ノウフク・アワード2020」ではグランプリを受賞
- 1972年に法人設立 職員と利用者が共に汗を流し共に育つ精神を大事にしてきた
- 障がい者福祉向けの業務支援システムを活用することで利用者の記録や請求作業を効率化 業務にかかる時間は導入前の1/3へ
- 鹿児島県内で運営する12の事業所の円滑な情報共有をクラウドストレージサービスで実現 グループチャット機能も効果的に活用
- Web会議システムを活用することで、会議の際の移動をなくし、時間を有効活用
- 地域の連携組織 大隅半島ノウフクコンソーシアムでの取り組みを通じて活性化にデジタル技術の活用
- 生成AIの活用にも関心 法人内のDXをこれからも推進する
障がい者が農業分野で働くことを通じて社会参加を実現する取り組みとして、注目を集めている農福連携。鹿児島県の大隅半島南部に位置する肝属郡南大隅町で、開放型福祉農園「花の木農場」を中心に障がい者支援に取り組む社会福祉法人白鳩会は、半世紀前から農業を主要事業として営む農福連携のパイオニアとして知られている。農福連携を通じて、地域の6次産業化の推進にも貢献。ICTとデジタル機器を活用することで施設の利用者を支える職員たちの業務を効率化し、障がい者の新しい生活の形、労働の形を育んでいる。(TOP写真:白鳩会が運営に携わる花の木農場)
開放型の福祉農園を運営 半世紀前から農福連携を推進 大事にしているのは「人と人がつながって生きていることの大切さ」
白鳩会が運営に携わる花の木農場は、南大隅町の自然豊かな田園地帯にある。農地面積は約40ヘクタール。白鳩会が大事にしてきた農福連携の取り組みを象徴する開放型の福祉農園だ。障がいを持った人たちが一人ひとりの能力を生かして、社会とつながりを持ちながら働いている。
「花の木農場は障がい者のための生産活動の場としての役割を果たすだけでなく、多くの人に喜んで訪れていただける地域の交流拠点でありたいと思っています。障がい者と一緒に取り組む農作業や食品づくりを通じて、人と人がつながって生きていることの大切さに改めて気づいていただくことを願って運営しています。障がいがあっても自分らしく生きていくことへの理解を花の木農場を通じてより一層深めていただけたらうれしいですね」。白鳩会の中村隆一郎理事長は、このように花の木農場を運営する上で大事にしている思いを話した。
農場の敷地内で利用者の入所施設、通所施設のほかショップや地産地消のレストランも運営
農場内に入ると、美しい山並みを背景に一面に広がる緑の茶畑、農地、親水空間、風景に溶け込んだ瀟洒な外観の建物が目に入る。敷地内には利用者が働く入所施設「花の木ファーム」と通所施設「第2花の木ファーム」、グループホームのほか、自家養豚の豚肉料理が食べられるレストラン、自家製のジェラートを味わえるカフェ、野菜、緑茶、パン、焼き菓子を販売するアンテナショップがある。生産した食品は農場だけでなく、県内の鹿児島市、鹿屋市に設けているアンテナショップやレストランでも販売している。
茶の栽培と養豚を主要事業に、様々な作物を栽培 利用者一人ひとりの個性に合わせた仕事で生産し、付加価値を生み出す第6次産業へ
花の木農場では、茶の栽培と養豚を主要事業に、米、ニンニク、トマトなど様々な作物を栽培。茶の生産に関しては、農業生産工程管理の国際認証であるASIAGAPを取得している。認証を取得することで、販路拡大だけでなく、農場内の労働安全や労務管理の体制を整備することにもつながっているという。
花の木ファームの利用者が作物の栽培や養豚を担当し、第2花の木ファームの利用者がハム、ソーセージ、惣菜などへの加工を担当。施設の利用者に高い賃金を支払うことを目指して、農作物の栽培や養豚だけでなく、付加価値を生み出すために加工、流通、販売まで手掛ける6次産業化に力を入れてきた。利用者一人ひとりの個性、障がいの程度、年齢などに合わせて仕事を配分し、それぞれの能力を最大限に発揮できるようにしている。
地域の交流拠点としても大きな役割 「ノウフク・アワード2020」ではグランプリを受賞
花の木農場は地域の交流拠点としての役割も果たしている。利用者が、職員だけでなく地域の幅広い人たちと交流することは、より豊かな地域生活を送る上で大きな効果をもたらしているという。花の木農場は、農福連携の取り組みとともに積極的に地域活性化に取り組んでいることが評価され、官民の連携組織、農福連携等応援コンソーシアムが主催した「ノウフク・アワード2020」でグランプリを受賞した。毎年秋には地域の人たちと利用者たちが交流する「ハナノキフェス」を開催。2024年は、俳優の松山ケンイチさんをゲストに迎え、コンサートやシンポジウムなど多彩なイベントを行った。
1972年に法人設立 職員と利用者が共に汗を流し共に育つ精神を大事にしてきた
白鳩会の取り組みは皇室からも高い評価を受けている。2002年12月には天皇陛下から金一封を賜った。また、2024年、天皇皇后陛下主催の春の園遊会に中村理事長夫妻は宮内庁から招待を受け、出席した。
白鳩会は1972年の法人設立以来、知的障がい者福祉の向上と地域ぐるみで障がい者を支える体制づくりに力を注いできた。事務所は白鳩会の発祥の地といえる入所施設、おおすみの園に置いている。職員と利用者が共に汗を流し共に育っていくことを意味する「共汗共育」の精神を大事にしている。
白鳩会は設立間もない頃から、利用者の自立した生活を支援していくために、安定した収益基盤となる事業を手掛ける必要があると考え、積極的に農業に取り組んできた。社会福祉法人が農地を取得する上での規制に対処するため、1978年に農事組合法人を設立して地域の耕作放棄地を取得するなどして農地を広げていった。「農業への挑戦が実を結んだ背景には、白鳩会を立ち上げた先人たちの熱い思いと努力がありました」と中村理事長は白鳩会の歴史を振り返りながら話した。
2000年以降、都市部の鹿児島市内でもアンテナショップや障がい者の生活と就労を支援する通所施設などを運営。同市内のアンテナショップでは、自家製の豆腐やジェラートなどと共に花の木農場で生産した緑茶、豚肉、惣菜などを販売している。
「障がいを持った人が一般社会で自立して生活していくことは簡単ではありません。白鳩会はそのような状況を少しでも変えていきたいと考え、障がいを持つ人の新しい生活の形や労働の形を育ててきました。障がいのあるなしに関わらず、すべての人が命を育みながら互いを理解し、成長していく。白鳩会はそのような法人であり続けたいと思っています」と中村理事長は柔らかい表情で話した。
障がい者福祉向けの業務支援システムを活用することで利用者の記録や請求作業を効率化 業務にかかる時間は導入前の1/3へ
社会福祉業界の人手不足が慢性的な課題となる中で、白鳩会はICTやデジタル機器を活用した働き方改革に取り組んでいる。「デジタル技術を活用してこれまで時間がかかっていた業務を効率的に行えるようにすることで、職員の負担を軽減しています。時間を生み出すことで、利用者の皆さんとのコミュニケーションのより一層の充実や、これから先の新しい取り組みを考えるゆとりを生み出すことにつなげています」と中村理事長は話した。
必須の業務である施設の利用者の記録や障害福祉サービス費の請求作業を効率化するために活用しているのが、2023年10月に導入した障がい者福祉向けの業務支援システムだ。タブレット端末に入力した利用者のバイタルデータ、食事、日常生活、参加したレクリエーションなどの記録が、そのまま障害福祉サービス費の請求システムに反映される仕組みになっている。業務支援システムを導入したことで記録や転記といった作業の手間がかからなくなった。
「システムを導入するまで利用者の皆さんの記録は紙の用紙に手書きで行い、システムに入力し直していたため、毎月トータルで3日程度の時間を取られていました。現在はタブレット端末を使って画面にタッチするだけで記録が完了するので本当に助かっています。障害福祉サービス費の請求業務は、入力作業の必要がなくなったので確認に集中するだけで済むようになりました」と支援係長の堀鮎美さん。転記の必要が一切なくなったことで、請求書作成業務にかかる時間は以前の三分の一程度になったという。
「タブレット端末は直感的に操作できるので、デジタル機器に不慣れなベテランの職員でもすぐに使いこなせるようになりました。すべての仕事のスピード感が格段にアップしたように思います」と総務担当の牧原知広さんは話した。タブレット端末は、停電などの緊急時に一時的にネットにつながらなくなっても、端末内に記録内容を保存できる機能も備えているので、安心して使うことができるという。
鹿児島県内で運営する12の事業所の円滑な情報共有をクラウドストレージサービスで実現 グループチャット機能も効果的に活用
白鳩会は鹿児島県内で入所施設、通所施設、グループホームなど12の事業所を運営し、約140人の職員が約200人の利用者をサポートしている。日々の活動に必要な情報を法人全体で共有し、コミュニケーションを円滑にするために文書や写真など様々なデータファイルをクラウド上で保存できるストレージサービスを2019年から活用している。
「ストレージサービスを導入するまで、法人内で情報を共有する際の手段は、メールのやり取りや電話が中心で、USBメモリーを使うこともありました。各事業所で業務に使っているパソコン同士も連携していなかったため、情報の共有には大きな壁がありました」と中村理事長は振り返る。クラウドに情報をアップロードすることで、通信環境が整っていればどこからでも情報にアクセスすることが可能になったことで、情報共有の課題は一気に解決。ストレージサービスに付随しているグループチャット機能を使うことで現場同士の情報交換も機動的に行えるようになったという。
Web会議システムを活用することで、会議の際の移動をなくし、時間を有効活用
ストレージサービスと合わせてWeb会議システムも活用している。白鳩会は各事業所の代表者を含めた法人幹部の会議を毎月、花の木農場で開催している。鹿児島市内から南大隅町までは自動車で片道2時間以上かかるため、同市内の事業所の幹部にとって移動の負担は大きい。以前は直接足を運ばなければならなかったが現在は、ほとんどの会議をWeb会議に切り替えたので、移動に使っていた時間を有効活用できるようになった。他の団体の役員を務めていることから外出する機会が多い中村理事長も、Web会議システムを重宝しているという。職員を対象にした障がい者福祉のオンライン研修にもシステムを積極的に参加している。
地域の連携組織 大隅半島ノウフクコンソーシアムでの取り組みを通じて活性化にデジタル技術の活用
白鳩会の農福連携の取り組みは広がりをみせている。2021年5月には、大隅半島の自治体や農業関係企業などが地域の農福連携を推進するために大隅半島ノウフクコンソーシアム(ONC)を結成した。ONCには人材育成やまちづくりに関心を持つ約60団体が加盟。白鳩会も事務局を務めるなど重要な役割を果たしている。ONCは現在、観光振興、新商品開発、情報発信といった様々な活動に取り組んでいる。「コンソーシアムの活動を通じて地域に新しいネットワークが広がってきました。今後、情報やノウハウを共有して、様々な企画を考案することにもデジタル技術を活用していきたい」と中村理事長は話した。
生成AIの活用にも関心 法人内のDXをこれからも推進する
中村理事長は生成AIの活用にも関心を寄せている。様々なシステムを連携することで法人内のDXを推進し、花の木農場をはじめとする施設の更なる充実を図っていきたいという。白鳩会の農福連携の取り組みは地域の活性化に大きなインパクトを与えている。外部との連携を強化して、新しい取り組みに挑戦する上でデジタル技術はこれからも大きな役割を果たすはずだ。
企業概要
法人名 | 社会福祉法人白鳩会 |
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本社 | 鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北2105 |
HP | https://shirahatokai.jp |
電話 | 0994-24-2517 |
設立 | 1972年12月 |
従業員数 | 141人 |
事業内容 | 入所施設、通所施設、グループホーム、相談支援事業所・障害者相談支援センター、障害者就業・生活支援センター |