目次
1970年設立の有限会社太田工務店は、土木工事から現在では建築工事が9割を超え、顧客に、さらに寄り添うためにモデルルーム棟を建設。電子黒板を備えた打ち合わせスペース、キッチンや浴室などの水回り空間、さらには宿泊も可能な寝室から防音室を備える。その中では、設計やデザインのすり合わせから実物確認や空間体験までが可能。また地域のお祭りや子どもたちにも開放される拠点としても機能している。(TOP写真:太田工務店モデルルーム棟外観)
先代の土木工事を受け継ぎながら、自らの専門である建築部門を立ち上げ、今では売上の9割を超える
1970年、2トン車一台を購入し土木工事から始まった太田工務店。高度成長期の好景気に後押しされながら業績を伸ばしたこの会社に現代表取締役の太田優一氏が加わったのは、それから15年後のこと。東京の大学で建築を学び一級建築士の資格も取得した太田社長は、帰郷するとすぐに建築部門を立ち上げ、地元を中心に実績を重ねていった。
一戸建の新築や建て替え、リフォームなど、次第に受注物件も増え、2000年代に入ると売上の5割を建築部門が占めるようになっていく。2024年現在では9割を建築部門が占めるようになり、その中の約70%が新築、リフォームを含めた戸建住宅となっている。その他では店舗や公共施設、鉄骨系マンションの受注もあるが、太田工務店では施主である顧客とじかに信頼関係を築きながら仕事を進めるやり方を大切にしているため、自然と紹介や追加受注が増え、一戸建の顧客からの注文が建築部門の柱となっている。
太田工務店の一番の強みは何かと問うと、「大手の信用とか保証が信頼できるという人もいるけど、何といっても提案力がないと満足にはつながらないし、一番の強みは私と専務である長男の人柄かな?」と話す。
トイレの修繕の工事を行うと次に浴室のリフォームを頼まれるなど、信頼関係から生まれてきた受注が300件以上もあるという。小工事もおろかにせず、新築やリフォームでも提案から引き渡しまで信頼関係を維持し続けることは、真摯(しんし)に仕事に向き合う誠実さがないと難しい。長期にわたって顧客と向き合いながら仕事をする建築の世界で、引き渡し後も交流が続き、紹介をもらえる関係が築けるのは、ひとえに経営者の能力と経験、そして人間性にあるといえる。
1995年から工事管理システムを導入。新築では顧客との対話を重視する「和がまま家」をキーワードに満足を実現する
太田社長が岡山に帰ってきた頃はまだパソコンが高価で普及しておらず、多くの設計事務所で手描きやプロッターと言われる製図機が主流だった時代。それでも太田工務店では1985年当時からパソコンを導入し、ウィンドウズ95が出た時期には工事管理システムも導入。バージョンアップしながら現在に至っているという。
そんな太田工務店が特に新築住宅の建設などでスローガンにしているのが「和がまま家」(わがままや)という取り組み。太田社長によると「永く住む家を作る時には誰しも、家族や自分の住み心地に対する嗜好(しこう)や要望を実現したいものです。独特の生活ルールや深い趣味をお持ちだったり、色彩などにも繊細な好みを持っておられることもあります。我々はそういう個性や好みの異なるひと家族ごとの要望に応えられる家づくりが一番大事なことだと思っているんです」と話す。
様々な顧客の「こだわり」を引き出し、理解し、空間へと具現化していくためには洞察力が最も重要だという。そしてそこから生まれる相互理解と信頼は「顧客と直接お話しすること」からしか得られないという。そんな仕事への取り組み方が太田工務店の重要な基本理念であり、この姿勢は新築や建て替えだけでなく、小工事やリフォームなど太田工務店全体の仕事に貫かれていることが容易に想像できる。
電子黒板を設置したモデルルームは打ち合わせの場であると共に、実物確認や体験・体感の空間でもある
顧客との対話を最も重視する太田工務店では、必然的にモデルルームが必要になった。それまでは狭い事務所や打ち合わせ場所で顧客と図面の検討などを行っていたというが、念願叶って2024年にモデルルーム棟が完成した。
1階にはリビングキッチンを体感できるスペースに電子黒板を設置した打ち合わせ空間があり、ちょうど取材時には大画面に映し出された図面を確認しながらオンタイムでの図面修正や工程の説明などが行われていた。
デジタルサイネージやホワイトボードとしても使える電子黒板を導入したおかげで、過去には京都在住の顧客とも遠隔で打ち合わせができ、移動の時間とコストを省けるという効果をもたらしてくれた。導入時の設置コストがかかってもその効果や利用価値は想像以上に大きく、太田工務店の社員全員がその利便性を実感しているという。
この空間以外にも一階には応接コーナーやトイレ、洗面室やキッズコーナーもあり、天井を外した吹き抜けからは建物の構造確認もできる。また、全ての空間で壁面仕上げや床材などの実物確認も可能で、画像では表現できない素材の質感や色彩を実感できるような設えがなされていた。
2階には宿泊も可能なベッドルームや浴室も完備。希望するお客様には実際に泊まってみて、昼夜の違いやサッシの性能、照明の配灯などを体験・確認してもらえる。さらには外部の音を気にせず集中して仕事や読書などができる防音の個室も設えられており、「この椅子の後ろから空調の風が出てくるんです」と太田社長は説明。自宅でのテレワークが一般的になってきている昨今、こんな空間が確保できれば、大人だけでなく子どもや受験生にとっても利用価値のある場として、住宅のあり方が大きく変化していくことを予感させてくれる。
このモデルルームができたおかげで、電子黒板での図面や完成予想のチェックに加え、様々な素材や設備機器のサイズやデザインの確認ができるので、今までと打ち合わせの効率が格段に違うと社員からも顧客からも高評価を得ている。
このモデルルームを地域のためにも開放したいという太田社長の強い意志と願い
太田工務店は災害時に集まることのできる指定会社として岡山市から認定を受けている。また災害時、公営住宅の緊急対応のメンバーでもある。さらには以前から参画している少年警察協助員制度では活動20年の表彰を受け、地元の新聞でも紹介された。そんな太田優一社長の地域への思いは特に未来ある子どもたちや青少年に向けられ、モデルルームのオープン当初には近隣の子どもたちを呼んでの見学会を開催。今後も、いつでも立ち寄れる身近な場所としての利用を計画中である。
また建築業の活動としては岡山市内の中学2年生を対象とした職場体験も受け入れている。過去に体験に訪れた中学生の中から、大学の建築学部に進んだ子も出てきているという。
太田社長の旺盛な地域貢献、青少年育成の情熱は、「地域で生まれ育てられた小さな工務店は地域に愛される存在でないとならない」という信念からの自然な感情であり、何よりも「地域やお客様に喜ばれることを自らの喜びに」を実践している証しなのだ。
社会活動だけではなく社内には卓球部もある。「若い時から卓球をやってきたので、卓球部を作って倉庫で練習してますよ。もちろん私もやるしね」と微笑みながら、卓球仲間から贈られたモデルルーム棟建築祝いの花束を嬉しそうに見せてくれた。
相互理解と信頼という姿勢は企業と顧客の間だけのものではなく、最も身近な地域と企業の間にも欠かすことのできないもの。太田工務店のように地域に愛されながら地域と共にあろうとする企業の存在は、日本中の地域を元気にする希望と言っても過言ではない。
必要な所に必要なだけのICTを採り入れながら、建築業の未来を極めていく太田工務店のこれからが楽しみだ。
企業概要
会社名 | 有限会社太田工務店 |
---|---|
所在地 | 岡山県岡山市中区清水2丁目8-58-3 |
HP | https://ohta-koumuten.com/ |
電話 | 086-273-2347 |
設立 | 1970年11月2日 |
従業員数 | 10人 |
事業内容 | 住宅・店舗・共同住宅の設計・施工、リフォーム、公共土木・水道工事、一般土木工事、エクステリア工事、宅地造成工事 |