株式会社竜製作所
(画像=株式会社竜製作所)
石田恭一郎(いしだ きょういちろう)――代表取締役社長
1968年生まれ、岐阜県大垣市出身。大学卒業後、ゼネコン大手前田建設工業株式会社へ入社。本店営業部等での勤務を経て、退社。 その後2003年に株式会社竜製作所へ入社し、2010年に第四代目代表取締役社長へ就任した。現在は、国内のスタートアップやアメリカシリコンバレーのベンチャー企業へ投資をする投資家としての一面もみせている。
竜製作所は、愛知県名古屋市に本社を置く、日本のものづくり産業を支える日本最大級のオーダーメイドの生産設備メーカーである。自動車業界を筆頭に、電気・半導体や住宅機器、食品など様々な業界に事業を拡大する一方、AIロボティクス事業としては、生産設備製作の技術を活かし、複数の海外ロボットメーカーと協業を開始。新事業(新しいドメイン)への展開も積極的に取り組んでいる。

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷と強み
  2. 承継の経緯と当時の心意気
  3. ぶつかった壁やその乗り越え方
  4. 今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
  5. メディアユーザーへ一言

創業からこれまでの事業変遷と強み

ーー創業からこれまでの事業の変遷と、御社の強みについてお聞かせください。

株式会社竜製作所 代表取締役社長・石田恭一郎氏(以下、社名・氏名略) 1953年、私たちの会社は板金加工からスタートしました。最初は制御盤の板金作業を手掛け、その後、電気的な要素を加えた制御盤の製造を始めました。そして次第に、機械そのものの電気配線にも取り組むようになり、最終的に現在の事業の主力である「機械メーカー」となりました。

私たちはオーダーメイドの機械を製造しており、これらの機械は「専用機」と呼ばれています。一方でカタログに載っているような既成機械のことを「汎用機」と呼んでいます。日本国内に存在する、我々のような「専用機」を製造するメーカーの90%が年商10億円以下という事業規模です。言い換えれば、この業界は小規模な会社が多数存在する状態であるとも言えます。こうした環境下の中で、我々は独自の強みを発揮し、常に変化し続け、今日売上70億円を超えるような会社になってきました。

株式会社竜製作所
(画像=株式会社竜製作所)

ーー具体的には、どのようにしてその強みを発揮されているのでしょうか?

石田 オーダーメイドの機械を作る際、非常に高いコミュニケーション能力が求められます。これは、オーダーメイドのスーツを作る職人と同じで、お客様の要望に細かく応える必要があります。機械の設計だけでなく、営業や製造スタッフ全員が高いコミュニケーションスキルを持つことが不可欠です。

ーー貴社ではそのようなコミュニケーション能力を持った人材をどうやって採用しているのですか?

石田 採用には非常にこだわっていて、大体50人の応募に対して1人しか採用していません。毎年大学の企業説明会や民間会社主催の合同企業説明会で多くの学生に出会いますが、最近の気づきとしては、その中でも商売屋の家で育った子供たちは、日常的にビジネスの現場を見て育っているため、コミュニケーション能力が高いことが多いと感じており、積極的に選考に進めることが多いです。

また、入社後の育成にも力を入れています。新入社員が定期的に入るようになったことで、中堅社員が後輩を育成するシステムを整えています。これにより、事業継承の問題にも対処できると考えています。重要なのは、人に頼るだけでなく、システムとして誰でも業務を引き継げる体制を作ることだと感じています。

ーー事業継承の問題に対しても、システムを作って対応しているということですね。

石田 私たちの業界は受注産業ですから、ビジネスの成長はお客様との関係性が鍵になります。そこで、人材の採用や育成に力を入れるだけでなく、誰が業務を担当してもスムーズに事業が進むようシステム化しています。

承継の経緯と当時の心意気

ーー事業承継の経緯で事業面だけでなく、実務や金融面、相続に関連する部分でも何かご苦労があれば教えてください。

石田 まず、私がこの会社に来た理由ですが、実は、私は竜製作所の人間ではなく、洋服屋の息子として育ちました。学校を卒業した後、前田建設工業に就職し、そこでサラリーマンとしての経験を積みました。つまり生まれてから受注産業の畑で生きてきたのです。

また事業継承については、この先、子供が事業を継承していくとも限りません。永続する会社を作るための方策を考え出したところです。

ぶつかった壁やその乗り越え方

ーー次に、会社を経営する中でぶつかった最大の壁と、それを乗り越えるためにどのようなことをされたのかについてお聞かせいただけますか。

石田 私たちは、見積もりを出して仕事を受けるというビジネスモデルで動いています。確かに自社製品を作ってはいますが、基本的には請負の仕事です。請負産業に共通する課題の一つは、安定した収入を確保するために、自分たちで価格を決めることが難しいという点です。バブル期には、日本の建設会社が海外のホテルやゴルフ場を買収するような事例がありましたが、為替リスクや現地の法規制、買収後の運営体制構築といった困難に直面していました。安定したビジネスを目指す過程で、特に金銭面での壁に直面しました。

ーー具体的には、どのような壁があったのでしょうか?

石田 中小企業の中には、技術力の高い親父さんがロボットを開発したり、大手企業と競争する人もいますが、実際には大手に勝つのは難しい。そのため、私たちは台湾の鴻海精密を手本にしました。彼らは元々OEMで他社の製品を作っていましたが、徐々に自社製品を持つようになり、大きく成長しました。私たちも最初はOEMを手掛け、その技術を活かして安定したビジネスを構築しようと考えたのです。

ーーその結果、どのような成果が得られましたか?

石田 現在ある程度売り上げを上げていますが、OEM市場は競争が激しく、新規参入は難しい状況です。特に既存の製品については、他の業者がすでに手掛けているため、私たちが手を出す余地は限られています。それを知ることができ、既存の市場で勝つのが難しいと判断し、次に目を向けたのは、“新たに”世の中に出る製品でした。

そこでシリコンバレーで開発される新しい技術に注目し、スタートアップ企業と協力する道を選んだのです。例えば、電動車椅子のWHILLという製品がありますが、これはシリコンバレーでスタートアップとして始まり、日本に逆輸入されてきたものです。そこでこの会社にOEMを提案しましたが、台湾の出資してくれている企業にOEMをお願いしているからと、ばっさり断られた経験があります。

ここで学んだのは、単に「仕事をください」と頼むだけでは不十分で、アメリカではOEMをするためには、出資やパートナーシップを築くことが求められるという点です。そこでアメリカのスタートアップへの出資を始めました。

ーー現在、いくつの企業に出資されているのですか?

石田 今のところ6社ほどに出資しています。いずれも製造業ドリヴンの企業で、私たちの専用機を作る技術を活かせる分野に限定しています。別の言い方をすると、ブロックチェーンや医療系のシステムを開発するスタートアップには出資していません。

今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

ーーM&AやIPO、次の承継に向けたファイナンス戦略など、今考えていることがあれば、教えていただけますか。

石田 現状では、まずアメリカへの出資を軸に考えています。その中で、専用機の売上を全体の60%に抑える形で、事業のバランスを取っていこうとしています。

ーー現在は専用機の売上が全体の90%以上を占めているということですね。

石田 今後はこの割合を変化させていきたいと考えています。戦略の一つとして、アメリカで投資している企業が日本やアジアに進出する際には、竜製作所がそのゲートウェイとなるようなビジネス展開を目指しています。

ーーなるほど。今期は72期目とのことですが、業績も順調に推移しているようです。ファイナンス的には銀行借入で十分賄えているのでしょうか。それとも、さらに大きな成長を目指すために、IPOなどの選択肢も視野に入れているのでしょうか?

石田 今のところ、銀行からの借入で資金調達は問題なくできています。売上も今期100億(見込み)受注していますし、現時点ではまだIPOの必要性は感じていません。

ーー社長は現在56歳ですが、今後会社をどのように成長させたいと考えていますか?

石田 私は70歳まで社長を続けるつもりです。その時までに、売上高1000億円を目指しています。

メディアユーザーへ一言

ーーメディアユーザーの方々へ一言お願いできますでしょうか。将来の事業承継や経営に悩んでいる方々へ激励やアドバイスをいただければと思います。

石田 「ビジネスは下りのエスカレーターに乗っているようなものだ」と言われることがありますが、まさにその通りだと思います。現状維持を目指しているつもりでも、実際にはどんどん下に行ってしまう。だからこそ、常に上を目指して足を動かし続けなければならないのです。

氏名
石田恭一郎(いしだ きょういちろう)
社名
株式会社竜製作所
役職
代表取締役社長

関連記事