白鳥製薬株式会社
(画像=白鳥製薬株式会社)
白鳥 悟嗣(しらとり さとし)――代表取締役社長
1978年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学経済学部を卒業後、2001年に三菱商社に入社。主計部、リスクマネジメント部、米国三菱商事(ニューヨーク)財務部、などの計数系管理部門を経験。2010年、専務取締役として白鳥製薬株式会社に入社。リーマンショックの影響で危機に陥っていた同社の立て直しに貢献する。2017年11月、代表取締役社長に就任し、現在に至る。座右の銘は「為せば成る、為さねば成らぬ」。
千葉県に本社を構える、1916年創業の医薬品原薬メーカー。創業者の白鳥與惣左衛門が日本で初めてお茶の葉からカフェインを抽出し、事業を興した。”Change the World”をグループビジョンとして掲げ、先進的であること、柔軟であること、創造的であることを全社員が常に心がけている。 近年では、お客さまのQOLの向上に貢献するため、医薬品の有効成分である原薬製造だけでなく、健康食品の開発・製造・販売も手掛けている

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み
  2. 承継の経緯と当時の心意気
  3. ぶつかった壁やその乗り越え方
  4. 今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
  5. メディアユーザーへ一言

創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み

ーーまず、貴社の創業からこれまでの事業変遷と、強みについてお聞かせください。

白鳥製薬株式会社 代表取締役社長・白鳥 悟嗣氏(以下、社名・氏名略) 1916年に創業した当社は、初代が茶葉からカフェインを抽出して事業を始めました。創業当初、千葉県習志野市を拠点に、地主として精米業も行っていた中、第一次世界大戦でドイツからのカフェイン供給が止まってしまったのを受け、国産化への挑戦を決意しました。

当時はカフェインが風邪薬の原料として使われていたため、国内での供給が途絶えると非常に困る状況でした。そこで、初代は茶葉からカフェインを抽出し、製法特許を取得。これが当社の始まりです。

その後も、「世の中をより良くする」という創業精神のもと、様々なチャレンジを続けてきました。特に天然のカフェイン抽出から、合成カフェインへと技術を進化させたことが、当社の大きな転機でした。現在では、カフェインだけでなく、医薬品の原料やサプリメントの分野にも事業を広げています。

白鳥製薬株式会社
(画像=白鳥製薬株式会社)

ーー貴社の現在の主力事業についてもお聞かせください。

白鳥 現在、カフェインの売上は全体の1割程度で、健康食品や医薬品原料などが事業の柱となっています。まだ売り上げとしては医薬品が大半を占めますが、健康食品分野はここ数年で急成長しており、ベトナムへの輸出も行っています。今後健康食品事業はさらに拡大させる計画です。

ーー健康食品事業が急速に成長している理由を教えてください。

白鳥 健康食品事業では、当社独自の原料もあり、それに基づいた商品を開発し販売まで行っております。それが、自社の強みです。特にベトナム市場への進出が成長を後押ししており、現地法人を立ち上げ、Made in Japanの製品として信頼を獲得しています。

承継の経緯と当時の心意気

ーー続いて、事業承継の経緯と当時の心意気についてお伺いしたいと思います。社長を引き継がれた時の状況について教えていただけますか?

白鳥 私は2010年に当社に入り、2017年の8月末の決算後、11月の株主総会で社長に就任しました。それまでの7年間は取締役として働き、今社長を務めて7年が経ったので、ちょうど会社でのキャリアの半分が社長ということになります。

うちの会社は2016年に創業100周年を迎えました。当時、先代からは「100周年を目安に社長を引き継ぐことを考えている」と言われており、私も本家の長男ということで、いずれ社長を担うという覚悟を持ちながら仕事に取り組んできました。

ーー社長を引き継ぐ際、どのような心構えや苦労がありましたか?

白鳥 私が入社した当初は、32歳でまだ若かったですし、強気で傲慢なところがありました。業績改善に成功したことで自信がつき、ある意味自分を過信していた部分もありました。しかし、父からは「もっと人の話を聞け」とよく注意されていました。当時は「ちゃんと聞いている」と思っていましたが、今振り返ると、話を聞くというよりは、すぐに自分の意見を押し付けていたなと感じます。

また、私は経済学部出身で、化学の専門知識は持っていませんでしたので、研究者たちからは「どうせ分からないだろう」と思われていた部分もありました。自分の専門外の領域では敵わないと感じつつも、経営の面では頑張ろうと努力してきました。

ーー組織内での人間関係にも苦労されたようですが、具体的にどのようなエピソードがありましたか?

白鳥 入社時、私は専務取締役として入ったのですが、課長以上は全員年上でした。年上の部下とどう向き合うかが非常に難しかったです。特に、若手社員とは年齢が近く、彼らからは多くの意見が寄せられました。最初はそれを活かして組織を改革していきました。そういった中で年上の部下にも遠慮はしませんが、配慮は必要だということを学びました。

ーー承継に伴う相続や株式の問題についてもお伺いしたいです。どのように対応されましたか?

白鳥 当時は株式が非常に分散しており、事業の存続にリスクがありました。そこで、税理士のアドバイスを受けながら、配当還元で株式を買い取りました。無理のない範囲で株主にお願いしましたところ、結果として、父と私で50%以上の株式を確保できたことが、事業の安定につながりました。

ぶつかった壁やその乗り越え方

ーー白鳥さんが会社経営の中で最も困難に感じた壁や、その際にどのように対処されたかを教えてください。

白鳥 正直、経営の中では壁だらけでしたが、特に象徴的な例として、カフェイン事業の撤退を挙げたいと思います。当社は創業当初からカフェインの抽出を行っていて、私が入社した2010年当時、合成カフェインと天然カフェインを両方とも自社工場で製造していましたが、この事業は大赤字でした。

私は経理出身ということもあり、製造原価を調べたところ、4500円のコストがかかっているものを1800円で販売していました。売れば売るほど赤字が増えるという状況で、役員会では、シェア回復のために値下げをしようという話が出ていましたが、これは絶対におかしいと思い、強く反対しました。

ーー その状況でどのように改革を進めたのでしょうか?

白鳥 最初は私の意見に反発がありました。特に創業から続いていたカフェイン事業をやめるという提案は、大きな抵抗に遭いました。しかし、私は数字を示し、合理的に説明することで、徐々に社内の理解を得ることができました。

最終的には、担当者も「この数字ではやめるべきだ」と納得し、カフェイン事業からの撤退を進めることができました。強引に進めるだけでなく、データに基づいた合理的な説明をすることが、組織を動かす鍵だと感じました。

ーー 既存事業の撤退には大きな抵抗があったと思いますが、新規事業についてはいかがでしたか?

白鳥 輸入販売事業を新規事業として立ち上げましたが、これにも大きな反対がありました。私は商社出身だったため、輸入販売の可能性に着目したのですが、工場の稼働率が低い中で、海外からの原料を仕入れることに対して、「工場の稼働を下げてどうするんだ」という声や、輸入のために台湾への出張が頻繁だったため、「まだ売上が出ていないのに、何度も出張しているのはどうなんだ」といった批判がありました。

それでも、輸入販売事業は徐々に成功を収め、2015年頃から急成長し、売上の一時ピークは30億円に達しました。現在はライフサイクルの関係で20億円前後に落ち着いていますが、新しい品目を増やしていく計画です。結果として、既存の事業をやめるという決断も、新しい事業を立ち上げる際の抵抗も、乗り越えてきたと感じています。

今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

ーーそれでは次の質問ですが、今後の事業展開についてお伺いしたいと思います。5年、10年先を見据えて、どのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?

白鳥 これからの展望としては、大きく2つあります。1つは「創薬」、もう1つは「M&A」です。まず、当社はこれまで主に医薬品の原料供給やOEM(受託生産)を行ってきましたが、自社でリスクを取って新しいチャレンジをすることは、ここ20年ほどあまりしてきませんでした。しかし、2013年に出した製法特許がアメリカの製薬会社の目に留まり、共同開発が進みました。その結果、フェーズ1からフェーズ3まで順調に進み、現在はヨーロッパとアメリカでの承認を目前にしています。 この創薬ビジネスが成功すれば、ロイヤリティ収入だけで毎年数十億円が見込めます。この収入を基に、さらなる新規事業や設備投資を行い、会社の成長を加速させたいと考えています。

またM&Aに関して、医薬品業界は厚生労働省からも「規模の小さい製薬会社は合併しなさい」という政策的な圧力がかかっている状況です。当社も売上規模が60億円程度で、業界内では7〜8番手に位置していますが、まだまだ規模は小さいと言えます。そのため、M&Aを通じて、単に規模を追求するだけでなく、経済性や事業シナジーを考慮した成長を図りたいと考えています。これにより、さらなる市場拡大を目指します。

ーー上場についてもお話を伺いたいのですが、今後の計画として上場を目指すお考えはありますか?

白鳥上場については、現時点で具体的に計画しているわけではありませんが、選択肢としては視野に入れています。上場がゴールではなく、成長資金をエクイティで調達し、それを設備投資やM&Aに活用するという選択肢です。

ただし、現状の売上規模や利益では、上場時に適切な評価を受けられる段階にはまだ至っていないと考えています。今後、さらに成長し、上場が有効な選択肢となった時に初めて検討することになるでしょう。

メディアユーザーへ一言

ーー メディアユーザーへ一言、何かメッセージをいただければと思います。

白鳥 私自身へのメッセージでもありますが、皆さんにもお伝えしたいこととして、「mustではなく、wantで」という考え方が重要だと思います。私もこの会社に来た時は、「この立場に生まれた以上、頑張らなければならない」というマストの気持ちでやっていました。正直、強がりながらも、苦しかった時期がありました。

しかし、mustではなくwant、「やらなければならない」ではなく「やりたい」という気持ちに切り替えることができると、自分自身も楽になるし、周囲の人との関係も良くなります。例えば、「社員の話を聞かなければならない」ではなく、「社員の話を聞きたい」という気持ちで接することで、自然と良いコミュニケーションが生まれます。

そういった気持ちで取り組む経営者が増えることで、日本全体がより豊かで成長する国になるのではないかと思います。

氏名
白鳥 悟嗣(しらとり さとし)
社名
白鳥製薬株式会社
役職
代表取締役社長

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