(本記事は、梅澤伸嘉氏・西野博道氏の著書「2年で10億円を突破! 5年で100億円を超える 『100億マニュアル』」日本経営合理化協会出版局の中から一部を抜粋・編集しています)
3年で20億から100億円へ
かつて私(西野)は、健康商品の通販会社「やずや」で経営企画とマーケティングを担当し、3年で売上20億から100億円へと、ほぼ計画どおりに売上を伸ばすことができました。
それは、「香醋(こうず)」などの商品に広告投資し、費用対効果を数字で分析しながら、確信をもって広告のPDCAを回すことができたからです。
「やずや」は現在、定期的にリピートしてくれる優良顧客層が厚く、ちょっとやそっとではビクともしない高収益企業に成長しています。
さらに「やずや」が新たに立ち上げた九州自然館では、私と社員4名で、顧客ゼロ、商品ゼロの状態からスタートし、わずか3年半で売上20億円を超えましたが、それができたのも計画的に広告のPDCAを回すことができたからです。
ファイナンス志向の経営
グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムなど、いわゆるGAFA(ガーファ)と呼ばれる企業を中心に、今アメリカで急激に成長している企業の多くがD to C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)、いわゆるECサイトを構築し、商品や情報を直接お客様に販売するビジネスモデルです。
このビジネスモデルも、お客様と直接つながり、双方向のコミュニケーションがとれるダイレクトマーケティングの一種です。
そして、GAFA(ガーファ)のいずれもが、将来に大きな構想をもち、その実現のために目先の利益を最大化することなく、利益の多くを技術研究や商品開発、そして広告宣伝に投資しています。
つまり、1年単位で利益を最大化する、いわゆるPL志向の経営ではなく、将来の利益を最大化するための投資を重視するファイナンス志向の経営をおこない、積極的に、研究開発、商品開発、広告宣伝に投資しているのです。
PL志向では、「売上を大きく、経費を小さく」することを考えますが、ファイナンス志向では、「経費を大きく使って、将来の利益を可能なかぎり大きく」していくことに重点をおきます。
「そんなことをしたら、会社にお金が残らず、何かあったときに大変だ!」と委縮(いしゅく)してしまう方もいるかもしれませんが、何かあったときは、100億ロケット・マーケティングの場合、新規の広告を中断すれば、即座に経費が減って利益を残すことができます。
反対に、いま売上が20億、30億あたりで停滞している会社は、目先の利益を多く出すために経費を削っているケースが多く、将来のための投資を僅(わず)かしかやっていないか、あるいはまったくやっていないかのどちらかです。
経営者にとって「売上を大きくすること」と、「経費を小さくすること」、そのどちらが簡単かといえば、明らかに「経費を小さくすること」のほうが簡単です。
ですから、守りの姿勢が強い経営者は「経費を小さくすること」に傾倒しやすいですが、しかし将来の利益のために投資しなければ、目先の利益を得ることはできても、継続的に売上と利益を伸ばすことはできません。
たとえば、アマゾン・ドット・コムは、小売業であっても日銭を稼ぐという発想がありません。革新的な方法でより多くの顧客を引きつけるためのサービス開発とプログラム開発に、優秀な人材と年間2兆円もの大金を投入しています。その結果、売上は右肩上がりで伸びているものの営業利益率は低迷したままです。上場企業ですが、株主には一度も配当したことはありませんが、株主からは「株主利益優先より、顧客利益優先のほうが長期的成長につながる」という評価を得ています。
ご承知のとおり、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、2017年富豪ランキングで長らく首位の座にあったビル・ゲイツ氏を抜いて、世界一の富豪となりました。もしジェフ・ベゾス氏が「極力、経費を小さくせよ」のPL志向であったら、ここまでの成長はできなかったでしょう。ジェフ・ベゾス氏は意図してファイナンス志向の経営をおこなっているのです。
そういう意味では、100億ロケット・マーケティングも、ファイナンス志向の投資モデルといえます。利益を確定しようと思えば、いつでもできますが、5年という短期間で売上100億円を超えるにはファイナンス志向でなければ不可能です。
広告によってお客様の数を増やしていく
100億ロケット・マーケティングは、広告によって商品を売っていくと同時に、自社の商品を買ってくれるお客様の数を増やしていきます。
そして、得られた顧客データを蓄積し、活用して、商品を繰り返し買っていただく仕組みをつくっていきます。
顧客データについては、近年、目に見える土地や設備と同様、資産価値として評価されるようになってきました。すでにアメリカでは、M&Aの際、企業がもつデータに巨額の値がつくようになっています。しかも財務諸表には出ないので、税金を払う必要がありません。
5年で売上100億円を超える広告投資シミュレーションをご覧いただきますが、5年間でどれぐらいの数のお客様を獲得すれば売上100億円に到達するかが、一目瞭然でわかります。
100億ロケット・マーケティングでは、蓄積した顧客データが、会社に利益をもたらし、目に見えない資産となるのです。
販売力を決定づける2つの要因
広告投資シミュレーションの中には、重要な項目がいくつかあります。
とくに重要な項目が、
- 年間LTV(ライフタイムバリュー)
- 年間稼働顧客数
の2つです。
100億ロケット・マーケティングでは、この2つの要因をそれぞれ最大化することによって、販売力を最大化していくことになります。
復習ですが、商品力を最大化するためには、「新カテゴリー」「商品コンセプト」「商品パフォーマンス」の3つが重要商品パフォーマンスな要因でした。
対して、販売力の最大化は、「年間LTV(ライフタイムバリュー)」と「年間稼働顧客数」の2つが、重要な要因になることをまず頭に入れてください。
ひとつ注意していただきたいのは、「年間稼働顧客数」も「年間LTV(ライフタイムバリュー)」も1年単位で見ることです。
1年単位で見れば、増えているのか、減っているのかの変化がはやく掴(つか)めるからです。
したがって、本書でいう「年間LTV(ライフタイムバリュー)」は、1年のあいだにお客様1人が平均して買ってくれた金額のことです。
「年間稼働顧客数」は、1年のあいだに商品を1回以上買ってくれたお客様の数ということになります。
図のとおり、「年間LTV(ライフタイムバリュー)」と「年間稼働顧客数」を掛け合わせたものが、年商となります。そしてその中でも、「年間稼働顧客数」を増やしていくことに重点をおきます。
なぜなら、「年間LTV(ライフタイムバリュー)」、つまりお客様が1年間で使ってくれる金額を継続して増やすことは、現実として難しいからです。なぜなら、お客様が1年間に使えるお金はある程度決まっていて、収入が増えないかぎり、使えるお金は増えないからです。
- ※年間LTV(ライフタイムバリュー=Life Time Value)とは
- Life Time Value(LTV)は、日本語で「顧客生涯価値」と訳されるが、ダイレクトマーケティングでは、1年間の顧客1人当たりの売上金額を指す。 自社の年間LTV(ライフタイムバリュー)金額を出すには、 『年間LTV=年商÷年間稼働顧客数』 の計算式で求められる。また1回の購入金額を「購買単価」、購入回数を「顧客回転数」と呼び、年間LTV=購買単価×顧客回転数、で表わされる。
- ※年間稼働顧客数とは
- 1年のあいだに自社の商品を買ってくれたお客様の数のこと。 自社の年間稼働顧客数を知るには、 『年間稼働顧客数=年商÷年間LTV』 の計算式で求められる。
一方、年間稼働顧客数については、制限なく増やし続けることができます。
そして、ひと口に「顧客」といっても、「新規客」「既存客」「離脱客」の3つがあります。
年間稼働顧客数を継続して増やしていくには、
- 新規客を継続して増やす
- 既存客にリピートしてもらう
- 離脱客を戻す
の3つのことが重要です。
とくに1の「新規客を継続して増やす」ということに、広告費を集中することがカギになります。ただし、新規客はたくさんの商品をつくって広告すれば集客できると考えるのは大きな間違いです。似たような商品が市場に溢(あふ)れる中、「新カテゴリーの商品」でなければ、過剰状況から脱することはできず、新規客の集客も難しくなります。
2については、新規集客が難しいので、既存客の「年間LTV(ライフタイムバリュー)」を上げようとして、定期コースへ誘導するやり方がありますが、うまくいっていない会社が多いです。
3については、新規客を増やすと同時に、離脱客をいかに戻すかということが重要です。
毎月売上の約35%を広告に投資せよ
100億ロケット・マーケティングは、売上100億円を超えるまでは、継続的に毎月売上の25%~50%を広告に投資して、年間稼働顧客数を増やしていきます。
「売上の25%~50%!そんなにお金を使って大丈夫?」と思うかもしれません。
かつて私は、やずやグループの九州自然館を社員4人で立ち上げ、売上の80%を広告に投資したことがありました。顧客ゼロ、商品ゼロから、わずか3年半で売上20億円を超えましたが、利益もわずかながら出しました。やずやと九州自然館での経験から、売上の多くを広告投資に使うことは十分可能です。
ただし、そのためには、社員を増やさないようにする必要があります。
私の経験からいうと、売上1億円に対して社員1人ぐらいが目安です。売上が急激に増える状況の中で、社員を増やさないためには、ITを使った業務のシステム化が必要になりますが、その費用も、広告投資の一部と考えましょう。
そして社員を増やさないという前提で、さらに次の3つの条件をクリアしていただく必要があります。
- 商品の粗利は少なくとも7割以上あること(理想は8割以上)
- お客様が繰り返し買ってくれる商品であること(理想は3カ月から4カ月おき)
- 西野式の顧客離脱防止法を実施する(顧客維持コストは費用でなく投資と考える)
1については、粗利が少ない商品だと広告に投資できません。梅澤理論にのっとった「商品コンセプト」と「商品パフォーマンス」の力がともに強い「新カテゴリー」の商品であれば、価格は自由につけることができるはずです。値決めは、粗利が最低7割、できれば8割以上確保するように決めてください。
2については、梅澤理論にのっとった「商品パフォーマンステスト」をクリアしていれば、お客様は再購入してくれるはずです。再購入の間隔は3カ月から4カ月ぐらいが理想なので、商品は消耗品が適しています。
ただし、耐久財のように商品自体が3カ月ごとに買ってもらえるようなものでなくても、商品に付属する消耗品やサービスを繰り返し買ってもらうことで、売上を積み上げることができます。
たとえば、髭剃(ひげそ)りであれば、髭剃(ひげそ)りの刃であるとか、コピー機であればトナー、自動ドアやエレベーターであれば定期メンテナンスなど、できれば商品開発の段階で商品に付属する消耗品やサービスが何かないか、と考えてみてください。
3については、お金をかけて獲得した顧客がリピートせずに離脱するケースが多い状態では、穴のあいたバケツで、一所懸命、水を汲(く)んでいる状態となって、稼働顧客数が順調に増えません。私が開発した西野式「顧客離脱防止法」で離脱を防止しましょう。
顧客BSを見れば、3年先までの売上が見える
私がやずやと九州自然館で、恐れず広告に投資できた理由のひとつが、「顧客BS」なるものを見ていたからです。
顧客BSとは
「顧客BS」という言い方は私がつけたもので、正式な財務諸表にはありません。
上図のとおり、「顧客BS」は、借方が「顧客資産」、貸方が「事業リスク」となります。
顧客資産の金額は、「年間LTV(ライフタイムバリュー)」と「年間稼働顧客数」と「3年」を掛け合わせれば計算できます。
私は正式なBSの下に、自分で顧客BSの図と金額を記入して見ていました。
ここで復習しましょう。
「年間LTV(ライフタイムバリュー)」とは、1年間にお客様1人が平均して買ってくれた金額のことでした。
対して、「年間稼働顧客数」とは、1年間に自社商品を1回以上買ってくれたお客様の数でした。
そして、年商は「年間LTV(ライフタイムバリュー)」と「年間稼働顧客数」を掛け算した金額でした。
私の場合、顧客BSの顧客資産額は、「年商」の3倍で見ていました。なぜ3倍かというと、経験上、3年先まで、ほぼ同額の年商を得ることができたからです。
たとえば、「年間LTV(ライフタイムバリュー)」が2万円で、年間稼働顧客数が1万人であれば、顧客資産額は、2万円×1万人で2億円、さらに3倍して6億円となります。つまり、3年後までに得られる売上は6億円ということになります。
わかりやすいようにシンプルな事例にしていますが、実際は3年のあいだに、年間LTV(ライフタイムバリュー)も年間稼働顧客数も変動します。しかし、年間稼働顧客数が年々増えている状況にあれば、3年後までの年商は下振れすることはありません。
ですから、この顧客資産額を見ていれば、広告投資に対する不安はなくなります。先に「私は確信をもって広告投資をすることができた」と述べましたが、その根拠のひとつが、この顧客BSの存在なのです。
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