高齢化が進む日本の中で、企業における後継ぎ社長の役割が重要視されている。本企画では、これからの日本経済を支えていく後継社長に、どのように変革を起こし、成長を遂げていくのかを伺い、未来の経済発展へのヒントを探っていく。
創業からこれまでの事業変遷
ーまず、御社の創業から現在までの大きな変遷についてお聞かせください。
株式会社キミカ 代表取締役社長・笠原 文善氏(以下、社名・氏名略):当社は1941年に創業しました。創業当時、日本は戦争の影響で物資が不足しており、その中で房総半島に打ち上げられていたカジメという海藻を利用するアイデアが生まれました。カジメからヨードやカリウムを抽出し、戦時中の物資不足に対応しました。
戦後は、アルギン酸を使った食品開発に取り組み、再び事業を拡大しました。1945年の終戦後、連合国の技術公開により、多くの企業が参入し、競争が激化しましたが、当社は技術力を保ちつつ生き残ってきました。
ぶつかった壁と乗り越え方
ー貴社の成長における重要なポイントは何でしょうか?
笠原:1984年に父が亡くなり、私は急遽会社を継ぎました。当時、アルギン酸専業の小さなメーカーで年商13億円、従業員60名ほどでした。原料調達の困難さと競合の増加で厳しい状況に直面しましたが、アメリカのトップメーカーから技術を引き継ぐ機会を得ました。その後、日本国内で増産体制を整え、黒字化に成功しました。この転機が、当社の成長を加速させました。
ー貴社はアメリカに会社を設立したり、チリの会社を子会社化したり、中国の最大のメーカーと資本参加したりと、グローバル展開を進めていますね。
笠原:そうですね。特に中国に関しては、品質が問題視されることが多いですが、非常に安価で製造業界に浸透しています。我々は、敵に回すと厳しい状況になると判断し、中国と協力する戦略を取りました。
中国の弱点は品質のばらつきや異物混入です。特にアルギンマーケットでは、繊維の染色が一番のボリュームゾーンで、品質のばらつきが大きいと繊維の加工が難しくなります。そのため、信頼性が低いという問題がありました。
そこで、私たちは中国のアルギンメーカーを徹底的に調査し、生産体制や品質保証、マネジメントの質を精査しました。
品質が安定した安価なアルギンを提供できるようになると、繊維加工業界からも高い評価を受け、当社の事業の柱となりました。中国アルギンに対抗するのではなく、むしろ品質を向上させ、当社の戦力として活用することで大きなビジネスチャンスにつながりました。最終的には、中国のアルギンメーカーに資本参加し、合弁会社も設立することができました。
今後の経営・事業の展望
ー今後の展望についてお伺いします。特に医療分野への展開に関する計画はありますか?
笠原;はい、当社の製品は以前から医療分野で使用されています。例えば、アルギン酸の特性を活かして、精度の高い医療用製品を開発しました。現在、臨床試験を終え、軟骨再生や動物用止血剤として承認されています。
今年中には人間用の認可も期待しています。医療分野の開拓は、当社の今後の成長にとって重要な要素です。
ー社長就任から10年間で、売上が倍増し、国内トップ企業になられましたが、今後さらに飛躍するためにはどのような観点が重要だとお考えですか?
笠原:やはり、医療分野の開拓が重要だと考えています。
資源は有限ですので、限られた資源を使ってどれだけ付加価値の高いことをやるかが勝負だと思っています。また、中国などの技術が向上していく中で、さらに先を行くことが求められます。
現在、当社は世界中で唯一、医療用アルギン酸製品を作れるレベルに達しており、これを独創的な体制や圧倒的な存在にしたいと考えています。
今後のテーマ
ー 今後のテーマや競合との関係についてどのようにお考えですか?
笠原:現時点ではM&Aによる拡大は考えていません。私たちは、品質と安定供給を重視しており、M&Aによる経営効率の追求が品質低下につながることがあるためです。
特に医薬品や食品関連のお客様にとって、安定した品質供給が重要です。私たちは、品質を保ちつつ成長を続ける方針を維持しています。
ーキミカが国内で唯一のアルギン酸事業を展開している理由は何だと思われますか?
笠原:大企業の一部としてアルギン酸事業を展開していた他社と違い、私たちキミカは家業としてアルギン酸を育ててきました。まるで我が子を愛するように、アルギン酸事業に取り組んできた結果、お客様からも選ばれる理由となりました。
私は、M&Aで事業を拡大するよりも、じっくりと人を育て、製品に対して愛情を持って取り組むことが成功の秘訣だと考えています。
全国の経営者へ
ー全国の経営者に向けて、特に後継者にアドバイスをお願いします。
笠原:そうですね。選択と集中が大切だと思います。
何に集中していくのか、それを早く見つけることが重要です。現在の業態で大きく伸ばしていこうとすると、あれもこれもと手を広げてしまいがちですが、それでは中途半端になってしまいます。
最初にこの会社に入ったときは、アルギン事業がダメになるのではないかと思い、もっといい仕事に事業展開しなければという気持ちでスタートしました。 しかし、結果アルギン事業の中で活路を見出し、世界へ出ていくチャンスが見えてきました。
選択と集中は頭の中で考えることができますが、それに伴って捨てることが意外と大変です。お客さんがいたり、注文が来たりするのに、これもやめましたとはなかなか言えません。しかし、夢を持って目標に向かっていくと、あれもやらなければ、これもやらなければという気持ちが減り、忙しくなってくると、そんなことやってられないと感じることが増えます。
捨てることは、あえて捨てるというよりも、集中した結果としてやらなくなることが多いです。集中していく中で、自然にやらないものができてくるという形で進められるといいと思います。
もう一つ、とにかく夢を持つことが大切だと思います。夢がないと、努力することが辛いですが、夢があると、努力したくなります。事業の中で、何でもいいから一つ夢を描いて前に進んでみてください。
- 氏名
- 笠原 文善(かさはら ふみよし)
- 社名
- 株式会社キミカ
- 役職
- 代表取締役社長