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近年、コンビニスイーツの台頭が洋菓子店業界にとって厳しい状況を生んでいる。そんな中、洋菓子、オリジナルグッズのお店「2ひきのうさぎ」(群馬県高崎市)は、独自のキャラクターコンテンツを武器に、コロナ禍や洋菓子店が苦戦する逆風を乗り越え、地元住民から愛されている。成功の鍵は、単に「お菓子を売る」のではなく、「コンテンツを売る」という発想の転換にあった。(TOP写真:うさぎのキャラクターでつくった洋菓子の包装箱「うさぎのカラーBOX」。コンテンツ戦略の成功につながった)
JR高崎駅近くの住宅街。メルヘンチックな造りの店舗に入ると、赤いエプロンと青のエプロンを着けた2匹のうさぎが出迎える。店内ではお菓子だけでなく、うさぎのキャラクターをモチーフにしたグッズも販売されている。2ひきのうさぎが、競合他社と一線を画しているのは、うさぎのキャラクターを使ったコンテンツ戦略だ。店長の大門崇志さん自身がデザインし、商品にストーリー性を持たせた。消費者はただお菓子を買うのではなく、「ふわっとしたファンタジー的な世界観」(大門さん)に魅了され、店舗を訪れることでその世界に参加することを楽しんでいるのだ。
コロナ禍で売上減 救世主となったのは自動販売機による販路拡大
大門さんは美術大学に進学し、洋画を描く一方、お菓子作りを趣味としていた。大学3年の時に開業を決意し、パティシエとして同じ志を持っていた2歳上の兄と一緒に2018年5月、現在の地に店をオープンした。開店当初は、売上が伸びずに苦労したという。さらに2020年4月、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)に伴う緊急事態宣言の発令により、客足が大きく減少した。
その時、店舗前や周辺の駐車施設に、自動販売機を設置。洋菓子は湿気による品質低下を防ぐ特殊フィルムで包装し、うさぎのキャラクターをあしらったデザインを採用した。これにより、新しい顧客層を獲得することができた。一時は自動販売機での売上が店舗販売を大きく上回ったこともあったという。自動販売機の導入は、遠方のため店舗に足を運べない顧客にもリーチできるという点で非常に効果的で、2024年8月には群馬県庁の庁舎内に自動販売機を設置した。販路を広げる重要な役割を果たしたといえる。
もう一つ、自動販売機がもたらした効果は男性客を獲得できたことだ。洋菓子店は女性がターゲットというイメージが強く、甘いもの好きの男性客は店舗に足を運ぶのをためらう傾向にある。大門さんは、「メルヘンチックなイメージだと男性が店舗に入りづらいのでは」と感じていた。
自動販売機の設置は、男性客に気軽に商品を購入できる環境を提供することになった。多くの男性客が自動販売機で購入したクッキーなどをおいしいと評価し、再度購入するために店を訪れるようになった。「店舗を訪れた男性客から『気軽に買う事ができてよかった』と感謝の言葉を述べられたこともあった」(大門さん)。
また、コロナ禍では幼稚園へのおやつ用の洋菓子を販売し、新たな販路を開拓した。これにより、2022年頃からは、幼稚園の入園式、卒園式などで、園の制服を着たうさぎをデザインした包装箱に入れた洋菓子を提供。子どもたちがうさぎのキャラクターに親しむことで家庭内でも話題となり、親子で店舗を訪れる顧客が増えた。
「単なるお菓子屋ではない、コンセプトショップ」を支える多彩なキャラクターのホームページ、ノベルティーをタイムリーに制作する高性能複合機
2022年頃からは、うさぎのキャラクターが描かれた洋菓子の包装箱「うさぎのカラーBOX」が人気を集めている。同じ頃に人気に火がついた「はにわうさぎ」という新たなキャラクターは、スカートを履いた独特のデザインで、子どもから大人まで幅広い世代の顧客に受け入れられた。大門さんは「単なるお菓子屋ではない。コンセプトショップなんです」と思いを語る。
集客面では、多彩なキャラクターを創造しているホームページや、高性能の複合機でノベルティーをタイムリーに制作していることが貢献している。
自店のホームページには、「うさぎ図鑑」と銘打ち、月々の行事にふさわしい衣装を身に着けたうさぎのデザインを掲載したり、「キノコ」と「カエル」、「ちわわ」と「ねこ」、「ちわわ」と「ひつじ」など、動物を合体させたユニークなキャラクターも登場したりしている。
これらのキャラクターを衣類に直接印刷できるプリンターで印刷したポーチやトートバッグ、ハンカチ、巾着袋、Tシャツなど数十種類のグッズをホームページで販売している。
包装箱の厚紙の印刷は、高性能複合機で印刷し、カッティングマシンを使用して店内で展示、販売されている。
ポストコロナでマルシェなどのイベントに積極的に参加したが、高性能複合機や衣類印刷プリンターが大活躍した。
パティシエの兄との二人三脚 次々とユニークな商品を生み出す
2ひきのうさぎが成功したもう一つの要因。それは、大門さんと兄の協力体制だ。大門さんが主にデザインや経営を担当し、兄がパティシエとして洋菓子の製作を担当している。兄は、おいしさを追求しながらも、ヘルシーで安心して食べられるお菓子作りを大切にする。神奈川県相模原市産の有精卵「さがみっこ」や北海道産のバターを使用するなど、素材へのこだわりがみえる。群馬県の特産品であるこんにゃくいもをすりおろして配合した「こんにゃくのフィナンシェ」や「絞りクッキー」などのユニーク商品が、リピーターを増やす要因となっている。
こんにゃくフィナンシェは、書籍『令和版 日本の洋菓子・スイーツ100選』に掲載された。消費者にとって、店舗は単なるスイーツの購入場所ではなく、健康志向や品質へのこだわりを楽しめる特別な体験を提供する場となっている。最近では、大門さんが絵を描き、兄が物語を作った絵本を出版。兄弟の二人三脚が、キャラクターコンテンツと高品質なスイーツという二つの要素を融合させ、店舗の独自性を強く打ち出す結果につながったといえる。
洋菓子店の倒産増える中、キャラクターコンテンツを世界へ広めることで消費者に笑顔と癒やしを届けたい
昨今、いわゆる「街のケーキ屋さん」を中心とした洋菓子店の倒産が増えている。帝国データバンクによると、全国の洋菓子店の倒産件数(負債1000万円以上)は2024年1~5月で前年同期比1.8倍にあたる計18件だった。年間ベースでは、2000年以降で最多だった2019年を上回るペース。小麦粉やバターの価格高騰のほか、手頃に購入できるコンビニスイーツの台頭が影響しているからだ。
2ひきのうさぎのビジネスは、単に店舗を拡大することではなく、キャラクターコンテンツを世界へ広めることに重点を置いている。大門さんは、うさぎのキャラクターを世界中の子どもたちに愛される存在にするため、絵本の制作やオンラインでのコンテンツ公開を進めている。これにより、物理的な店舗の制約を超えて、グローバルな市場にリーチできる可能性が広がっている。
大門さんは「うさぎのキャラクターを通じて、消費者に笑顔と癒やしを届けたい」という強い信念を持っており、その思いが商品の一つ一つに込められている。このビジョンがある限り、2ひきのうさぎはこれからも成長を続け、新たな市場を切り開いていくだろう。
企業概要
会社名 | 2ひきのうさぎ |
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本店 | 群馬県高崎市双葉町9-9 |
HP | https://2hikinousagi.com/ |
電話 | 027-384-2334 |
設立 | 2018年5月2018年5月 |
従業員数 | 8人 |
事業内容 | 洋菓子、オリジナルグッズの製造・販売 |