矢野経済研究所
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2024年9月
フード&ライフサイエンスユニット
主席研究員 飯塚智之

逆風の健康食品市場、消費者マインドの回復に期待

 健康食品(サプリメント:錠剤、カプセル、粉末、ミニドリンク形状の食品)市場は緩やかな成長基調が続き、2023年度は前年度対比1.5%増の8,995億円(見込)にて着地したと見られる。2023年度までの過去20年間の年平均成長率が1.39%のプラス、同10年間の年平均成長率が1.44%のプラスで推移しており、食品市場全体から見ても成長市場と言える。
 健康食品市場の中でも特に機能性表示食品(サプリメント形状)が拡大し、市場の押し上げ要因となった。機能性表示の内容を核としたコミュニケーション戦略により、消費者の健康需要を掘り起こし、健康食品市場の中で機能性表示食品サプリメントのシェアが上昇傾向を辿った。
 一方、2024年度は、2024年3月に表面化した紅麹問題が影響し、健康食品市場は前年度対比5%前後の縮小に転じると予測する(2024年7月時点での見込・予測)。当該問題によって、一部の消費者におけるサプリメントに対する摂取マインドの冷え込みが見られ、通販において新規顧客の獲得鈍化や顧客の離脱が見られたほか、ドラッグストア店頭でのサプリメント販売に鈍化が見られた。健康食品メーカー側においても当該問題が与えた消費者心理への影響を考慮し、サプリメントの新規開発・展開の延期などの影響が見られ、市場は縮小に転じるものと予測する。
 紅麹問題発覚前より、特に近年の成長市場であった通信販売において、顧客獲得効率の悪化などが見られ、レッドオーシャン状態に近づきつつある状況が見られたことに加え、紅麹問題を契機として、健康食品に対する消費マインドが落ち込んだ。
 消費者マインドの冷え込みがどの程度続くかが見通しにくいものの、問題の沈静化と共に、特に健康食品の主力ユーザーである中高年齢層の健康長寿需要を背景とした需要の高まりが期待され、将来的には再び市場は緩やかな成長基調を取り戻すものと予測する。
 特に機能性表示食品に関しては、制度に関する様々な議論はあるものの、機能性表示により、個々の消費者が抱える健康問題に対する適切な商品選択の大きな一助となるものであり、特定の健康機能が期待される食品においては消費者に適切な情報を提供する制度として、適正な管理下において有効に活用されることが期待される。

成長戦略として期待される海外市場

 国内健康食品市場の緩やかな回復と成長が期待される一方、競合環境が既に激しく、特に中堅以上の健康食品メーカーにおいては、今後大幅な成長が見込みにくいことから、将来的な成長戦略として、海外市場の開拓を進める動きも見られる。
 以下、財務省『貿易統計』における、サプリメント(HSコード210690300)の輸出金額推移を示したものである。2021年度から2022年度にかけて大きく輸出金額が増加し、2022年度には335億円、前年度に比べ33%増加した。2023年度は処理水問題の影響などがあったと見られ、金額が落ち込んだものの、273億円に達し、2021年度を上回った。

サプリメント※の輸出金額推移

矢野経済研究所
※HSコード210690300:ビタミン、ミネラル、アミノ酸又は不飽和脂肪酸をもととした栄養補助食品(小売用の容器入りにしたものに限る。)
(データ出所:財務省『貿易統計』)
(画像=矢野経済研究所)

 政治的な問題や景気減速が強まる中国市場への期待が弱まる一方、経済成長が目覚ましいベトナムなどの東南アジアや、親日派が多いとされる台湾などの東アジアなどでの展開を行う企業が散見される。
 特に東南アジアは、以前より美白を中心とした美容サプリメントが人気であったことに加え、整腸や糖尿病、肥満などへの対策需要としてサプリメントの需要が高まっている。特に日本において機能性表示食品としての実績があるサプリメントに関しては、当該実績を基に、アジア圏での拡販期待が高まる。
 海外での展開における課題としては、食品全般にも言えることではあるが、現地でのパートナー、販路の開拓・確保に加え、各地の食品に関する法規制・レギュレーションへの対応である。特にサプリメントで使用される素材・成分、食品添加物に関しては、各国・エリアの規制に適合するかの確認が必須であり、各地の法・レギュレーションに精通した人材の確保も需要な課題である。
 また、差別化の図りにくいビタミン・ミネラルなどを中心にサプリメント大国であるアメリカや欧州などの他の国からのサプリメントとの価格競争に巻き込まれるケースも散見される。各エリアにおいて所得水準が高い層を中心に、日本産の高付加価値・高品質を訴求し、差別化を図ることも重要である。