ファンドを活用した成長戦略
(画像=aslysun/Shutterstock.com)

両社の概要とM&Aの背景

株式会社スタイラ(以下、スタイラ)は、オーガニック、ナチュラルをキーワードに「人と自然に優しいライフスタイル・コスメティック」を提案する化粧品輸入販売会社である。自社ブランドである「SINN」、ニューヨークとカリフォルニアで産声をあげた「john masters organics」「erbaviva」「erbaorganics」が約1,000店の美容サロンで扱われ、国内40の直営店でも販売されている。

2003年の創業から、野田義宗社長が奥様と2人3脚で経営し、2009年頃からオーガニック市場拡大とともに急成長を遂げた。ご夫妻のオーガニック市場の成長に対する先見性と、卓越した経営手腕の成果である。しかし、2011年3月、日本中に激震が走った東日本大震災が、ご夫妻の企業経営に対する考え方のターニング・ポイントとなった。志向するライフスタイルの変化、急成長するスタイラのマネージメントの難しさ、今後の更なる成長を担保する資金調達をどうするか、等の課題に対する解決のアドバイスを当社にご依頼頂いた。

一方、今回の資金の出し手であるライジング・ジャパン・エクイティ株式会社(以下、RJE)は、三井住友フィナンシャルグループ、住友商事及び三井住友信託銀行を主要株主として2010年に設立されたファンド運営会社である。社名の由来でもある「日本を元気にする」を使命に、成長のポテンシャルを有する日本企業に、積極的に資金提供を行っている。これまで、精密プレス加工、食品企画開発、自動車部品製造等に投資・出資を実行している。同社内で抱えるプロフェッショナルが、投資先役職員とともに汗をかき目標実現に向かう、いわゆる「ハンズオン型」で企業成長をサポートしている。

ファンドを活用した成長戦略
(画像=Futureより)

本案件の概要

本案件ではスタイラの資本政策とともに、スタイラの米国の重要取引先との資本提携を同時に行った。そこに至る過程としては、2011年12月にRJEが意向表明書を提出して以降、両社に加えて米国の重要取引先も交えて交渉することとなった。1年3カ月にわたる協議、交渉、デューデリジェンスの結果、関係各位が全て納得の行く最終契約を締結することが出来た。

現在は、野田社長が継続してスタイラ及び米国の重要取引先の経営を担い、RJEのプロフェッショナルスタッフが、経営陣・従業員とともに経営参画する、いわゆる「ハンズオン型」投資となっている。

M&A成約のポイント

・野田社長は継続して主要株主兼経営者として関与したい意向であったため、共同経営の手法、経験が豊富なファンドとの相性が良かった。

・米国の重要取引先に対するデューデリジェンスは、日本及び米国の法律事務所、4大監査法人の日本、シカゴ、ニューヨーク事務所が関わり、総勢約30名の弁護士、公認会計士、税理士が関与した。20種類に及ぶ大量の契約書も当然日本語と英語において取り交わされ、RJEのデューデリジェンスやクロージングの豊富な経験が、複雑な対応に奏功した。

・関係各位の要望を満たすためには複雑なスキーム構築が必要であり、法務面・税務面など多面的な検証を実施の上、当該スキームを安全に実行することに成功した。

スタイラの今後

スタイラは、コアとなるブランド力を有しており、マネージメント・内部管理体制を強化し、適切なリソース投入を実施すれば、成長余力の高い企業である。これまでスタイラの中心であった野田社長が継続して経営することで、会社の文化や理念はそのままに、更なる成長路線を描くことが可能だ。両社の協力により、今年は様々な新製品が発表され、100店舗体制を視野に、出店をさらに加速させている。日本におけるオーガニックスタイルの浸透の第一線を担ってきたスタイラは、今後のオーガニック市場の拡大にも貢献すべく、今回のM&Aを経て今なお成長を続けている。また、米国を起点にアジアにおける成長も視野に入れ、まさに日本発グローバル企業に脱皮しようとしている。

まとめ

上記のように、スタイラは2003年に野田ご夫妻により設立され、2009年から急成長を遂げた(2009年売上890百万円~2014年売上7,035百万円)。ご夫妻が感じ取られたように、今後ともこの成長率を維持していくことが、単独資本で可能であっただろうか?仮に可能であったとしても、組織改革、管理体制強化、システム再構築などの負担は避けて通れない。本件のアドバイザーを務めた者として、このようなターニング・ポイントにおいて、RJEとのビジネス・パートナーシップが築けたことは、スタイラの今後においてベストな企業戦略であったと確信している。

森山隆一(役員室 副部長 株式会社日本M&Aセンター)

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