Z世代の早期離職は上司力で激減できる!
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「大卒、3年、3割」の早期離職傾向は、30年間高止まりのまま

「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者の状況)」(厚生労働省、2023年10月20日)によると、2020年3月に卒業した新規学卒就職者のうち、大卒の32.3%、短大など卒の42.6%、高卒の37.0%、中卒の52.9%が、就職後3年以内に離職しています。

平成の時代には、ざっくり中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が3年以内に辞めるという「七五三現象」という言葉まで生まれました。

大学進学率の高まりとともに、将来の幹部候補生となるであろう大卒者の離職率を特に問題視する「3年3割問題」は、長らく企業の頭痛のタネとなっています。学歴別就職後3年以内離職率の推移を見ると、大卒は1995年に32.0%と3割を超えてから、多少の波はあるものの、2009年の28.8%を除き、ほぼ一貫して30年近く30%超えとなっているのです。

この間、企業は指をくわえて傍観していたわけではなく、ありとあらゆる離職防止・定着のための取り組みをしてきました。定着や引き留めのための、リテンションマネジメント。さらには船や飛行機に新しく乗り込んできた乗客にサポートを行い、慣れてもらうプロセスを指したオン・ボーディングという言葉も、入社から定着までの支援を表す人事用語として派生し、試行錯誤が続けられてきました。

私は、前職のリクルートで、平成半ばにリクナビの統括編集長を勤めた後、人材育成支援の(株)FeelWorksを立ち上げて17年目になりますが、私のもとにはこの間途切れることなく早期離職防止の相談が舞い込み続けて来ており、企業側の切実さも痛感しています。

しかし繰り返しますが、若者の早期離職傾向は減少しておらず、30%以上に高止まりしているのです。

「なぜ若者は辞めるのか?」「長く定着させるためにはどうすればいいのか?」…こうした経営者や人事の悩みに向き合う一方で、大学でキャリアデザイン論についての教鞭も執り続けて来た私は、「そもそも若者の早期離職はあってはならないことで、何が何でも防止すべき問題なのだろうか?」と考えるようになってきました。むしろ、「若者の早期離職=問題」という固定観念から脱却しなければ、社会を挙げて大切な若者を育て、組織成長を共に実現することも難しくなるのではないか、とすら感じるようになっています。

なぜ企業は早期離職を問題視するのか?

そもそも、なぜ企業は若手社員の早期離職を問題視するのでしょうか。理由は3つあります。

1つ目は、企業の持続成長に向けて、その企業ならではのDNAを受け継ぎ進化させていくために、他社の手垢が付いていない無色透明な新卒採用者を重視するからです。すなわち、自社色に染めたいということ。中途の即戦力・キャリア採用と新卒のポテンシャル採用では、選考基準はもちろん、担当部署も明確に分けられている場合も少なくありません。

2つ目は、莫大な採用と育成への投資の回収ができなくなるからです。採用の2~3年前から始まるインターンシップを皮切りに、採用広報、選考、内定、内定辞退防止、研修、OJT、ジョブローテーションなど、一人前のビジネスパーソンに育て上げるには、気の遠くなるような時間とコストと労力がかかります。企業にとって一人前になるまでは投資期間に当たるため、いよいよ投資回収、つまり戦力として活躍を期待するタイミングで早期離職されてしまうと、投資失敗ということになるのです。

3つ目は、少子高齢社会の日本では、若者は上の世代と比べ需給バランスとして売り手市場傾向のため、辞められると補充が難しいからです。読者の中には、若者の早期離職傾向にも山谷があると思う人もいるかもしれません。それもそのはず。一般報道などでは、若者の早期離職が大きく取り上げられる時期と、取り上げられることが少ない時期があるからです。しかし、先述のように若者の早期離職傾向に大きな波はなく、一定して高止まりし続けています。

ギャップの理由はシンプルで、企業の人材不足感・採用意欲が好況期で上がると注目度も高まり、不況期で下がると注目度も下がるからです。近年は世界に広がる戦禍に暗雲が立ち込めるものの、コロナ禍を越えて経済活動は活発化。バブル期を超える勢いの株価など、大企業の業績も好調に推移しており、採用意欲も高まっています。ただ、世界で最も少子高齢社会である現代日本では、景気の波に関わらず若者は希少な存在であるため、常に売り手市場傾向であり、補充は難しくなる一方と見るべきでしょう。

優秀な若者が望む「自らの成長」が得られる企業か?

企業が早期離職を問題視する背景を考えていくと、人材を企業内に囲い込む日本型雇用が前提要件となっていることが透けて見えます。日本型雇用とは、アメリカの経営学者であるジェームズ・アベグレンが挙げた「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の三種の神器を特徴とするもの。

アベグレンは、ボストン・コンサルティング・グループ設立に参加し、日本支社を設立し初代代表を務めた日本通でした。ここにおける新卒採用とは、労使一体となる“会社村”をつくりあげていくメンバーとして、新入社員を迎え入れるということです。日本には“就職”はなく、“就社”あるのみと言われる所以です。

しかし言うまでもなく、こうした日本型雇用は既に瓦解してきており、時代の変化にも対応しづらくなってきています。そもそもジェームズ・アベグレンが分析したのは、昭和の高度成長期を形作った一部の日本企業でもありました。

平成を越えて令和の現代。人生100年時代ともなる中で、終身雇用を保障できる会社はどれだけあるでしょうか。雇用者全体で4割、業種によっては大半が非正規雇用者に頼っている企業もある中、終身雇用を標榜できる企業は限られています。

また多くの企業で導入が進みつつあるジョブ型雇用では、新卒学生でも企業ニーズの高い専門スキルを持つ人材であれば、年功序列を崩して高給与を提供しようとする動きも出てきています。企業内組合の組織率に至っては2割を切って久しく、もはや大勢とは言えません。純粋培養の画一的な人材しかいない組織ではイノベーションも生まれないと、経営戦略として多様性を推し進めようとする動きも盛んです。さらには、国も兼業・副業解禁に舵を切っています。

また特筆すべきは、こうした昭和に原型ができた日本型雇用を知らないZ世代の若者、特に優秀な若者ほど、自分でキャリアを築いていこうとする意識が強くなってきていることです。終身雇用や年功序列を信じて滅私奉公してきた親世代が、早期・希望退職勧奨の対象になるなど苦労する様子を見ている若者もおり、なおさら自律意識が高まり、会社任せでは安心できないという気持ちも強くなっているようにも感じます。

実際、リクルートキャリアの「就職プロセス調査」 によると、新入社員の就職の決め手は、2019年卒以降、1位は「自らの成長が期待できる」となっています(【図】参照)。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる!

「健全な離職」を歓迎し、アルムナイ(卒業者)ネットワークを重視する

では、企業は若手社員の早期離職をどう捉えればよいのでしょうか。結論から言うと、早期離職を問題視する離職防止一辺倒の思考を冷静に見つめ直し、むしろ健全な離職であれば前向きに捉えることも必要なのかもしれません。

若手本人の成長と組織としての成長が合致しにくくなり、転職・独立・起業したほうがお互いのためになると考えられるなら、気持ちよく送り出すことも選択肢に入れましょう。裏切って辞めるのではなく、経験を積ませて卒業させると考える懐の深さが求められるのです。

バックパッカーで海外を回ってきたような留学生たちを教育し、ITエンジニアに育て上げ派遣する会社があります。ビジネスマナーからIT知識・スキルまで教え込み、育て上げたITエンジニアが派遣先の世界的企業に引き抜かれてしまうことも少なくないそうですが、代表者は意に介しません。

むしろ「社員個人にとってはキャリアアップになりますから、いいことだと考えています。もともとはフリーターなどをしてくすぶっていた人が、世界的企業のエンジニアになるって、サクセスストーリーじゃないですか」とまで話します。さすがに、それで経営が成り立つのかと質問したところ、元社員とのアルムナイネットワーク(OB・OG会)を組織し交流を続けることで、アルムナイたちが新たな発注元になり、業績向上に貢献してくれていると話してくれました。社員の離職を逆手に取る戦略です。

さらには、人生が長くなり変化が激しくなるこれからは、早期離職は「今生の別れ」でもなくなっていくはずです。企業には、出戻り社員を歓迎して受け入れることも奨励したいところです。転職したことで、元いた会社がいかに恵まれていたかに気付けることは珍しくないからです。不平不満が多かった若手社員が出戻ることで、真摯に働くようになることも期待できます。

社員を他業界や他社に出向させて、経験を積ませて育てる動きも出てきていますが、離職者とつながっておけば、巡り巡って育成・再会となることもあり得るのではないでしょうか。

「早期離職=問題」とする既成概念の呪縛を指摘するために、極端な提案もしましたが、大切なのは、個と組織が対等に選び選ばれ合う中で、共に成長していくことです。大切な人の採用と育成に向けて新たな挑戦が増えることで、閉塞感ある働く社会に希望が灯ると信じています。

※本稿は前川孝雄著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月1日)

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
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