会社を設立すると、決算書(決算報告書)の作成・提出が必要になる。個人事業主とは異なるルールもあるため、設立直後は戸惑うことも多いだろう。中小企業経営者から質問の多い、事業開始後に作成・提出する決算書の種類や提出先、提出期限などを押さえておこう。
目次
決算書(決算報告書)とは?
決算書とは、会社の業績を表す書類である。会社の財政状況や利益などを表す書類が複数あり、それらをまとめて決算書と呼んでいる。決算書として、会社がどのような書類を作成しなければならないかは、主に会社法と法人税法によって定められている。
会社の設立後、毎年続く決算書の作成や提出について、その根拠となる法律やルールを知ることは、経営者にとって大切なことだ。
会社法の決算書とは?
会社法上の決算書は、以下のとおりだ。
・貸借対照表
・損益計算書
・株主(社員)資本等変動計算書
・個別注記表
(会社法第435条第2項、第617条第2項、会社計算規則第59条、第71条)
会社法では上記の書類を「計算書類」と呼び、補足資料として附属明細書と事業報告書の作成が義務付けられている。会社設立後は、事業年度ごとにこれらの書類を作成することになる。株式会社だけでなく、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)も対象に含まれる。
法人税法の決算書とは
会社の所得には法人税が課されるため、事業年度が終了したら、会社は税務署に法人税申告書を提出しなければならない。その際は、以下の決算書を添付して提出することになっている。
・貸借対照表
・損益計算書
・株主(社員)資本等変動計算書
・勘定科目内訳明細書
・事業概況書
(法人税法第74条第3項、法人税法施行規則第35条)
決算書の7つの種類
ここからは決算書の種類についてどのようなものがあるのか見ていこう。
1.貸借対照表
貸借対照表は、決算日における会社の財政状態を表すものだ。英語ではBalance Sheetと言い、略してBSと呼ばれている。資産の部と負債の部、純資産の部の3部で構成され、資産の部の合計は、負債の部と純資産の部の合計と必ず一致する。
貸借対照表を見れば、会社に今どのくらい資産があるのか、借入はどのくらいあるのか、どのような設備があるかといった会社の「健康状態」を知ることができる。会社の安全性を知るための資料と言えるだろう。
2.損益計算書
損益計算書は、会計期間中の収益と利益の状況を表すものだ。英語ではProfit and Loss statementと言い、略してPLと呼ばれている。一般的には報告式という様式が用いられ、上から売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益の順に表示される。損益計算書は、会社がどのくらい稼いでいるかを知るための資料と言えるだろう。
3.株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、期首(その年度の事業開始日)から期末(その事業年度の最終日)までの、貸借対照表の純資産の部の中にある「株主資本」の増減を表す書類だ。株主資本とは会社の資産のうち株主に帰属する部分で、その増減を株主に報告するために作成される。合名会社、合資会社、合同会社では、「社員資本等変動計算書」となる。
4.個別注記表
個別注記表は、貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書の中で特に重要な事項を「注記」とし、補足的に説明する書類で、決算書の情報を正しく読み取ってもらうためのものだ。個別注記表に記載すべき項目はあらかじめ決まっており、株式公開会社か非公開会社かなどによって変わる。
中小企業の場合、中小企業会計要領等に準拠した会計を行うなどの取り組みによって、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資で優遇されることがある。このようなサポートの利用を視野に入れる場合は、個別注記表に、中小企業会計要領等に準拠して決算書類を作成した旨を記載するといいだろう。
5.勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書は、貸借対照表や損益計算書の勘定科目の内訳を示す、法人税法上の決算書である。貸借対照表や損益計算書ではわからない勘定科目の残高の内訳や、それらが具体的に誰に対する債権・債務であるかなどを明らかにする書類だ。
よく使われるものに「預貯金等の内訳書」「売掛金(未収入金)の内訳書」「棚卸資産の内訳書」「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」「仮受金(前受金・預り金)の内訳書」「借入金及び支払利子の内訳書」「役員報酬手当及び人件費の内訳書」「雑益、雑損失等の内訳書」などがある。
6.事業概況書(法人事業概況説明書)
事業概況書は、会社の組織や事業内容など、会社の概要が記載された法人税法上の決算書だ。項目には、事業内容や支店・子会社の状況、海外取引の状況、従業員数、経理の状況、税理士の関与などがある。
7.キャッシュフロー計算書(CF)
キャッシュフロー計算書は、金融商品取引法の決算書だ。「決算書」を求められた場合、キャッシュフロー計算書を含むかどうかは場合によるが、「財務諸表」を求められたらキャッシュフロー計算書を含むと考えていいだろう。
キャッシュフロー計算書では、会社の資金の流れを、その企業の活動内容に合わせて表す。具体的には、企業の活動内容を以下の3つに区分して作成する。
キャッシュフローの区分 | 内容 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | 営業活動などによる資金の流れ |
投資活動によるキャッシュフロー | 設備や有価証券への投資、融資などによる資金の流れ |
財務活動によるキャッシュフロー | 資金調達や借入の返済などによる資金の流れ |
8.製造原価報告書(CR)
製造原価報告書は、製造業の会社が会計期間中の製造原価を報告するための書類で、損益計算書に添付される。
材料費や製造、加工にかかる人件費、電気代などさまざまなコストを、製造にかかる直接的なコストと間接的なコストに分けて原価を計算し、報告する書類だ。会社法や法人税法で定められているものではないが、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」にその作成根拠が記載されている。
決算書の提出先は?
株主
会社は、株主に決算書を提出する義務がある。株主が経営者本人とその身内だけであれば問題になることはほとんどないが、ポイントは押さえておこう。
・株主総会の招集通知
会社の決算書(計算書類と事業報告)は、決算後の定時株主総会に提出し、株主総会の承認を受けなければならない。株主総会を開催するには、決められた期日までに株主への招集通知が必要になるが、招集通知を行う際に、会社の決算書(計算書類と事業報告)を株主に提出する義務がある。(会社法第437条、438条第2項)
・株主からの開示請求
株主は、会社に備え置かれた決算書の閲覧を請求することができる。議決権の3%以上、あるいは発行済株式の3%以上を保有する株主は、会計帳簿や関係書類の閲覧などを請求することもできる。(会社法第442条第3項、第433条1項)
税務署
法人税申告書に添える決算書は、納税地を所轄する税務署に提出する。法人税の納税地は、原則はその本店または主たる事務所の所在地となる。(法人税法第16条)
金融機関
金融機関から融資を受ける際は、審査のために決算書の提出を必ず求められる。会社法上の決算書だけでなく、税務申告書やキャッシュフロー計算書を求められることもある。決算書や税務申告書については、直近3期分の提出が求められることが多い。必要書類は、金融機関ごとに確認する必要がある。
その他
他にも、決算書は取引先企業や債権者、帝国データバンクなどから求められることがある。
提出期限は?3つの場合で解説
では決算書の提出期限はあるのだろうか。だれに提出するかで場合分けして見ていこう。
1.株主の場合
株主総会の招集通知の提出期限は、公開会社でない場合、原則的に株主総会の1週間前だ。(会社法第299条第1項)監査役や取締役会のある会社は、その監査や承認を受ける必要があるため、決算書の作成はこれらのスケジュールから逆算して行う必要がある。
2.税務署の場合
法人税の申告期限は、各事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内だ。(法人税法第74条)したがって、この期限内に法人税申告書と決算書を作成・提出する必要がある。
ただし、申告は確定した決算に基づくものなので、たとえば定款などで株主総会の招集が「決算後3ヵ月以内」となっている会社などは、提出期限の延長が認められることもある。また、災害などの理由がある場合も提出期限の延長が認められる。
提出期限の延長を希望する場合は、要件や必要な手続きについて、税務署や顧問税理士などに確認するといいだろう。
3.金融機関の場合
融資を申し込む際の決算書の提出期限は、金融機関によって異なる。通常は、申し込む前に事前相談をすることになるが、その際に必要な決算書と提出期限を確認するといいだろう。
正しい決算書を作成するためには、正しい会計処理が不可欠だ。特に中小企業の会計処理は、税務に影響される部分が多いため、実際は会計だけでなく税務の基礎知識も必要になる。
とはいえ、経営の舵取りを行う中で、専門外の知識を自力で習得するのは難しいだろう。
会社を設立する際や、会社を設立して間もない頃は、税務会計のサポートを任せられる税理士や会計士などの専門家を見つけて任せることが、事業を早く軌道に乗せる近道と言えるだろう。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)