就職活動や転職活動をする際、避けては通れないのが採用担当者との面接だ。表情の見せ方や話し方は独力でのトレーニングが難しく、大学のキャリアサポートセンターや専門の塾に通って練習する方法があるものの、予約が取れなかったり、通う時間がなかったりといった問題もある。
そんな課題を解決してくれるのが、株式会社シーエーシー(CAC)が2023年10月に提供開始した面接対策専用アプリ『カチメン!』だ。表情と音声の感情分析AIを活用し、スマートフォンで手軽に面接のトレーニングができるこのアプリは、どのような経緯で生まれ、どういった機能が盛り込まれているのか。CACの新規事業開発本部でサービスプロデューサーを務め、『カチメン!』の考案者でもある丹治由佳に話を聞いた。
大学卒業後、IT企業でセールスの経験を積み、2011年に株式会社シーエーシーに入社。同社でも営業を務め、その後2017年、新設されたAI&ロボティクス部門のグループ長に任命され、様々な事業立ち上げに携わった。2021年から新規事業開発本部に所属、『カチメン!』のプロダクトオーナーとしてサービス開発、事業拡大をリードする。
――これまでの経歴について聞かせてださい。
丹治 CACには2011年に入社して、その前は別のIT企業で主に営業の仕事をしていました。CACに入社してからも、最初の数年間は営業が中心で、2017年に最新のテクノロジーを扱うAI&ロボティクス部門の新設に伴ってそこの配属となり、グループ長として様々なAI技術を取り扱う事業の立ち上げに携わりました。その中の1つ、感情認識AIとは7年近くの縁になります。
その後、2021年に新設された新規事業開発本部に異動となり、ゼロイチでの新しい事業創出のミッションを任され、そこで考案したのが『カチメン!』のサービスです。今はプロダクトオーナーとして『カチメン!』の責任者を務めていて、開発や営業、PRなどすべてを統括しています。
ただ、実際に私がプログラミングをするわけではなく、そこは当社のR&D部門のメンバーに技術支援を受けたり、一部、外部の会社さんに委託させていただいたりしながら推進しています。
――『カチメン!』がリリースされた背景と、サービス内容について教えてください。
丹治 「ゼロイチでサービスを作ってください」と会社から言われて何ができるかと考えた時に、ある程度、土地勘がある領域じゃないと難しいので、それまでにずっと関わっていた感情認識AIを活用して何か作れないかと考えたのがきっかけになります。
当社の感情認識AIは、人の表情筋の動きを見てその人の感情を分析するという技術なんですが、そういうシーンが必要になりそうなものをリストアップして調査をしました。その中で市場規模が大きくてビジネスになりそうなものとして、就活生・転職希望者向けのサービスとして立ち上げました。
『カチメン!』は面接対策アプリで、スマートフォンにダウンロードして立ち上げると、模擬面接の練習ができるんです。練習している時の様子をスマートフォンのカメラで録画し、表情筋の動きから、笑顔や真剣な表情がどれくらいあるか等を数値化してスコアを出します。また、当社の事業の1つである音声感情解析AI『Empath』の技術も実装していますので、面接練習の際に発した音声も分析できるようになっています。
――ユーザーは面接対策にあたって、『カチメン!』をどのように活用できるのでしょうか。
丹治 調査の段階で学生さんにヒアリングした時、「緊張して顔が固まってしまう」「うまく笑顔が作れない」「頭の中が真っ白になってしまう」「自分が伝えたい印象を正確に伝えられているかどうか分からない」といった声がありました。『カチメン!』を使うと、自分が話している様子の分析スコアが出るのに加え、自分がどういう表情、動きで話をしているのか、録画した映像を後から見返すことができます。
スコアを参考にしつつ、それを見ながら自分で気づきを得て、繰り返し練習をすることで表情や話し方を改善することができます。話し方は練習すればするほど上達します。スマホアプリでいつでもどこでも何度でも練習できますので、話すことに慣れてもらうことで、本番の面接でもリラックスした状態で話せるようになると思っています。
――表情分析に加え、専門家によるアドバイスもありますね。
丹治 2人の先生に監修に入ってもらっています。1人は「大阪ワイズ就活塾」という就活に特化した個別指導塾を経営されている面接アドバイザーの松原吉宏先生です。指導された生徒さんの就職内定率が100%という実績を誇る先生で、『カチメン!』では練習用に、面接でよく聞かれる質問に対しての回答テンプレートを作っていただき、分析結果のアドバイスも書いていただいています。
もう1人は表情分析専門家の清水建二先生です。当社が取り扱っている表情分析AIは「FACS(Facial Action Coding System/顔面動作符号化システム)」と呼ばれる表情理論をベースに設計されているんですが、清水先生はFACSのスペシャリスト(認定FACSコーダー)で、分析結果からのアドバイスの出し方やスコアを出す時の計算式などの監修に入っていただいて、より実践的で精度の高いアドバイスや分析結果が出せるようになっています。
また松原先生や清水先生には、アプリ内でも読める特別なコラムを書き下ろしてもらっています。独特の視点でのコラムは、他では読めない内容になっているのでぜひ、読んでいただきたいです。
――具体的にどのようなアドバイスをもらえるのでしょうか。
丹治 笑顔を例に挙げると、口角が左右対称に引き上がったほうが印象の良い笑顔に見られやすく、片方だけ上がってしまうと逆にネガティブな印象を与えてしまうので、左右対称に上げるようにしましょう、頬の筋肉も一緒に上げるとすごく笑顔に見えます、といったことをお伝えします。他にはまばたきの数が多すぎたり、顔や体の動きが大きすぎたりすると落ち着きがなく見えてしまう、といったアドバイスもします。
また、真剣な表情で1分間、会話をする練習があるんですが、真剣な表情をし続けるとポイントが低くなってしまいます。これは、ずっと真剣な表情だと怖い印象を与えてしまうからで、1分間の会話の中で笑顔がこれぐらいの割合だと好印象を与えられて、これぐらいの割合で真剣な表情が出ていればやる気が伝わる、といったアドバイスもします。
――アドバイスはどのような形でユーザーに提供されるのでしょうか。
丹治 パターンをいくつか作っています。分析スコアは総合点の他に「笑顔点」や「落ち着き度」、「表現力」などの内訳点がいくつかあって、各項目がこの点数だったらこう、この項目が低かったらこう、といった感じでアドバイスが提供される形になっています。
――スコアとアドバイスを見ながら繰り返し練習することで、どういう点が改善されるのでしょうか。
丹治 話している時、表情にまで気が回っていない方はすごく多いんです。ただ一方で、新卒生の面接をする場合、採用面接官は学生さんには職務経験がないことを前提でお話しします。社会人としてのスキルや経験よりも第一印象を重視する傾向にある、だからこそ笑顔や好印象に見える表情、話し方がすごく重要になるんです。それが練習によって作れるようになると思います。
また、話す内容を台本にしておけることに加え、それをどういう表情で話すかといった練習も選べます。これはなぜかというと、人間は話している内容と表情が一致した時が一番、説得力が増すと言われているからなんです。楽しいことを話している時に楽しそうな表情をすれば、非常に説得力が増すんですね。ですので、話す内容と作る表情を一致させる練習ができることを、ユーザーさんにはぜひ実感してもらいたいなと思います。
――ちなみに、表情は人によって違うと思いますが、AIでの識別や分析に影響はないのでしょうか。
丹治 FACS理論で定義されている笑顔の筋肉の動かし方というのがありますので、それができるようになると、基本的には「誰が見てもいい笑顔」になります。たとえば元々、口角が下がり気味の方がいて、その方がFACS理論に基づくトレーニングをして口角が上がるようになると、自分が笑顔になっているつもりはなくても、周りの人からは笑顔に見えるようになります。
――現在はB to C向けのサービスですが、大学や就活エージェント等、B to B向けに展開する可能性はあるのでしょうか。
丹治 今、まさにそこを検討していまして、今年、B to Bで展開することを視野に入れて準備をしています。就活エージェントさんなどにヒアリング調査を実施し、どういう機能、どういう形でお届けをすれば実際に使ってもらえそうかを調査しているところです。
――『カチメン!』を就活分野、さらにはもっと広い分野でどのような存在にしたいですか。
丹治 就活生や転職希望者の2人に1人がスマホに入れて練習してもらえるような“鉄板”のアプリにしたいと思っています。リリースしてまだ数ヵ月なのですが、まずは認知度をどんどん上げていく必要があります。
実際に使っていただいた学生さんからは、「予想以上にちゃんと分析してくれる」とか「思っていたよりアドバイスが良かった」という声を多くいただいています。ただ、存在を知らないと使っていただけないので、まずは知ってもらい実際に使っていただいて、良さを認識・認知してほしいと思いますし、他にもこういう機能を加えてほしいという要望がありましたら、どんどん改善も進めていきたいと思っています。
(提供:CAC Innovation Hub)