カナダ産大豆は豆腐や納豆、豆乳などに使われており、加工適性の高さや品種の多様さが評価されている。
2023年のカナダ産大豆は、全体の生産量は過去最高記録に近く、Non—GMO大豆も前年から微増となった。2024年産の最新の作付意向では、Non—GMO大豆はさらに増える見通しが示されている。
中長期的には、GMO大豆の生産が主体だった西部マニトバ州での栽培に適した品種が開発されたことで、同州におけるNon—GMO大豆の生産が今後増えていくことが期待されている。
カナダ大豆協会のニコール・マッケラー市場開拓担当マネージャーに、中長期の生産見通しや日本市場における今後の展開、2023年からスタートした「持続可能なカナダ産大豆プログラム」と「カナダ産食品用大豆検索データベース」について話を聞いた。
――2023年の生産量の結果を振り返って
2023年の生産量は前年比6.7%増の700万tと過去最高記録に近い数字となった。過去最高記録は2017年に打ち立てられた。その後、若干生産量が減ったが、2021~2023年にかけて生産量は上昇傾向で、好ましい傾向だ。
Non—GMOの生産量は、この5年から7年はかなり安定したレベルとなっている。2023年の生産量は予想を上回る単収を達成できたため若干増えて112万tとなった。
――生産量が一時的に減って、再び増加した理由は
2018~2020年にかけて生産量が減少した理由は、特に西部カナダのプレーリー州と呼ばれるマニトバ州、サスカチュワン州で厳しい干ばつがあり、その結果、単収が大幅に減ったことで生産量が減少した。主に減ったのはGMO大豆で、Non-GMO大豆はこの間も比較的生産量は安定していた。Non—GMO大豆は、主に東部のオンタリオ州、ケベック州で生産されており、このような天候の影響を受けていなかったためだ。
ここ数年で再び生産量が増えてきている理由だが、西部カナダ地域における天候が大豆の生産に適した天候になった結果、作付面積も増えた。また、干ばつ耐性や寒冷気候に耐性のある新品種が開発され、農家がそれを使うようになった結果、東部含めてカナダ全体として単収が上がった。
〈目標達成へ品種開発に注力、マニトバ州でNon—GMO大豆の生産増えること期待〉
――現時点での2024年の生産見通しは
カナダ統計局が3月初めに最新の推定値を発表した。カナダの全国の農家に作付意向についてのアンケート調査を行った結果に基づいたものだ。それによると、2024年のカナダの大豆、Non-GMOも含めて大豆の作付面積予測は227万haとなっている。これは2月初旬のセミナーで発表した数字から1%減少している。
GMO大豆は189万haで若干減った一方、Non-GMO大豆は36万4,000ha で若干増えている。全体として減っている理由は、主に西部カナダのマニトバ州、サスカチュワン州において、土壌が乾燥状態であるためだ。
――今後の天候予想について
現時点では、今後数ヶ月間は大豆の生産にとって良い天候になると予測されている。大豆農家にとっては喜ばしいニュースだ。本当にその通りであれば、さらに作付面積が若干増える可能性はある。ただ天候というのはいつ変わるかわからないので常に注視していく必要がある。
――10年間で作付面積1,000万A増、生産量10倍の目標について
2027年までに生産量を倍増するという目標は2016年の戦略計画の中で策定された目標で、当協会が設立まもない若い組織だった頃に作られた。しかも2016年は記録的な生産となった中での目標値の設定だった。2017年に過去最高を更新し、残念ながら天候問題でその後は生産量が若干減った。少し野心的な目標で、現在の生産レベルを見ると、目標を達成できるかは分からないが、それに向けて頑張っているところだ。
目標達成のために一番注力しているのは品種の開発だ。種子の開発の会社、研究者などが協力し、例えば干ばつや寒冷気候、生育シーズンが短くなった場合などに耐えられる大豆の品種の開発に取り組んでいる。
――そのうちNon-GMO については25%増を目標としているが、エリア的に増えるのは
Non-GMO大豆の生産は主にオンタリオ州とケベック州だが、最近はマニトバ州においてNon-GMO大豆の生産が始まり、なおかつ拡大しつつある。その理由はマニトバ州に適したNon-GMO大豆の品種が新しく開発されているからだ。われわれとしては、マニトバ州でこの新品種によってNon-GMO 大豆の生産が増えることを期待している。
〈農家から需要家まで品質のトレサビを保証する「CIPRS(シプラス)」制度〉
――品種開発に力を入れ、開発スピードも速いという評価がある
カナダは幸運なことに、品種の開発会社、民間、公共のさまざまな研究機関があり、協力して新品種の開発にコミットしている。カナダの大豆業界、農家は干ばつ耐性や病害虫耐性、それぞれの地域の気候にあったさまざまな品種を選ぶことができる。
カナダには、こういった品種開発、業者、機関が開発を行い、評価を行い、登録するという、しっかりとした制度がある。登録の際には、その農家のニーズを満たすだけではなく、海外のお客が求めている品質も満たすような品種が登録される制度となっている。
その中で、カナダ大豆協会が大豆業界の機関、組織として、まとめる役割を果たしている。研究者や農家、官民の種子開発機関などが、お互いに話すことができるようにしている。バリューチェーンのあらゆる関係者が一緒になって、どのような品種を将来開発しようかということを話し合う。単に農家のニーズを満たすだけではなく、海外のお客が求めている品質を満たすような品種を開発できるように、業界全体で話し合い、どういった品質を開発していくかを決め、できるだけ迅速に市場に出すことができるようにしている。
――プレミアム価格の高騰理由と今後の見通しは
Non-GMO 大豆を生産するかを農家が決めるに当たってはいくつかの要因がある。1つは、もちろん利益が上げられるかどうかだ。2つ目は農家の輪作計画の中で、それがフィットするかどうかということだ。3つ目は、自分の農地の持続可能性を考えた場合に適しているかということだ。
Non-GMO 大豆を生産するためには時間もかかり、管理も大変でコストがかかる。特に農機具や貯蔵施設などを綺麗にして、GMO大豆、あるいはその他の品種のものが混入しないようにしなければならないため、プレミアム価格が必要になってくる。
ここ数年、農家が直面している問題の1つは、生産資材のコスト高騰だ。具体的には燃料や農機具、農薬などのコストが高騰している。Non-GMO大豆を生産するためのコストも増えている。食品用の大豆生産に関心を持つためには、そういったコスト高騰を反映したプレミアム価格になる必要がある。
――日本市場に向けてカナダ大豆のアピールポイントと今後のマーケティング展開は
カナダは高品質で持続可能な大豆、日本のお客が信頼することができる大豆を供給できることに誇りを持っている。日本市場はカナダ産大豆にとって大変重要な市場だ。日本市場に進出して約40年が経っている。カナダは研究と品種の開発にコミットをしており、日本の食品メーカーに合った必要な品質を満たすことができるさまざまな品種を取りそろえている。
カナダ産大豆は高品質で知られており、しっかりとした品質保証、認証制度がある。これにより農家から最終的な需要家まで、品質のトレーサビリティが保証されている。この制度は「CIPRS(シプラス)」(カナダ分別生産流通認証制度)と呼んでいる。政府が管理している同制度によって、Non-GMO大豆が農家から需要家まで完全にトレースできる品質保証制度となっている。
また、カナダの大豆業界は持続可能な将来にコミットしている。大豆の生産農家および輸出業者は、生産は増産しつつ、なおかつ大気、水、土壌の質を保全しながら増産することにコミットしている。カナダは非常に信頼性の高いインフラ、高容量のエレベーター網や最新のテクノロジーを使ったエレベーター網が整備されている。農家からこれらのエレベーターを通って、港から需要家まで最新のテクノロジーを使いつつ品質が確保されている。
〈「持続可能なカナダ産大豆プログラム」はロゴの可能性も探索、DBは積極的な利用も〉
――日本の豆腐・納豆メーカーから寄せられる要望は
毎年、日本に貿易ミッションを派遣しており、2024年も2月初めに派遣した。さまざまな豆腐関係の団体と話し、メーカーと直接話をする機会があり、どういった品質やパラメータを求めているか理解しようとしている。豆腐メーカーはやはり高たん白を求めている。たん白分が高いと、より品質の高い豆腐ができるということだ。
一方、納豆は高たん白というよりは、小粒を求めている。豆乳メーカーは味やイソフラボンレベルを求めているようだ。われわれとしてはさまざまな業界団体と話をして、どういったものを求めているかを聞き、そのフィードバックに基づいて品種開発している。
――2023年から「持続可能なカナダ産大豆プログラム」をスタートされた
2023年にこのプログラムは開始している。カナダ大豆協会が開始したプログラムだが、実際の運用はカナダの大豆の輸出業者、取扱業者が行うプログラムだ。まず農家が自己評価を行い、持続可能性を第三者が検証し、証明書を発行する。第三者が検証した持続可能な大豆を供給するためのものだ。買い手が持っている持続可能性の目標および要件を満たすことができる大豆を供給する。
このプログラムは、持続可能な農業イニシアチブ(SAI)プラットフォームの農場持続可能性評価(FSA)に基づいている。FSAは世界的に広く認められた持続可能な調達に関するプログラムで、農場の持続可能性を、採算性、財務状況、社会的責任、環境保護などの観点から総合的に評価するものだ。既に世界中の大手の食品・飲料メーカーも使っている。
同プログラムについての反応だが、自社の製品のパッケージに持続可能性のロゴを付ける場合に、検証済みの大豆であれば助かると聞いている。「持続可能なカナダ産大豆プログラム」のロゴを付ける可能性も探っている。
――「カナダ産食品用大豆検索データベース」を設けられた
カナダ大豆協会のウェブサイトの同データベースには100品種以上の食品大豆を掲載している。しかもインタラクティブなデータベースとなっており、大豆食品メーカーが自社に必要な品種を検索することができる。例えば高たん白、高イソフラボン、スクロース分が高いなど、特徴に合わせて検索することができる。
2月初旬の貿易ミッションで大豆食品の関係団体と話した際、会員がこの品種検索データベースを積極的に使ってもらっているということだった。これを使って自分たちの会社の製品、用途にとって適した品種がどれかデータも出ているので、適した品種を見極めているとのことだった。
――最後に日本市場に向けて一言
日本はカナダの大豆にとって重要な市場なので、今後とも鋭意努力して期待に添えるような、信頼性の高い大豆を供給できるようにしていきたいと考えている。
〈大豆油糧日報2024年4月11日付〉