2020年度,IPO,予想
(画像=MaximP/Shutterstock.com)

新型コロナウイルスによる世界同時株安で日経平均が一時1000円を超す下げ幅を見た2月25日、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場(IPO)した障害福祉・介護・外食事業を展開するAHCグループは公開価格を61%上回る3550円の初値でデビューする好スタートを切った。波乱相場の環境下でも健闘するIPOは、株式市場の物色意欲を高める効果がある。2020年度(4月から来年3月)も有力企業の上場が観測されている。

3月は例年以上の企業が取引所デビュー

年間(1-12月)ベースで、他取引所からの上場、優先株、REIT(不動産投資信託)、ETF(上場投資信託)などを除いた東京証券取引所(1部・2部・マザーズ・ジャスダック)へのIPO社数は、2019年に81社、2018年89社、2017年86社、2016年81社と近年は80社ペースが継続している。

こうしたなか、今年3月には22社のIPOが予定(2月25日発表現在)されている。この数は昨年を6社、2年前を8社上回っている。決算期やカレンダーの関係で月間ベースでは例年12月と3月にIPOは増加、対照的に1月と5月は閑散期となる。

一般的にIPOを規模する企業はまず、東証など各取引所に「株式上場申請」を行う。これは企業が独自に対外的に発表するケースもあるが、通常は公にならない。その後、取引所が審査を経て新規上場の承認を発表し、ブックピルディング(需要予測)、公開価格(公募・売出価格)の決定、上場日などのスケジュールが明らかとなる。

この取引所の発表は上場日のおよそ1カ月前となる。なお、マーケット環境が悪化するとIPOスケジュールが正式発表された企業でもIPOを延期・中止する場合もある。

スカイマークとステムセル研究所は東証に申請中

2019年度は法人向け名刺管理サービスのSansanやトレーディングカードゲームのブシロード、2018年度はフリーマーケットアプリ最大手のメルカリ、通信メガキャリアの一角を占めるソフトバンクなどの話題企業がIPOを果たしたが、今2020年度もビッグネームのIPOが観測されている。

その筆頭格は半導体大手のキオクシアだ。2017年に東芝が半導体事業を事業分割して誕生した東芝メモリホールディングスが前社名。アサツーDKや雪国まいたけ、マクロミル、すかいらーくなどで投資実績のある米国の投資ファンド「ペインキャピタル」や東芝、HOYA、日本政策投資銀行などが出資している。

一部の報道によると時価総額は東京エレクトロンや日本電産、日本郵政、日本たばこ産業に並ぶ4兆円規模ともされている。2019年秋の上場説も流れたが、今秋の登場が見込まれている。

知名度の面ではスカイマークの再上場も話題となりそうだ。スカイマークは2000年5月にマザーズにIPOしたのち、2013年11月に東証1部への市場変更を達成、その後、2015年1月に民事再生法適用を申請し、同年3月に上場廃止となっていた。その後、投資ファンドのインテグラルやANAホールディングスの支援を得て、経営の立て直しが進んでいた。

2019年10月30日には、スカイマークが東京証券取引所に再上場を申請したと発表したことが報道されている。ただし、キオクシアとともに新型肺炎の問題が長期化すると、再上場計画スケジュールに影を落とす可能性もある。

このスカイマークと同様に会社側が東京証券取引所に上場を申請していることが明らかになっているのがステムセル研究所だ。整水器販売を主力とするウォーターヘルスケア事業を展開する東証1部の日本トリムが、2020年1月6日の大引け後に連結子会社であるステムセル研究所の上場申請をリリースしている。

ステムセル研究所は厚生労働省から特定細胞加工物製造許可証を取得した民間企業で、民間臍(さい)帯血バンクのパイオニアとして将来の疾病や再生医療・細胞治療に備えて、臍帯血由来の幹細胞を長期保管するサービスを展開している。株式市場でバイオベンチャー銘柄の人気は下火気味ながら、事業内容面で類似企業が見当たらないだけに「初物人気」を呼び込む期待がある。

東京証券取引所に上場申請を準備している点では、東証1部上場企業で格安航空券販売を手掛けるエイチ・アイ・エスが2019年2月に連結子会社のハウステンボスとハウステンボス・技術センターがそれぞれ準備を開始したとリリースしている。ただ、こちらの具体的な上場は来年以降となる見込みだ。

Retty、C ChannelもIPO接近

このほか、グルメニュースの実名口コミアプリを展開しているRetty、メイク、ヘアアレンジ、レシピ、ネイルなど若い女性向け1分間動画アプリを展開するC Channel、非接触ICカードリーダーライター「ピットタッチシリーズ」など働き方改革、店舗改革ソリューションを解発するスマート・ソリューション・テクノロジーなどのIPO接近もマーケット関係者の間でささやかれている。

店舗での予約管理システムや営業担当者の連絡ツールを開発のアイキューブドシステムズ、デザインと機能にこだわったトースターなどのキッチン用品、空気清浄機、照明器具など家電開発企業のバルミューダ、IT人材向けメディア事業、エンジニア人材事業のBranding Engineer、就業管理システム・勤怠管理システムのクロノスもIPOの有力候補として期待されている。

また、過去にメディアでIPOが取り沙汰された有力企業・著名企業では、無料ニュースアプリのスマートニュース、即戦力人材を対象にした中途採用サービスのビズリーチ、学生向け就職情報サイト、就活ビジネスを展開のマイナビなどがある。

最近のIPO銘柄の特徴は「働き方改革」「セキュリティ」「AI(人工知能)」「クラウド」を事業に結び付けて成功した企業が多く、今年度も多くの有力IPO企業が誕生しそうだ。ただし、こうしたIPO候補企業も、足元で懸念される新型肺炎の影響で業績見通しが厳しくなった場合や株式市場の環境が悪化した場合は、IPO時期を見送る可能性があることには留意しておきたい。

文・THE OWNER編集部

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