「実店舗で食品の販売をしているが、ECのチャネルを増やしたい」と考える食品関連の事業者は多いと思います。特にコロナ禍以降、顧客は食品をECで購入することが増えました。
ただし食品ECは「事前に準備しておくべきこと」「特に注意すべきこと」があります。この記事では、食品を製造・販売している方が安心してECに進出できるよう「食品ECで気を付けるべきこと」「食品ECで成功するためのポイント・事例」などを詳しく解説します。
目次
食品ECの種類
食品ECの主な種類は、以下の3つです。
●一般的な食品ECサイト
●ネットスーパー
●定額制の食品ECサイト
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.一般的な食品ECサイト
一般的な食品ECサイトでは、生鮮食品、加工食品、酒類、飲料などの商品が取り扱われます。これらは「メーカーや小売店が自社サイトで販売する」「大手モールに出店する」という形式で販売します。
近年では「DtoC(Direct to Consumer)モデル」が注目されています。生産者や食品メーカーが直接消費者に商品を販売するスタイルが普及しています。
2.ネットスーパー
ネットスーパーはスーパーマーケットがインターネット上で注文を受け付け、顧客の自宅に商品を配送するサービスです。
この形式には「既存のスーパーがEC事業に参入するケース」と「実店舗を持たずにECに特化するケース」があります。
地域限定のモデルを取るケースが多いため、総合系ECサイトで構築すると失敗してしまう可能性があります。また差別化をすることが重要になるため「サイトの作り込み」が重要になります。
3.定額制の食品ECサイト
生鮮食品や加工品などを定期的に顧客に届けるサービスもあります。
このタイプのECサイトは「日常的に必要なものを扱うモデル」と「高品質な商品に特化したブランド重視のモデル」の2種類があります。
前者は中小企業にはおすすめできません。OisixやAmazonといった大手との差別化が難しいため、勝ち目が薄いです。
一方で後者は商品・ブランド力で勝負できるため、中小企業にも勝ち目があります。特に「高級品をECで買って家でたしなむ」という文化はコロナ禍で盛り上がり、市民権を得ました。
食品販売の市場規模とEC化率
経済産業省の調査によると、2021年のBtoC市場における「食品、飲料、酒類」分野のEC化率は3.77%であり、物販系分野の平均EC化率8.78%と比較して低い状況にあります。
しかし、市場規模全体は2兆5,199億円と他の分野より大きく、食品ECの将来性は注目されていることがわかりました。この結果から、EC市場は今後の成長が期待されるため、食品EC業界への関心は高まっているといえます。
参考:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
食品ECを展開する3つのメリット
食品ECを展開するメリットには、以下の3つが挙げられます。
●販路拡大が狙える
●食品それぞれの魅力を伝えやすい
●営業時間外の機会損失を減らせる
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.販路拡大が狙える
食品ECの大きなメリットは販路の拡大です。地域の商圏に限定される実店舗と異なり、ECサイトなら全国規模で販路を拡大できます。これにより、売上の増加も見込めます。
特に、人口減少が進む地方ではEC化による商圏の拡大は重要な戦略です。オンラインでの販売は、地元客以外にアプローチできます。
2.食品それぞれの魅力を伝えやすい
食品ECサイトでは、各商品の魅力を詳細に伝えやすいです。実店舗ではディスプレイ上で1つずつ商品説明をすることが難しいです。しかしECサイトでは各商品に対して写真や文面でアピールできます。
「産地」を含めたストーリーを紹介できるため、ブランディング効果を発揮しやすいです。
3.営業時間外の機会損失を減らせる
ECサイトのもうひとつの大きなメリットは、24時間365日営業できる点です。実店舗では営業時間や休業日の制限がありますが、ECサイトは常に開いており、時間に関係なくいつでも購入が可能です。
これにより、営業時間による機会損失を防げます。この利便性が食品ECの大きな魅力となっています。
食品ECが抱える3つの課題
食品ECが抱える課題には、以下の3つが挙げられます。
●物流での温度帯管理・賞味期限管理が難しい
●ブランディングが難しい
●品質管理が難しい
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.物流での温度帯管理・賞味期限管理が難しい
ECサイトで生鮮食品を扱う際の課題は、商品の鮮度維持と温度管理です。
冷蔵・冷凍の処理、保冷剤の同梱などにミスが生まれ、配送途中で商品が腐ってしまう、というケースもありえます。
配送時には、生鮮食品を新鮮な状態で届けるために、速やかな配送と冷蔵・冷凍などの温度管理が重要です。これを実現するためには、特化した物流システムと配送ルートの構築が必要となります。
2.ブランディングが難しい
食品ECサイトのブランディングは、難しいとされています。なぜなら食品の「味」は一度食べた後に忘れられがちだからです。
そのため効果的なブランディングのためには、商品の背景にある「ストーリー」や「生産者の価値観」を伝えることが重要です。
事例でいうと、ある京都の漬物店では、商品の味だけではなく「地域性や歴史」の訴求に力を入れました。その結果、漬物のブランド価値が高まり、リピーターを多く獲得できました。
食品の味は比較的早く忘れられることがありますが、ブランドの背景やストーリーは消費者の記憶に長く残ります。
3.品質管理が難しい
実店舗の場合は、購入者が鮮度や産地を直接確認できます。また提供側も手渡しするため、最後まで商品の状態を確認できます。
一方でEC販売の場合は、間に物流が入ります。そのため提供する側は商品を渡す際の状態を確認できません。ほとんどあり得ませんが「商品のピックアップや配送にミスが発生して賞味期限切れの商品が届いてしまった」という可能性は捨てきれません。
食品の鮮度や食中毒などは事業者にとってこの上ない痛手です。品質のリスク管理は特に重視しましょう。包装の選択や注意書きの記載など、さまざまな注意点があります。
食品ECで成功するための3つのポイント
食品ECで成功するためのポイントには、以下の3つが挙げられます。
●ギフト需要に応えられるようにする
●食品の品質を担保するため物流システムを構築する
●実店舗にはない独自性をアピールする
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
1.ギフト需要に応えられるようにする
食品ECサイトでは、ギフト需要が高いといえます。このニーズに対応するユーザビリティを強化しましょう。例えば「目立つ場所にアイコンや説明を配置する」「ラッピングの種類を選べるようにする」などの対策をして、利用者にわかりやすく訴求することが求められます。
一方、ギフトと自家用両方の需要を持つサイトでは、ギフトオプションの説明を「買い物方法」セクションにまとめる方法が有効です。
2.食品の品質を担保するため物流システムを構築する
食品ECを成功させるには、食品の品質を保証する物流システムの構築が必要です。特に、鮮魚や食肉などの鮮度を保つためには、湿度や温度を管理できる倉庫が欠かせません。
食品管理や輸送を専門に取り扱っている物流会社に委託するのが大きな解決策の一つです。これは企業・ブランドの信頼性を高めるうえで重要な要素となります。
3.実店舗にはない独自性をアピールする
食品ECサイトの成功のためには、実店舗とは異なる独自の魅力を打ち出すことが重要です。例えば以下の施策などで独自の価値を打ち出しましょう。
●現地でしか手に入らない食材の提供
●レシピと食材のセット販売
●季節限定の特産品の提供
●リピート購入向けのクーポン配布
これらの施策は、新規顧客の獲得やリピーターを増やすのに効果的です。顧客のニーズに合わせた独自の商品やサービスを提供することで、他の競合との差別化を図れます。
食品ECの成功事例10選
では、続いて食品ECで成功した事例を紹介します。ブランドの特徴・成功までのストーリーなどを参考にしてみてください。
1.ジャン=ポール・エヴァン
引用:ジャン=ポール・エヴァン
ジャン=ポール・エヴァンは、フランス発の著名なショコラティエです。このブランドは日本の主要デパートにも店舗を構えています。
彼らのオンラインブティックでは、オンライン限定の商品を提供することでプレミアム感を演出しています。
この戦略は、実店舗の顧客をオンラインショッピングへと誘導する効果があり、オンライン顧客に対してはニュース配信などを通じて継続的に関係を構築できる点がメリットです。
2.Royce’ Chocolate
Royce’ ChocolateのECサイトは高品質なチョコレートと焼き菓子をオンラインで販売しています。サイトは洗練されたデザインと使いやすいナビゲーションを特徴とし、親しみやすい雰囲気を持っています。
加えて、ギフトボックスの注文やギフトラッピングサービスも提供しているのが特徴。贈り物としての利用を含め、幅広い顧客のニーズに応えている事例です。
3.豊洲市場ドットコム
引用:豊洲市場ドットコム
豊洲市場ドットコムは、プロ向けの品質や特別な商品を提供するオンラインプラットフォームです。もともとは「築地市場ドットコム」として知られていましたが、築地市場の移転に伴い名称を変更しました。
このサイトでは、豊洲市場からの鮮度の高い商品を提供し、一般の小売店では手に入らないような特別な品や量を提供しています。東京23区内では、朝8時までの注文を同日中に届ける迅速な配送サービスを提供しており、顧客の満足度を高めています。
4.ウェルネスダイニング
引用:ウェルネスダイニング
ウェルネスダイニングは、健康と美容に着目した高栄養価の食品や飲料を扱うECサイトです。特にオーガニック、非遺伝子組み換え、ノンカフェインなど、健康に優しい商品が豊富です。
各商品には、原材料や栄養成分に関する詳細情報が提供され、ユーザーが自身の健康や美容のニーズに合わせた商品を選びやすくなっています。また、管理栄養士への相談が可能なサービスもあり、個々の健康管理に役立てられる点が特徴です。
5.職人醤油
引用:職人醤油
職人醤油は、100mlの小容量でさまざまな醤油を気軽に試せるECサイトです。それぞれの醤油は蔵元ごとに異なる特徴があり、気に入ったものは直接蔵元から購入することをおすすめしています。
このサイトの大きな特徴は、料理レシピや醤油の情報など豊富なコンテンツを提供している点です。また、シーンや食材、地域別に商品を分類することで、顧客の興味を引きつけ、購入後の満足度を高める工夫をしています。
6.オイシックス・ラ・大地(Oisix)
オイシックス・ラ・大地(Oisix)は、利便性が高い有機・無農薬野菜のネット販売を実施しています。野菜の組み合わせ選択と配達日時指定が可能で、野菜を美味しく食べるための詳細な説明が付いた配送が特徴です。
定期購入のミールキットでリピーターを増やしており、スマートフォンアプリでは商品検索や注文履歴の確認、定期便の変更が簡単にできます。さらに、限定商品や割引クーポンなどの特典が提供されています。
7.47CLUB
引用:47CLUB
47CLUBは、全国各地の地方新聞社が選んだ商品を集めたECサイトです。このサイトの特徴は、地域の特産品を地方新聞社が厳選し、紹介している点にあります。商品ページには新聞社社員が顔出しでコメントを寄せることで、信頼性を高めています。
また、海外転送サービスも提供し、国外への発送も可能です。主に高年齢層をターゲットにした商品ラインナップや、お中元やお歳暮などのギフト需要に応える複数配送先指定サービスも特徴的です。
8.Amazonフレッシュ
引用:Amazonフレッシュ
Amazonフレッシュは、Amazonが提供する食品ECサイトです。生鮮食品を含む17万点以上の商品を取り扱っています。
このサイトの特徴は、鮮度や賞味期限を保証するサービスに力を入れており、顧客が安心して食品を購入できるよう配慮しています。特に東京の一部エリアでのみ提供されているこのサービスは、Amazonプライム会員であれば最短2時間で商品を受け取ることが可能です。売上高が高い点もAmazonフレッシュの特徴のひとつです。
9.熊本馬刺しドットコム
引用:熊本馬刺しドットコム
利他フーズ株式会社は、自社運営のECサイト「熊本馬刺しドットコム」を通じて、馬肉・馬刺しの販売で年間売上No.1を達成した成功例です。2012年の設立から、彼らは年間数億円の売上を達成するまで成長しました。
また、futureshopの「レポート・分析機能」を活用して、新規顧客の属性や地域分布、流入媒体などを分析し、広告戦略やクリエイティブの改善に役立てています。
さらに、ECサイトに顧客からの問い合わせを反映させることで、顧客満足度を向上させる努力をしました。このように、顧客の声を商品開発やサービス改善に積極的に取り入れることで、利他フーズは食品EC市場で顕著な成功を収めています。
参考:馬刺し通販売上No.1「熊本馬刺しドットコム」が自社ECを伸ばすために取り組んできたこと
10.大江ノ郷自然牧場
引用:大江ノ郷自然牧場
有限会社ひよこカンパニーは鳥取県に拠点を置き、平飼い養鶏場で採れる卵を通販で販売する成功事例を築いています。
2021年にはfutureshopのCMS機能「commerce creator」を導入し、オムニチャネルを開始しました。自社ECサイトの売上を5年間で10倍に伸ばした実績を作っています。
「天美卵」というブランド卵の販売が好調です。単なる卵ではなく「にわとりの飼育環境」など、背景としてのストーリーを伝えられた結果、ブランディング効果を発揮できています。
また、彼らは「大江ノ郷自然牧場」という複合リゾート施設も運営しており、年間36万人以上の来訪者を迎える人気スポットに成長しました。この施設には飲食店やホテルが含まれ、実際に卵を味わえます。
ひよこカンパニーは顧客との強い結びつきを重視し、通信販売とEC事業の両方で新規顧客の獲得とリピーターの増加に努めています。
参考:食品ECの売上が5年で10倍!鳥取のリゾート「大江ノ郷」がオムニチャネルを実現した方法と成果
食品ECでよくある3つの質問
食品ECでよくある質問には、以下の3つが挙げられます。
●質問1.食品ECで必要となる資格や許可は?
●質問2.食品ECを運営する際の注意点は?
●質問3.食品ECを開設する手順は?
ここではそれぞれに分けて解説しますので、詳しくみていきましょう。
質問1.食品ECで必要となる資格や許可は?
食品のオンライン販売においては、特定の資格や許可が必要です。まず、食品衛生法に基づく知識を持つ「食品衛生責任者」が最低一人必要です。さらに、扱う食品の種類に応じて追加の資格や許可が求められます。
たとえば、酒類のオンライン販売には「通信販売酒類小売業免許」が、精肉販売には「食肉販売業許可」が、そして鮮魚の販売には「魚介類販売許可」がそれぞれ必要となります。
さらに、都道府県によっては他の食品にも特別な許可が必要になる場合があるため、販売予定の商品については管轄の保健所で確認することが重要です。
質問2.食品ECを運営する際の注意点は?
食品ECを運営する際の注意点は、以下のとおりです。
●徹底した衛生管理
●義務表示事項の表示
食品表示法に従った正確な表示をECサイト上に行うことが義務付けられています。これには原材料、添加物、栄養成分、保存方法、消費期限、アレルゲン情報、原産地などが含まれます。
特に重要なのが、衛生管理の徹底です。鮮度が重要な食品に関しては、温度や湿度の管理を適切に行い、適切な配送業者を選定することが欠かせません。
また、2021年6月1日からはHACCPに基づく衛生管理がすべての食品事業者に義務付けられました。これは食品の製造、調理、運搬、販売の各工程で衛生管理計画を実施することを意味します。
質問3.食品ECを開設する手順は?
食品ECの開設には、ほかの分野とは異なる独自の手順が必要です。
●営業する施設の図面を用意する
●図面を基に保健所に相談する
●営業許可の申請を保健所に提出
●施設の確認検査を受ける
●営業許可書が交付されたらECサイトを構築する
●サイトをオープンして事業を開始する
ただし、都道府県によっては手順に違いがありますので、食品ECを開設する前に、管轄の保健所で手順を確認することが大切です。これらの手順を適切に踏むことで、食品ECの開設がスムーズに進行します。
ネットショップの開業については、こちらの記事で詳しく解説しています。
⇒【初心者必見】ネットショップの開業を成功させる6つのポイント|メリットやデメリット、流れを徹底解説
まとめ
食品ECの成功事例や展開するメリット、成功について解説しました。食品ECでは、自社の独自性を打ち出し、顧客の心をつかむかが重要です。ぜひ、紹介した成功事例を参考にして自社の強みを訴求できるサイトを構築してみてください。
futureshopは、デザインカスタマイズ性に優れており、自社の強みを自由自在にサイトへと反映させることが可能です。食品ECを展開しようと検討している方は、こちらからfutureshopの詳しい機能についてチェックしてみてください。
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