経営者を引退するとき、事業承継は一族全員の問題になります
会社の将来を真剣に考える中で事業承継を考えている経営者の方がまず行うべきことは「将来についてできるだけ早く家族と話し合う」ことです。
これは幹部社員や顧問の弁護士、公認会計士・税理士、関わりのある金融機関などよりも優先すべきことだと私は思います。
というのも、驚くべきことに、そもそも、子どもが事業を継ぎたいのか、継ぎたくないのか、親として継がせたいのか、継がせたくないのか。そういった、初歩の意思確認すらできていない経営者が少なくないからです。
事業承継を早めに検討するメリットはたくさんあります。誰が承継するにせよ、後継者が軌道に乗るまで十分な引き継ぎを行うことができますし、会社や経営者自身の資産や負債を整理してきれいな形で事業を引き継ぐことができます。また、中小企業の場合、家族や親族が役員や株主になっていることも多く、関係者全員から事業の行く末や新しい経営者について十分に理解を得る時間もあるでしょう。
また、株の譲渡に伴う税金や退職金など、経営者の余生に直結してくる資産についても事前に専門家と話し合うことで、ベストな選択ができます。
事業承継を考えるのに「早すぎる」ことはありません
多くの経営者が事業承継について考え始めるのは50・60代になってから。しかし、なかには70・80代でも現役という方もいらっしゃいます。
中小企業庁の調査(※1)によれば1995年から2015年にかけて、経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67.7歳、小規模事業者では70.5歳と高齢化が進んでいます。
事業の承継だけではなく、「人生100年時代」において、経営から引退をしたその後のライフプランについても考える必要があります。また、責任のある立場になればなるほど、親の介護や子どもの進学・結婚、自身や配偶者の老後や財産の相続など、年を重ねるごとに考えなくてはならないことが山のように増えていきます。
そのため私は、今の事業から引退するのは50代でも「早い」とは思いません。自身の夢やライフプランについて考えたとき、人生設計を考えるのに早いにこしたことはないのです。
(※1)中小企業庁委託「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」より(2015年12月、株式会社帝国データバンク)
誰が事業を引継ぐとしても3年以上はかかります!まずは選択肢を知ることからはじめましょう
会社の行く末について考えたとき、まず知っておかなくてはいけないことは「どんな選択肢も実行に移してから完結するまで少なくとも3年以上はかかる」と考えたほうがよいでしょう。
◆経営者が事業を引き継ぐ相手は大きく分けて3つあります。
(1)親族(妻や子ども、孫など)に社長の地位を譲り、事業を承継する
(2)専務など社内の人間を社長にし、事業を承継する
(3)第三者に事業を譲渡(売却)する
同族経営に頼らず、実力のある社員に任せたい、と考えている経営者も少なくありませんが、中小企業(非上場企業)において(2)を行うにはいくつかのハードルがあります。つまり
①連帯保証(社員が経営者になったときに借り入れの連帯保証ができるか?)
②株式の買い取り(社員が株式を買い取らないと、経営責任は前社長のまま)
③社員の年齢(高齢の場合、短期間のうちに次の承継問題が発生する)
この3つを満たさないと、本当の意味での承継になりません。
経営者としての資質に恵まれた子ども(親族)に事業を承継できるのであれば、言うことはありません。ただし事業承継を決めてからも、何らかの形で5~10年程度フォローする必要があります。数十年間の間に培ってきた技術や知識、人脈などは一朝一夕に伝えられるものではなく、事業が安定するまで新社長を陰で支えながら前社長が隣で併走していく必要があるのです。
また、事業を第三者に譲渡することを決めたとしても、M&Aの準備をして相手探しを始め、相手が見つかり、買収監査を経てM&A成約、引継ぎまで足かけ3年程度かかる場合も多いです。(もちろん、マッチングには運も大きく作用します。)
また、事業が安定するまで社長を継続することも珍しくありません。M&Aで事業承継したからといって、すぐに会社から離れられるとは限らないのです。
どんな選択肢をとったとしても、引退後は社長個人の資産管理(株式や現金、土地、借入)や相続についても考えなくてはいけません。相続、相続税対策あたっては、社長だけではなくご家族全体の問題にもなってきます。
いずれにせよご家族と一度将来について話し合うことをお勧めしています。
会社の行く末について決断する前に、自分に残されている選択肢を知り、比較することからすべてがはじまります。
ご家族に説明する前にまずは会社の現状を整理することから始めましょう
会社の現状と事業の行く末について話し合うとき、最低でもご家族に伝えておきたいのは下記の4点です。
- 事業承継には様々な選択肢があること、それぞれのメリット・デメリット
- 会社の株や事業、人事的な話(現状と経緯)
- 社長自身が望むライフプランとご家族の意思の確認
- 財産の承継について
まずは、経営者自身が会社の現状を整理し、経営の話から社長自身の個人的な思いまで、すべてをご家族に共有することから事業承継はスタートします。
どんな選択肢にもそれぞれメリット、デメリットがあります。また、大抵の場合、社長のご家族や親族が役員や株主であることが多く、円滑な事業承継にはご家族(=株主)の同意は不可欠です。
そのうえで、専門家として事業承継のリスクや重点ポイントをしっかりと認識しているプロフェッショナルにともに、経営者人生の総仕上げについて考えてみてはいかがでしょうか。
創業期(社員4名)の日本M&Aセンターに入社。未上場企業のM&Aという日本で未開拓だった市場で28年間M&A仲介に携わる。
日本M&Aセンターの上場も経験するが、M&Aだけではなく、関係者が喜べるあらゆる承継手法を提供できるよう、2016年日本M&Aセンターと青山財産ネットワークスの協力により「株式会社事業承継ナビゲーター」を設立。代表取締役に就任。