当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。 今回は下平が「2023年度上半期に行われたスーパーマーケット業界のM&Aと今後の展望について」というテーマでお伝えします。
加速するスーパーマーケット業界再編の流れ
2023年、スーパーマーケット業界において経営権の取得が伴うM&A件数は、2023年9月30日時点で約20件です。昨年1年間のM&A件数は約10件ですので、既に約2倍のペースでM&Aが行われています。
本コラムでは、2023年9月までのM&A成約事例を基に、スーパーマーケット業界のM&Aの最新のトレンドを解説させていただき、今後の展望についての所感を記載いたします。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成(1996年1月1日から2023年9月30日、データ種別「M&A」、業界「スーパー」、形態「合併、買収、事業譲渡(営業譲渡)」)
2023年上半期のM&A事例
2023年度上半期を代表するスーパーマーケットの事例を3つご紹介します。
【ドラックストア×スーパー】クスリのアオキHD×有限会社中尾
有限会社中尾は、石川県能美市で食品スーパー2店舗を展開するスーパーマーケットです。 クスリのアオキホールディングスは、有限会社中尾が保有する2店舗のうち、1店舗の譲り受けを実行しました。
中尾がもつ地場の生鮮食品の調達力と、クスリのアオキHDがもつ日用品・調剤薬局の販売力が結びつくことで、地域住民にとってより効率的で、多様な買い物の実現が期待される事例です。 (株式会社クスリのアオキホールディングスIR資料より作成)
【スーパー×スーパー】ベルジョイス(アークスの子会社)×みずかみ
株式会社みずかみは、1967年に創業以来「無私共生」の理念のもと、岩手県内陸及び沿岸部でスーパーマーケット4店舗を展開する会社です。 ベルジョイスは、北海道・東北をメインにスーパーマーケットを展開するアークスグループの100%子会社で、岩手県を中心に約50店舗のスーパーマーケットを展開しています。
アークスグループがもつ商品調達力・情報システム等を、株式会社みずかみがもつ店舗で活用することで、みずかみの更なる成長と岩手県の経済に対する貢献が期待されるものです。 (株式会社アークスIR資料より作成)
【食品卸売×スーパー】中島董商店×NAホールディングス(東北新社孫会社)
中島董商店は、ワイン事業を中心として、食料品を輸入販売する会社です。NAホールディングスは、東北新社が新設した新設会社であり、東北新社のグループ会社であるナショナル物産のスーパー事業を会社分割によって承継した会社です。
譲渡対象事業は、麻布を中心にネットスーパーを展開しています。中島董商店は現在川中領域を中心に事業を展開していますが、川下領域の事業を行うNAホールディングスと手を組むことで、変わりゆく消費者ニーズを捉えることが可能になり、ひいては日本の食文化の発展が期待されています。 (株式会社中島董商店IR資料より作成)
このように、【スーパー×スーパー】という組み合わせだけではなく、川上・川下に進出することを目的とした【食品卸売×スーパー】のM&Aや、隣接業種への進出を目的とした【ドラックストア×スーパー】など、様々な形でM&Aを活用する企業が増えています。
このことは、ドラッグストアや食品卸の会社を「競合として競うだけ」、「取引先として完結させるだけ」ではなく、自社に取り入れて強みになる部分は取り入れるという、レバレッジの効いた戦略であり、M&Aを効果的に活用しているいい事例と考えます。