先週末(13日)、政府は第5回「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」会議を開催、食料の安定供給に向けての緊急対応パッケージをまとめた。政策の柱は、輸出促進、グリーン化、スマート化、食料安全保障の強化の4分野で、今月末を期限にとりまとめる経済対策に反映させるとともに、年末を目途に「食料安全保障強化政策大綱」を改訂する。
「過度な輸入依存から脱却し、国内供給力を高めることで食料安全保障の強化をはかる」ことを狙いとする政策大綱がリリースされたのは昨年末、生産資材の国内代替転換、化学肥料の使用削減、麦や大豆等の国内生産基盤の強化、米粉の利用拡大、ICTを活用した成長産業化、輸出促進、食品ロスの削減等の施策が数値目標とともに掲げられた。そして、これらの実現に向けて “適正な価格形成と国民理解の醸成が必要である” ことが明記された。
基幹的農業従事者の急速な減少と高齢化は、生産基盤の弱体化を確実に加速させる。国内の農地は昭和30年代半ばのピークから3割減った。作付(栽培)面積に至っては5割を割り込んでいる。食料の国内供給力の維持と強化をはかるためには農業従事者の安定的な確保と生産性の向上は不可欠だ。そのためには農業を “稼げる産業” に進化させる必要がある。そう、農業の問題は食料の問題にとどまらない。国土の在り方そのものの問題であり、かつ、経済システムの問題でもある。まさに喫緊の重要課題である。
とは言え、否、それゆれに食料安全保障は、円安と資源高を背景とする “物価高” への対応を骨子とする経済対策とは次元を異にする構造問題である。したがって、災害など想定外の緊急事案に局所的に対応するための “補正予算” の中で扱われるべきものではない。これまで投じられてきた莫大な農業関連への財政支出の効果検証を踏まえ、本予算の中でしっかりと審議していただきたい。そもそも、政策大綱と緊急パッケージにしれっと書き込まれた「適正な価格形成と国民理解の醸成」とは食料安全保障の強化に伴うコストの価格転嫁、すなわち、国産化シフトによる “値上げ” を暗示するものであり、緊急措置としての物価対策とは本質的に相反するのだから。
今週の“ひらめき”視点 10.15 – 10.19
代表取締役社長 水越 孝