大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)

目次

  1. 有名な三重県産のスギやヒノキをふんだんに使った「ぬくもりに包まれた」介護施設
  2. 医療度の高い人、問題ある人、どんな人でも受け入れる
  3. タブレット入力で介護記録業務を簡素化し残業ゼロに
  4. 今後は介護計画書などの作成も同一システムに、入院時にはタブレットが電子カルテの役割も
  5. 子供の力はすごい。学童保育との相乗効果で笑顔あふれる
  6. ICTで介護現場を進化させ、強みに磨きを
中小企業応援サイト 編集部
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三重県松阪市で高齢者介護施設などを運営する株式会社みどりの森(柿本薫代表取締役)は、「誠実な事業活動を通じて地域社会の発展に貢献する」との理念を掲げる。松阪市生まれの柿本薫社長が「何か地域社会のためになる仕事をしたい」として、20年以上勤めた会社を脱サラして選択したのが介護事業だ。柿本社長の人柄そのものの「誠実な事業運営」が実を結び、今では住宅型有料老人ホームから訪問介護、訪問看護サービスなど幅広い介護関連事業を展開。ICT導入も介護職員の負担軽減と利用者サービスの向上と、その狙いは明確だ。(トップ写真:住宅型有料老人ホームみどりの森鎌田のエントランス)

有名な三重県産のスギやヒノキをふんだんに使った「ぬくもりに包まれた」介護施設

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
三重県産のスギやヒノキの無垢材をふんだんに使用した施設内。無垢材の香りは安らぎの効果がある

「40歳を過ぎたら、地域や地域の人のためになる仕事をしてみたい」との思いを強くしていた柿本社長。「昔からお年寄りが好きで、お年寄りを世話する仕事に関心をもっていた」ことから、2000年代に話題になった介護タクシーに興味を持ったのが介護事業に踏み出すきっかけとなった。30代後半から仕事をしながら学校に通い、介護士やガイドヘルパー、自動車二種免許などの資格を取得。42歳になった2010年に勤務先を退職し、約半年かけて自力で法人登記を済ませ、年末に株式会社みどりの森を設立。翌2011年4月から高齢者の通院乗降を中心に訪問介護事業を始めた。

転機は2年後に訪れる。松阪市で高齢者介護施設を運営していた経営者と知り合い、協力要請を受けたのだ。その後同施設の運営を引き継ぐことになり、施設の建物・設備を借りて20床の住宅型有料老人ホームを2013年9月に開設したのが介護施設経営のスタートとなる。

引き継いだ施設運営を軌道に乗せる中で、大好きなお年寄りたちと毎日直接触れ合い、コミュニケーションを深めることでたくさんの笑顔に出会う。その笑顔に大いなるやりがいを感じた柿本社長は自前の介護施設建設を決断。2015年12月に三重県産の木材を使うことで県の補助金を得て、県産のスギやヒノキをふんだんに取り入れた20床の住宅型有料老人ホームをJR・近鉄松阪駅から徒歩10分の鎌田町の住宅街に開設。「木のぬくもりに包まれた空間」が利用者の心を癒やしてくれると評判になった。

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
三重県産スギとヒノキの使用を示すパネル

現在は知人から引き継いだ施設を返還し、松阪市に2ヶ所、伊勢市に1ヶ所の介護施設運営と訪問看護・介護、福祉用具貸与・販売など幅広く介護関連事業を手がける一方で、地域の子どもたちのための学童保育施設も運営する。

医療度の高い人、問題ある人、どんな人でも受け入れる

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
「職員が幸せを感じなければ、利用者も幸せになれない」と説く柿本薫社長

「うちは訪問看護も手がけているので、医療度の高い人でも受け入れることができます」。みどりの森の介護施設の大きな特徴は、24時間点滴介護や夜間吸たん、胃ろうなど高い水準の医療的介護が必要な人や、問題行動が多くて他施設で入居を断られた人など、一般的には施設入居が難しいと思われる人でも積極的に受け入れる態勢を整えていることだ。

訪問看護部門に在籍している看護師の指導員資格を持つ職員が医療的介護に関する講習を行い、夜勤に入る介護士は全員、吸たんや胃ろうに対応できる資格を取得している。他施設で入居を断られたような問題のある人の受け入れに際しては、具体的にどのように対応していくべきかを柿本社長も含めた職員みんなで話し合いながら決め、対応方針を共有する態勢を整えている。

「最近も食事中に茶碗を投げたり、お膳をひっくり返す。注意すると手をあげてくるような問題のある人を受け入れましたが、話をちゃんと聞いてあげるとそんなに乱暴な人ではないんです。話を聞いてあげるところから始めるのが大事です。高度な医療的介護の必要な人や問題のある人を避けていたのでは真の介護とはいえないと思います。そういうお年寄りほど介護を必要としているのですから」

だから、介護士個々の負担を軽減するため、一般的に2人で対応する業務を3人でこなすなど人員的に余裕を持たせている。その分運営コストはかかるが、介護士の負担が大きくなって、けがや事故を誘発しては何にもならない。それ以上に「働く人が幸せを感じていなければ、利用者も幸せになれません」というのが柿本社長の持論だ。

タブレット入力で介護記録業務を簡素化し残業ゼロに

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介護記録が入力されたタブレット画面をチェックする介護士のリーダー

ICT導入も職員の負担軽減が第一の狙いだ。介護士の業務で最も問題となっていた介護記録の作成にタブレットを活用することで、毎日200~300枚にもなっていた手書き作業をタブレット入力に切り替えた。タブレット10台と介護記録アプリ10ライセンスを導入したことで、介護職員が昼前と夕方に何十枚も手書きしていた介護記録をその都度入力できるようになったほか、その記録用紙をチェックするために毎月20時間程度残業していたリーダーの作業も簡素化され、タブレット導入後は残業時間がほぼゼロに。事務職員の記録用紙記入チェックも不要になった。

こうした介護記録業務の簡素化は、実際の介護サービスにもプラス効果をもたらしている。「従来も連絡帳で利用者情報を引き継いでいたが、デジタルで共有すると、皆がしっかりと記録を見るようになり、現場の介護サービスの充実にもつながっている」と柿本社長は見る。

今後は介護計画書などの作成も同一システムに、入院時にはタブレットが電子カルテの役割も

同社はこれまでも、介護請求業務ソフトを活用して請求業務をデジタル化していた。請求書作成の基となる介護記録情報のデジタル化によって、介護記録と請求業務が連携され、請求業務の効率化も実現した。

今後はICT化の次のステップとして、サービス提供責任者が独自のエクセルで行っている介護計画書と介護サービス実施評価票(モニタリング)の作成を上記介護請求&記録システムの追加オプション機能を活用して一体化する計画。すでにデイサービス部門で運用を始めており、年内にも介護施設にも広げていく考えだ。介護計画から介護記録、請求業務までデジタルで一体化できれば、同じシステムの中で利用者の過去の履歴が検索できるため、入院や緊急搬送時でもタブレット1台を病院に持っていけば電子カルテのような役割を発揮してくれる」として、利用者サービスの向上に期待する。

子供の力はすごい。学童保育との相乗効果で笑顔あふれる

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
子供たちが利用者に歌やダンスを披露する

みどりの森は高齢者介護施設と学童保育施設を1社で運営する珍しい介護事業者である。一見、関連性の薄い事業に見えるが、実は双方の親和性は高く、利用者サービスでの強みになっている。

「コロナ前には高齢者施設に学童の子どもたちに月1回来てもらい、歌やダンスを披露してもらっていましたが、お年寄りは皆、泣いて喜びます。普段は無口な人でも子どもが歌うと手をたたいて喜び、笑顔がはじけます。子どもの力はすごいと思う。コロナで中断したが、また再開したい」。最近の子どもはお年寄りと接する機会が少ないので、高齢者施設でのふれあいは貴重な時間になっているし、夏休みには高学年の学童が高齢者施設の相談室を使って勉強するなど交流を深めている。

まさにそこには相乗効果が生まれており、最近2ヶ所に増えた学童保育施設については、今後も「業務委託の要請があれば引き受けていきたい」(柿本社長)と話す。

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
学童保育の子どもたちが勉強に使うこともある介護施設の相談室

ICTで介護現場を進化させ、強みに磨きを

ICTの活用については、「介護事業との親和性が高いことが明確になった」として導入拡大に意欲を示す。

「当社は介護請求業務ソフトを入れたのは早い方だったと思うが、気づいたら周りに追い越されていた。今回の介護記録デジタル化によってある程度キャッチアップしたと思う。介護サービスの現場の負担を減らし、サービスの質向上につながるようなICT化を進め、介護現場を変えていきたい」

みどりの森は、余裕を持たせた人員配置など職員に優しい介護施設であるとともに、入居費用も入居一時金0~5万円、月々の入居費用が10万円前後と割安で地域からの信頼も厚い。だから人材採用のほとんどが職員の知人で離職率も低いし、入居者は病院やケアマネージャーからの紹介だ。事業開始当初の病院への地道な訪問活動で柿本社長が築いた人間関係と、社長の誠実な人柄への信頼がベースとなっており、施設見学や入居申し込みの連絡も多々ある。こうした強みにさらに磨きをかけ、「多くの人に、そして誰にでも利用してもらえる介護施設」という柿本社長の思いの具現化を進化させるために、ICTの活用拡大に期待する。

大好きなお年寄りのために脱サラ ICTで利用者にも職員にも優しい介護施設に  みどりの森(三重県)
住宅型有料老人ホーム鎌田の外観。ここにも三重県産のスギやヒノキが使用されている

企業概要

法人名株式会社みどりの森
住所三重県松阪市鎌田町412-5
HPhttp://www.midori-nomori.com/
電話0598-67-0789
設立2010年12月
従業員数95人
事業内容 住宅型有料老人ホーム、居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、福祉用具貸与販売、学童保育施設運営