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代表取締役は会社法で定義された役職です。本記事では、代表取締役の概要、社長やCEOとの違い、選定方法などについて、わかりやすく解説します。

代表取締役とは

代表取締役とは、 株式会社を代表する権限を持つ取締役 を指します(会社法349条)。
また、取締役会が意思決定した業務の執行や(同法363条1項1号)、多くの会社では、日常的な業務執行についての意思決定をおこなう役割も担っています。

会社法では、株式会社における機関として、株主総会、取締役会、取締役、監査役、監査役会などが規定されています。株式会社が自社の機関として何を設置するかを決めるには、会社法の規定に従わなくてはなりません(会社法第4章)。

代表取締役は、 取締役会設置会社では必ず設置 しなければなりません(同法362条3項)。 一方、取締役会非設置会社では代表取締役を定めることもできますが、各取締役が代表権を持つため、代表取締役がいない場合もあります(同法349条 2項、3項)。

代表取締役の特徴

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はじめに、代表取締役の任期や人数、報酬についてご紹介します。

任期は2年の場合が多い

会社法上、代表取締役の任期の規定はありませんが、取締役の任期は2年以内とされています【会社法332条1項)。そのため、それに合わせて代表取締役の任期を2年とするケースが多く見られます。

複数人存在するケースもある

また、代表取締役の人数に制限はありません。大企業では複数の代表取締役を選定しているケースも見られます。複数の代表取締役を選定すると、業務執行を複数の代表取締役で行えるため、機動的な会社経営や、個々の代表取締役の業務負担を軽減することが可能です。

しかし、各代表取締役が対外的に強力な権限を持つことになるため、会社の内部で代表取締役の権限に制限を課したとしても、善意の第三者に対抗することができません。
また、複数の代表取締役間で意見の対立が生じた場合には、意見の調整が困難になる可能性があります。

報酬の総額は株式総会で決定する

代表取締役を含む取締役の役員報酬は、総額を定款もしくは株主総会の決議で決定し、個別の額を取締役会の決議で決定します(会社法361条)。

会社は、定款や株主総会の決議によっても、報酬の総額についての決定権限を取締役会に委譲することはできません。なぜなら、取締役会で報酬の総額を決定できるとすると、自分たちの報酬を自ら高く設定してしまうリスクがあるためです。

ただし、総額を株主総会の決議事項としても、個別の額は取締役会で決められるため、前述のリスクを完全に排除できないことから、2021年3月の会社法改正によって、大会社では株式総会の決議で個別報酬の決定方針を定めることとされました。

代表取締役と社長、CEOの違い

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社長やCEOは、会社法で定義されている役職ではなく、一般呼称です。各企業が対外的、社内的に役割を示すために設定します。

社長は、一般的に会社のトップにつけられる肩書ですが、部長、課長、専務、常務などと同じく、会社内での役割を示すために会社が決める肩書です。

一方、代表取締役は、対外的な権限を示す会社法上の役職です。
代表取締役が社長を兼任する場合は「代表取締役社長」と称する場合もありますが、必ずしも「社長=代表取締役」ではなく、代表取締役と社長が異なる会社も多く存在します。

CEOは、Chief Executive Officerの略で、アメリカの法律における肩書です。そのため、日本では社長や会長、部長などと同じく、法律上の意味はありません。

アメリカの法律では、CEOが最高経営責任者、COOが最高執行責任者とされていますが、日本の社長は経営と執行両方のトップとして、CEOとCOOの役割を兼ねているケースが多いです。

代表取締役と取締役の違い

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代表取締役と他の取締役の大きな違いは、代表権の有無です。取締役は、株主総会の決議で選任される会社の機関役員です(会社法329条1項) 。

取締役会設置会社では、取締役は取締役会の構成員として業務執行に関する意思決定を行いますが、代表権限は持ちません(同法362条2項1号)。一方で代表取締役は、取締役会の意思決定に基づいて、株式会社の代表として業務を執行します(同法363条1項1号)。

取締役会非設置会社では各取締役が会社を代表するため(同法349条1項本文、同2項)、代表取締役と同じ役割を果たします。ただし、取締役会非設置会社でも代表取締役を定めた場合には、代表取締役のみが対外的な代表権限を持ちます(同法349条1項ただし書)。

表見代表取締役とは

代表取締役ではなく、株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を与えられた取締役を「表見代表取締役」と言います。
表見代表取締役として扱われる肩書は、社長、副社長、取締役会長、CEOなどが挙げられます。一方で、常務や専務については、代表権を持たないことが多いため、表見代表取締役になりません。

代表取締役ではない取締役が「社長」の肩書を持つと、その者が代表取締役であると信じた第三者に損害を与えてしまう可能性があるため、会社法では「会社は表見代表取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負う」と定めています(会社法354条)。

代表取締役と執行役の違い

執行役とは、委員会設置会社において業務執行を担当する、取締役に相当する地位にある機関のことです(会社法418条) 。委員会設置会社では、代表執行役が、会社を代表する代表取締役に相当する地位となります(同法420条)。

なお「執行役員」は、社長やCEOと同じく、会社法上の役職ではありません。執行役員の使用例としては、取締役の代わりに会社の業務を執行する従業員に「執行役員」の役職を与えている会社があります。

代表取締役が持つ権限

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会社法の規定にもとづく代表取締役の権限は、以下の通りです。

代表権限

代表取締役は「業務に関する一切の裁判上または裁判外の一切の行為をする権限(会社法349条4項)」を有します。
代表権限に内部的な制限を加えても、善意の第三者には対抗できず(同条5項)、代表権限は代表取締役が有する最も重要な権限と言えます。

代表権限を行使する場面としては、会社を代表して他社と契約したり、会社を代表して訴訟を提起したりする場面が挙げられます。契約書を取り交わす場面では、「〇〇株式会社 代表取締役△△」と記名押印するのが通常で、代表取締役の名前がなければ、契約の成立に疑義が生じてしまいます。

代表取締役が、自己または第三者の利益を図る目的で代表権限を行使した場合には、相手方が代表取締役の真の目的を知っていたかが焦点となります。

知ることができていた場合、代表取締役の行為は無権代理行為になります(民法107条 類推適用)。これが、いわゆる「代表権の濫用」の問題です。
代表権の濫用の規定は、相手方が代表取締役の意図を知り得たときにのみ、代表取締役の行為を会社に帰属させないとし、取引の相手方と会社の保護のバランスを図っています。

執行権限

代表取締役は、会社の業務を執行する権限を有します(会社法363条1項1号)。
取締役会設置会社では、株主総会や取締役会が会社の業務についての意思決定を行い、それを代表取締役が執行するという構造になっています。

ただし、代表取締役は、会社法362条4項に列挙された「重要な業務執行」を除いては、取締役会から委任された業務についての意思決定を行うことも可能です。

そこで多くの会社では、代表取締役に日常的な業務執行についての意思決定権限を委任しており、日常的な業務執行については代表取締役が、意思決定と業務執行の両方を行っています。

代表取締役に意思決定の委任ができない「重要な業務執行」の例は以下の通りです。

- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

上記に挙げられた行為までもが代表取締役に意思決定権限を委任できてしまうと、代表取締役の権限が強大となり、取締役会を設置する意味が希薄になってしまいます。 そのため、会社法では「重要な業務執行」については意思決定の委任ができないと定めています。

その他の権限

その他、株主総会や取締役会議事録作成、株主名簿の作成、財務諸表や事業報告書の作成と提出など、会社内部の事務的な職務権限も与えられています。

これら事務的な業務執行については、業務担当取締役を設置することもできます。代表取締役が法律の規定する全ての業務を担当するのは難しい場合も多く、多くの会社では、業務担当取締役との役割分担が行われています。

代表取締役の選定

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会社法331条には「取締役となることができない者」が以下の通り定められています。すなわち、代表取締役になることができない条件になります。

- 法人
- 会社法関係の法律違反により禁錮以上の刑に処せられ、執行を終わって2年を経過しない者
- 成年被後見人

代表取締役の選定について、取締役会設置会社、非設置会社で異なります。

取締役会設置会社の場合

取締役会の決議で代表取締役を選定します(会社法362条3項)。
選定には、取締役の過半数の出席と、出席した取締役の過半数の賛成が必要になります。

定款の定めによって、取締役会ではなく株主総会の決議による選定にすることも可能です。

取締役会非設置会社の場合

取締役会設置会社と異なり、原則、各取締役が業務執行権と代表権を有するため、代表取締役の設置、選定は必須ではありません。

代表取締役は「定款」で直接定める方法のほか、定款の定めに基づく「取締役の互選」又は「株主総会の決議」によって、取締役の中から定めます(会社法349条3項)。

代表取締役を新たに選定した場合の対応・手続き

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代表取締役を新たに選定した場合、就任から2週間以内に代表取締役の変更登記を行う必要があります。代表取締役は、氏名と住所が登記事項です(会社法911条3項14号)。

変更登記手続きの必要書類の例は、以下の通りです。

- 株式会社変更登記申請書
- 辞任する代表取締役の辞任届、印鑑証明書
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録
- 代表取締役の就任承諾書
- 新たな代表取締役の本人確認書類、印鑑証明書
- 登録免許税

参考:法務局「株式会社変更登記申請書(取締役会設置会社で,役員(取締役・監査役)が辞任して,新たな役員が就任する場合)」

代表取締役が辞任・解任となった場合の対応・手続き

代表取締役が任期途中で辞任・解任となった場合、新たに選任された代表取締役が就任するまで、従前の代表取締役が代表取締役としての権限を有します(会社法351条1項)。利害関係人の申立てにより、一時的に代表取締役となる一時代表取締役を選任することも可能です(同条2項)。

代表取締役は、自らの意思で辞任することもできますし、取締役会の決議で解任されることもあります(取締役としての地位も解任する場合には株主総会の決議)。

代表取締役が辞任・解任となった場合には、会社業務の停滞を避けるため、出来る限り早く新たな代表取締役を選定し、役員変更登記をする必要があります。

終わりに

代表取締役は会社法上の役職で、会社を対外的に代表する機関です。社長や会長、CEOなどの肩書は会社が内部で決めるもので、対外的な役割を示すものではありません。

代表取締役は、会社の代表として業務を執行する強力な権限を有しています。代表取締役の権限濫用の問題や表見代表取締役の問題もあるため、役職や肩書はそれぞれの権限を理解したうえで慎重に決めましょう。

「M&Aで譲渡した後、役職はどうなるのか」「役員報酬はどう決められるのか」M&Aを検討されるお客様より、日々ご質問が寄せられています。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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