矢野経済研究所
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9月27日、政府は、所謂「年収の壁」問題の解消に向けた施策を発表した。従業員101人以上の企業に勤めるパート従業者に社会保険の納付義務が発生する「106万円の壁」については、賃上げや手当の支給など手取り額の減少を防ぐ措置を講じた企業に対して1人あたり最大50万円を助成、また、従業員100人未満の企業等で働くパート従業者が配偶者の扶養から外れる「130万円の壁」については、これを越えても健康保険組合等の判断で連続2年間は扶養にとどまることが出来るようになる。

厚生労働省の推計によると「106万円の壁」を意識して労働時間を抑制している可能性があるパート従業者は約45万人(第7回社会保障審議会年金部会資料より)、とりわけ、慢性的な人手不足にある流通業やサービス業にとって、年収が106万円に達すると125万円を越えない限り「たくさん働いた方が損する」制度の改善は喫緊の課題であった。こうした声に応えるべく政府の “こども未来会議” も今年度中に是正措置を固め来年度から実施するとの方針を示していた。しかし、10月から実施される最低賃金の引き上げが更なる労働時間調整につながりかねないとの危機感から前倒しされた格好だ。

今回の措置は “もっと働きたい” パート従業者にとって朗報であり、現場の人手不足にも一定の効果があるだろう。しかし、問題の本質は「第3号被保険者制度」そのものにある。これは戦後の日本経済を支えてきた中流世帯の専業主婦の無年金化を防ぐための施策として1986年に導入されたものであるが、被扶養者であることの “お得感” とのバランスにおいて結果的に女性の社会参加を遅らせることになった。そもそも自営業者の配偶者には適用されないし、独身者やフルタイムの共働き世帯に恩恵はない。それどころか保険料を納めていない主婦の年金原資をなぜ負担せねばならないのか、といったもやもや感の種にもなる。

加えて、もう1つの弊害は、年収を増やしたくないパート従業者の存在が時給水準を抑える暗黙のドライブとして機能してきたということだ。企業は低賃金の非正規拡大による恩恵を長期にわたって享受してきた。しかし、労働人口の縮小とともに新規のパート従業者の流入が細ってくると一転、人手不足という経営リスクに直面する。年金制度の改革は2025年度に予定されている。産業、世帯、働き方、人口動態の変化を見据えた持続可能な社会保障制度を描き出していただきたい。現行制度を直ちに廃止することは出来ないだろう。新制度への円滑な移行を実現するためには十分な原資が必要だ。すなわち、企業にも稼ぐ力の絶対的な強化が求められているということである。

今週の“ひらめき”視点 9.24 – 9.28
代表取締役社長 水越 孝