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産経ニュース エディトリアルチーム
兵庫県西部の姫路市に本社を置く金属加工会社、株式会社城洋が、約120キロ離れた鳥取県鳥取市で開設した新工場との連携にICTを積極活用している。瀬戸内海側と日本海側の2拠点体制を効果的に推進する上で不可欠な情報の共有や従業員の一体感醸成に、ICTが大きな役割を果たしている。(TOP写真:城洋が生産するHIPシリンダーなどの製品)
金属加工の技術を磨き、メーカーとしての機能を強化
株式会社城洋の歴史は1964年、創業者の⻆田豊会長が姫路市内で工具商社を設立したことに始まる。その後、機械部品をはじめとする金属加工の事業に乗り出し、大手製鉄会社の認定企業になるなど大企業からの受注が増加したことを受けて、業績は順調に拡大。1990年代半ばから、下請けからメーカーに脱皮することを目指し、大学と連携して研究開発機能を強化するなど様々な取り組みを行って事業を拡大してきた。現在、同市の湾岸エリアにある本社周辺では4つの工場が稼働している。
城洋がメーカーとしての地位を確立する上で大きな役割を果たしているのが、高品質のプラスチック製品を製造する射出成形機の中心部品として使用されるHIP(Hot Isostatic Pressing=熱間等方圧加圧法)シリンダーだ。HIP処理は金属加工の高度な技術が求められる。城洋は2002年からHIPシリンダーの製造に本格参入し、供給実績で国内トップレベルを誇る事業に成長させた。
価格競争を避け、常に一歩先を考えて新規事業を開拓
城洋のHIPシリンダーは、耐蝕・耐摩耗に優れ、スマートフォンや自動車、医療機器などに使用されるプラスチックを生産する上で欠かせない存在になっている。城洋の強みはそれだけではない。2014年から参入した航空機部品の製造事業も順調に成長。航空機分野に求められる品質規格、JISQ9100の認証も取得している。脱炭素社会を実現する上で欠かせないメガソーラー発電事業も手掛けている。
「企業が他社と同じことをしていては、価格競争に巻き込まれて埋没してしまいます。創業間もないころから取り組んでいる金属加工の仕事を大事にしながら、これから先の社会で必要とされる事業が何なのかを考え、常に一歩先を考えて新規事業を開拓することを心がけてきました。『製造業の既成概念を覆す』を合言葉に技術、生産、就業環境、働き方の全てにおいてイノベーションを起こしていきたいと考えています」。2009年に父親から事業を引き継いで2代目社長に就任した⻆田城治代表取締役は、これまでの事業展開を振り返りながらこのように話した。
地域経済の活性化につながる一連の取り組みは大きな注目を集め、城洋は2018年12月、経済産業省から地域未来牽引企業として選定された。
生産体制拡充と危機管理のため鳥取市に新工場を開設
⻆田社長は2018年、HIPシリンダーや航空機部品の生産体制を拡充するために、本社から北に約120キロ離れた鳥取県鳥取市に新工場を建設することを決断した。⻆田社長は就任以来、地震などの災害発生時のリスクを分散するため、新たな生産拠点を本社のある姫路市から離れた場所に設置したいと考えていた。日本のものづくりに貢献したいという思いから海外は対象とせず、国内で候補地を探し、本社との連携の取りやすさなどを総合的に判断して鳥取市の工業団地への進出を決めたという。
「新工場には高速道路を使えば車で90分程度でアクセスすることができます。瀬戸内海側と日本海側の2拠点体制は、生産・物流面での効率性とリスク分散を両立した弊社にとっての最適解と思っています。最先端技術を活用することで海外に負けないものづくりを鳥取で実現したいと考えています」と⻆田社長。鳥取県、鳥取市の手厚い支援も進出を決める上での大きな要素になったという。2018年3月には同県、同市と進出協定を締結。協定書の調印式には平井伸治県知事、深澤義彦市長が出席し、⻆田社長と固い握手を交わした。
鳥取工場ではAIやIoTを活用して自動化を推進
2019年4月に稼働を開始した新工場は、国内でも有数のHIP装置や航空機部品を製造するための工作機械、3次元測定機など最先端の設備を多数導入している。AIやIoTを活用して生産工程の自動化を進め、姫路市内の工場と比較して2倍以上の生産効率を実現している。
「デジタル技術や工作機械の進化によって、日本のものづくりの可能性は大きく広がっています。重い金属材を扱う生産工程の自動化は、生産の効率性だけでなく作業の安全性を確保する上でも大きな効果を発揮してくれています」と⻆田社長は話した。
城洋は新工場で働く約40人の従業員を現地で採用して雇用を創出するだけでなく、研究開発面で産学連携を促進するなど鳥取の経済にプラス効果をもたらしている。
120キロの物理的な距離をICTで埋める
鳥取市の新工場と本社の約120キロの物理的な距離を埋め、社内の情報共有や従業員の一体感の醸成に大きな役割を果たしているのが、インターネット上で通信セキュリティを確保して特定の人だけが利用できる専用ネットワーク、VPN(Virtual Private Network=仮想専用通信回線)、文書管理システム、Web会議システムといったICTだ。ICTの導入は新工場の設計段階から考えていたので、完成と同時に従業員もスムーズに活用を始めることができたという。
文書のデジタル管理で、情報共有やスペースの有効活用を推進
本社に設置しているサーバーと文書管理システムは連動しており、VPNを通じて本社、本社周辺の4つの工場、鳥取工場のいずれからもサーバーに保存している日報、図面、工程管理表といった資料にアクセスできるようになっている。システムは複合機に入ってきたFAX文書やスキャンした文書をデジタル化した上で管理できる機能も備えている。
「タイムラグなしに本社とそれぞれの工場で情報を共有できるのは非常にありがたいですね。デジタルで紙文書の情報を保存しておけば、数年ぶりに注文があった部品の図面なども検索機能を使ってすぐに見つけることができます。紙の資料のように探す時に手間がかからず、場所を取らずに保存しておくことができるので、スペースの有効活用の面でも大きな効果を発揮してくれています」と本社・統括管理本部で総務部総務室主任を務める椎葉勇揮さんは話した。文書をデジタルで管理するようになってから紙の使用量は3割程度減ったという。
姫路市内の工場間の連携も、鳥取工場が完成してから導入したICTのおかげで一気に加速した。姫路市内の本社と工場は近接しているので、従業員は以前、各工場を直接行き来して情報を共有していた。短い距離ということもあり特に不都合を感じていなかったが、VPNで情報を簡単に共有できるようになってから、短い時間でも積み重ねることで大きな時間のロスにつながっていたことを実感したという。
大型モニターとWeb会議システムで本社と鳥取工場の一体感を醸成
本社と鳥取工場の事務所はオンラインで常時接続し、複数のモニターで互いの事務所の様子をリアルタイムで確認できるようにしている。大型モニターとWeb会議システムを組み合わせることによって映像を通じてコミュニケーションが円滑に進むので、同じオフィスにいるような感覚で仕事を進めることができるという。Web会議システムは、2020年初頭からのコロナ禍でも、社内や取引先とコミュニケーションを取る上で大きな役割を担った。
「月に1回の全体会議に従業員全員が参加できるのもWeb会議システムのおかげです。年間4回ほど実施している本社と鳥取工場の交流会で、直接顔を合わせた後、すぐに打ち解けて話すことができるのもオンラインで毎日のように顔を合わせているからだと思います」と椎葉さんは話した。
厚生棟で従業員に昼食を無料提供 基本にあるのが従業員第一の人に優しい会社、城洋のDNAだ
創業50周年の記念事業として城洋は2016年、本社の敷地内に、食堂や集会場の機能を備えた厚生棟を建設し、従業員への昼食の無料提供を開始した。外部の業者に委託して毎日昼休みに、できたてのご飯、みそ汁、おかずを出している。「創業者の父は会社の利益を従業員に還元することを第一に考え、私もその姿を見て育ちました。その思いをしっかりと受け継ぎ、人に優しい会社であり続けたいと思っています。家族的な雰囲気を大事にする社風を城洋のDNAとしてしっかりと伝えていきたい」と⻆田社長は穏やかな表情で話した。
金属加工の更なる技術革新に取り組む
城洋は先を見据え、鳥取工場で、最新鋭の設備を活用して新合金の加工技術や独自の粉末合金の研究開発に取り組んでいる。「プラスチック素材の高度化に対応できるように常にHIPシリンダーの技術革新に取り組んで行かなければならないと思っています。これまで蓄積してきた金属加工のアナログ技術も大事にしながら最先端のデジタル技術を導入することで、高い相乗効果を生み出していきたい」と⻆田社長は力強く語った。合理的な経営体制と家族的な社風をバランスよく併せ持つ城洋。ICTを効果的に活用することでその輝きに更に磨きをかけていくに違いない。
企業概要
会社名 | 株式会社城洋 |
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本社 | 兵庫県姫路市白浜町宇佐崎南1-68-1 |
HP | https://www.jys-joyo.co.jp |
電話 | 079-245-0598 |
設立 | 1965年8月(創業1964年) |
従業員数 | 100人 |
事業内容 | 金属製品製造、自然再生エネルギー事業、射出成形機用HIPシリンダー、船用リーマボルト、航空機用エンジンケース、製鋼所向け保守・保全部品など |