10月1日の消費増税までいよいよ2ヶ月となった。「再々延期論」も燻るものの実施は既に秒読み段階である。しかし、事業者側の準備は進んでいない。とりわけ、中小事業者の軽減税率対策の遅れは深刻だ。政府は複数税率に対応するレジや受発注システムの導入補助対象事業者を約30万社と想定し1,000億円を予算計上した。しかし、6月末時点での申請件数は約11万件にとどまる。一方、需要喚起策の目玉である「キャッシュレス決済のポイント還元」も目標の「100万店以上」に対して7月末時点の申請はわずかに24万件という状況だ。
準備の遅れも問題であるが、そもそも軽減税率という“ややこしさ”が事業者に与える影響は小さくない。東京商工リサーチがこの6月に行った消費増税に関する事業者調査によると、「売上の減少」に次いで「仕入先からの値上げ要請」、「会計システム変更による負担増」が懸念事項として指摘された。実際、複数税率が適用される今回の増税は品目ごとの税率仕分けなど事務作業の工数が増えるとともに、事業者間取引における転嫁拒否行為も発生し易い。
外食チェーン各社が軽減税率への方針を発表し始めた。対応は “本体価格を揃える” と “税込み価格を揃える” の二択である。後者は、つまり “本体価格の値引き” である。この場合、値引き原資のすべてを自社で吸収するのであれば問題はない。しかし、ここに “協力” という名の圧力が納入業者にかかる可能性は小さくない。
経産省の調査によると現状であっても事業者の12%が消費税を価格に転嫁できていない。理由の上位は「取引先を奪われる恐れがあるから」、「取引先に価格アップを受け入れる余裕がないと考えられるから」、そして、「立場が弱いから」である。多くの場合、明確な強要はない。そう、まさに “忖度” である。
キャッシュレス還元も問題を孕む。政府が負担する5%のポイント還元は中小事業者が対象であり、大手チェーン傘下のFC店はこれが2%となる。もちろん、チェーン本社の直営店は対象外である。しかし、これでは同一チェーン内でポイント還元率が異なることになる。よって大手チェーンは本部負担で還元率を揃える。
一方、ポイント還元の対象外である大手スーパーなどもコンビニや中小事業者との対抗上、自社負担によるポイント還元や販促キャンペーンを展開するはずだ。となると、ここでも納入業者による “自主的な営業協力”、すなわち “忖度” が発生し易い。
逆進性の緩和を目指した軽減税率や景気の腰折れ対策としてのポイント還元が原価率の不当な低下や消費税の転嫁拒否という形で事業者経営を圧迫するのであれば、結果的に本末転倒と言わざるを得ない。
経産省はこれまでも下請法の遵守、消費税の適正な価格転嫁を呼びかけ続けてきた。しかし、転嫁拒否に関する調査の着手件数は11,397件、指導・勧告件数は4,946件に達する。うち4,410件が “買い叩き” である(平成25年10月~令和元年5月末)。そして、この数字の背後には業種を問わず多くの “忖度” があるはずだ。小売や外食だけの問題ではない。消費増税が正当な価格体系、取引構造、税制度を歪めることになるとすれば、結果、成長もプライマリーバランスの黒字化もいずれも遠のく。税率、軽減税の適用範囲、加えて、益税や毎年発生する3,600億円を越える滞納の問題もある。課題は多い。法人税、所得税、そして、年金等の将来支出の問題も含め、抜本的に財政の在り方を問い直すべきであろう。現下の経済情勢はそのための立止りを促している。
今週の“ひらめき”視点 7.28 - 8.1
代表取締役社長 水越 孝