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産経ニュース エディトリアルチーム
「2024年問題への対応が先決で、対策を急いでいる」。こう強調するのは、鉄鋼材料の輸送を主業とする新田産業株式会社(群馬県太田市)の村上孝則代表取締役だ。2024年4月からはトラックドライバーの年間の時間外労働時間に上限が課され、運行の改善が求められている。ドライバーの労働時間の縮減手法に取り組む一方で、ICTを活用して、さらなる業務効率化を図っていく方針だ。(TOP写真:新田産業が保有する輸送用トレーラー)
鋼材の輸送で成長。輸送効率向上で事業を拡大
1971年に電気炉(電炉)による製鉄会社へ工場労働者を派遣するため、村上社長の父親が新田産業株式会社を創業した。ただ、機械化・自動化などにより徐々に工場内労働者の需要は減少していく。そこで、新田産業は約40年前に運輸部を創設し、鋼材の輸送を始めた。
業界の競争が激しく撤退する会社もあったが輸送力の強化で生き残っていった。当初は10トン車などの大型車がメインだったが、より積載量の大きいトレーラー(けん引車)にシフトしていき、現在では保有する輸送車両約30台のうち、「15トン車が2台で、そのほかはトレーラー」という。ドライバーは25人で、1人で車両1台を担当し、メンテナンスや洗車などを行って「愛着を持ってもらう」と、車両管理にも独自の手法を持つ。ドライバーの平均年齢は約48歳で、最高齢は66歳。
例えば関東地区に鋼材を運んだ帰路に、千葉県にある大手鉄鋼メーカーの工場から鋼材を積み込み、北関東にある自動車メーカー向けの鋼材を運ぶなど往復輸送で輸送効率を上げ、事業全体を拡大してきた。輸送事業以外にも、産業廃棄物の収集・運搬、工場内清掃も行うが、「事業の8割以上が輸送部門です」(村上社長)。
2024年問題対応で中継地点も確保。資格取得で荷待ち時間短縮
ただ、「2024年問題」への対応が急務だ。2024年問題とは、働き方改革関連法により、2024年4月からトラックドライバーの年間時間外労働時間の上限を960時間とする規制で、物流業界全体で対応が求められている。新田産業の場合、関東地区には日帰りで輸送できるが、関西地区などへの輸送では3日程度かかるケースもあり、特に長距離輸送で対応が必要となる場合もあるという。
この課題に対し、同社もすでに「取引先などと対策会議を開き、検討を始めている」。関東などへの近距離輸送と、大阪を中心とする関西などの長距離輸送に分け、「現在の仕事量では年間時間外労働時間が960時間を上回ることはない」が、将来を考えて「遠距離を3日間から4日間に延ばす」(村上社長)ことも考えている。このほか、すでに静岡県内で他社の車庫の一部を借り、積荷を分配し合って共同配送する中継地点を確保したことで、ドライバーの拘束時間を減らす取り組みも始めた。さらに荷役作業を行う社員に大型自動車免許、けん引免許の資格の取得をしてもらい、積み込み作業をしてもらっている。これもドライバーの拘束時間を減らす取り組みの一つだ。
運行管理ソフトを更新。Gマーク更新でIT点呼の導入へ
業務改善では、ICTシステムの活用も進める。2022年には運行管理ソフトを更新し、車両の稼働実績や走行距離、燃料使用量のほか、請求書発行も行えるなど、本社内で総合的に把握できるようになり、業務改善が進んでいる。
遠隔地からでもドライバーの点呼ができるIT点呼も導入予定だ。IT点呼を実施するには、国土交通省の安全性優良事業所の認定を受け、「Gマーク」を取得する必要がある。この認証制度は2003年に始まったもので、法令順守や事故・違反の状況、安全性への取り組みなど38項目をクリアした事業者に与えられる。同社は昨年11月に同認定の更新をしており、IT点呼についても「運行管理の改善につながる」(村上社長)として導入を検討中だ。
「今のところ人手不足の心配ない」。ICTで一層の改革を
実は、村上社長は前社長の急逝に伴い、2022年11月に3代目の代表取締役に就任したばかり。これまでは機能性の高い作業着に変更するなど「少しずつ改革を進めてきた」(村上社長)が、「現在の優先順位は2024年問題への対応と、前年に比べて3割程度上がった」という燃料費、車両の修繕費などのコストをどう吸収していくかだ。「コスト問題は荷主との交渉が始まったばかり」だが、業務改革によるコスト低下を促進する構え。
BtoB(事業者取引)の輸送業務のため、人手確保については「当社は定年がなく、ドライバーの定着率も高い。今のところ人手不足の心配はない」が、将来的には高齢化に対応して、新しい人材確保も進めたいという。事業面では、協力企業などと連携して仕事の量を増やしていく考え。
ICT活用では、「ドライバーにスマートフォンを持たせて、特に遠距離輸送での配送ルートを最適化できるアプリを活用したり、社内管理なども改善したりして、もっとICT化を進めたい」としている。
新田産業が扱う鋼材は、鉄スクラップを主原料とする電炉で製造され、100%近いという鉄のリサイクル率向上に寄与し、循環型社会向きといえる。さらに、電炉は高炉と比べて二酸化炭素排出量が大幅に少なく、脱炭素に寄与するため、高炉メーカーも電炉事業を拡大している。こうした背景から、新田産業の輸送業務は安定的に推移するとみられ、2024年問題への対応と、一層のICTによる業務改革で事業拡大と、ひいては地域社会への貢献が期待される。
企業概要
会社名 | 新田産業株式会社 |
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本社 | 群馬県太田市新田反町町107-2 |
電話 | 0276-56-2108 |
設立 | 1971年12月 |
従業員数 | 30人 |
事業内容 | 鋼材輸送、産業廃棄物収集・運搬、工場清掃など |