三方よしの精神でDXを推進。物流業界に新しい風を吹き込む「熱血プロ集団」 ハンナ(奈良県)

目次

  1. 24時間365日体制で地域の物流を支える
  2. 熱い心で顧客と社会に貢献
  3. 社員を守りたいとの思いでデジタルレコーダーを導入
  4. 社員に豊かな人生を歩んでもらうツールとしてICTを活用
  5. 独自で開発したICTシステム「ハントス」
  6. あえて一部でアナログのプロセスも導入
  7. 車両位置情報システムで全車両の位置と経路を把握
  8. 急ブレーキや急発進をリアルタイムで通知
  9. 360°カメラ搭載のWeb会議システムで会議を活発に
  10. 今後もICTで新しい価値を創造する
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

運送サービスを手掛ける奈良県奈良市の株式会社ハンナが、独自開発した基幹システムを軸に車両の運行管理などにICTを積極活用している。働き方改革や女性活用と共に「三方よし」の精神でDXを推進し、物流業界に新しい風を吹き込んでいる。(写真はハンナの下村由加里社長)

24時間365日体制で地域の物流を支える

地域の物流を支える株式会社ハンナが所有する貨物車両は、大型、中型、小型、軽、チルド車など120台にのぼる。奈良県を中心とした近畿圏で食料品、酒類、一般雑貨、医薬品など日々の生活に必要な物品を24時間365日体制で運んでいる。社員数は150人。女性の活用に力を入れ、管理職に占める女性の割合は3分の1を占める。

熱い心で顧客と社会に貢献

ハンナは1980年の設立当初から「買い手よし、売り手よし、世間よし」の三方よしの精神を大切にしている。企業は利益以上に、社員の幸せや顧客、社会の役に立つことを追求しなければならないと考えており、その思いをこめて掲げているのが「熱血プロ集団」のスローガンだ。

「ハンナに任せてよかったと心からお客様に思っていただけるようなプロ集団を目指したいと思っています。合理的な視点はビジネスに必要不可欠なものですが、それだけでは人の心を動かすことはできません。顧客、社会から信頼していただくにはなによりも熱い気持ちが必要です。社員全員が、しっかりとした挨拶や笑顔での対応はもちろん、お客様と社会に貢献できるサービスを提供することを心掛けています」。奈良市にある株式会社ハンナの本社で取材に応じた下村由加里代表取締役社長は穏やかな表情でハンナの理念について語った。

社員を守りたいとの思いでデジタルレコーダーを導入

下村社長は2006年に父親が創業したハンナの3代目社長として就任した。当初から、社員を守り、自らが理想とする経営を実現するには、熱い気持ちと共にデータに基づいた科学的な判断が重要と考え、ITやデジタル技術の積極的な活用を心掛けてきた。2011年には、地元の業界に先駆けて全ての車両にデジタルレコーダーを導入した。当初は、自らの運転が記録されることに抵抗感を抱くベテラン運転手もいたが、社員を監視するのではなく見守るためのシステムであることを丹念に説明し、納得してもらったという。

社員に豊かな人生を歩んでもらうツールとしてICTを活用

下村社長が、何よりも大事にしているのが人材の育成だ。年8回の社員研修を実施し、社員一人ひとりの倫理観、プロ意識、長所を磨いている。「社員の成長は企業の成長につながります。社員が健康で生き生きと働くことができる環境を何よりも大事にしています」と下村社長。女性社員が働きやすい環境を整えることはもちろん、子育て支援にも力を入れ、男性社員の育児休暇取得も奨励している。

三方よしの精神でDXを推進。物流業界に新しい風を吹き込む「熱血プロ集団」 ハンナ(奈良県)
ハンナのオフィスの様子

この思いは、健康経営優良法人、道路交通安全マネジメントに関する国際規格ISO39001、グリーン経営、安全性優良事業所(Gマーク)、若者応援宣言企業といった様々な認証を取得したことにも表れている。「無事故、無違反、無災害は、社員が心身両面で健康であってこそ継続できるものです。社員に笑顔で豊かな人生を歩んでもらうためのツールとしてICTを活用していきたいと思っています」と下村社長は話した。

三方よしの精神でDXを推進。物流業界に新しい風を吹き込む「熱血プロ集団」 ハンナ(奈良県)
社員目線で社内改革を進め、健康や安全についての様々な認証を取得している

独自で開発したICTシステム「ハントス」

ハンナは2015年から「HANNA TRANSPORT SYSTEM(ハンナ・トランスポート・システム):略称HANTOS(ハントス)」と名付けた独自のICTシステムを活用している。同業他社のシステムエンジニアの協力を受けて、トライ&エラーを繰り返しながら開発に取り組み、市販のアプリケーションと連動しやすいように設計したという。ICTの進化に合わせて現在も日々バージョンアップを行っている。

ハントスを通じて、運転手は運送の2週間前からスケジュールをスマートフォンで確認することができる。運転手は、乗車前、会社で点呼用機器を通じて点呼とアルコールチェックを行い、その結果はリアルタイムでハントスに反映される。運行に従事した時間もハントスに記録され、残業が一定時間を超えると運行管理者に通知が入る仕組みになっている。評価は運転実績を記録したデータに基づいて行い、安全運転を長期間継続している運転手にはマイスターの称号を与えている。

あえて一部でアナログのプロセスも導入

ハントスを活用して業務のデジタル化を進める一方、給与計算の基本データになる勤務時間だけは社員一人ひとりに紙ベースで申告してもらっている。あえてアナログのプロセスを導入しているのは、記憶に残りやすい手書きの作業を通じて社員に自らの労働時間をしっかりと認識してほしいと思っているからだ。勤務時間を書き込んだ紙の書類は、文字を認識してデジタル化する技術、OCR(Optical Character Recognition=光学的文字認識)機能を備えた複合機でスキャンしてデジタル化した上で、ソフトウェアロボットを使うRPA(Robotic Process Automation)を活用して自動計算している。社員の目線に立ったアナログのプロセスをICTでカバーすることで、給与の集計業務に負担をかけないようにしている。

車両位置情報システムで全車両の位置と経路を把握

ハンナはハントスをNTTドコモが提供する車両位置情報システムと連動させている。車両に取り付けたGPS端末からの情報はリアルタイムで本社のパソコンなどのモニターに表示されるので、運行管理責任者は全ての車両の位置や経路を正確に把握することができる。効率的な配送スケジュールの作成や迅速な顧客対応、緊急時の情報収集にシステムは大きな効果を発揮している。「ハントスで蓄積しているデータは、顧客の要望に合わせて運行表や運行フローを自在に組み立て、効率とバランスを考えた最適な提案を行う上で欠かせないものになっています」と下村社長は話した。

急ブレーキや急発進をリアルタイムで通知

車両位置情報システムは、全車両に搭載しているドライブレコーダーとデジタル式運行記録装置とも連動しており、個々の車両の急ブレーキや急発進といった危険な動作をリアルタイムで下村社長や運行管理責任者のパソコン、スマートフォンに通知する機能も備えている。急な飛び出しなどに対応するために急ブレーキをかけたケースでも通知は行われるが、映像も同時に配信されるので、運転手は止むを得ない行動だったことを会社に理解してもらうことができる。また、普段は安全運転をしている運転手の車両から通知が連続する時は、本人は意識していなくても体調不良の状態で無理をしている可能性がある。体調不良の兆候を察知することで事故を起こす前に適切なケアにつなげ、運転手の安全を守ることにも役立っているという。

360°カメラ搭載のWeb会議システムで会議を活発に

ハンナは運行管理だけでなく、会議の効率的な運営にもICTを活用している。2022年7月に導入した360°カメラとマイク・スピーカーが一体となったWeb会議システムもその一つだ。システムはUSBケーブルをパソコンにつないで、会議を行うテーブルの中央に置くだけで使うことができる。複数の参加者がいる場合、パソコンのカメラでは1人か2人しか映すことができないが、360°カメラはテーブル全景を映すだけでなく、参加者の声を認識して発言者を最大3人までクローズアップする機能を備えている。

三方よしの精神でDXを推進。物流業界に新しい風を吹き込む「熱血プロ集団」 ハンナ(奈良県)
下村祐也取締役・車輛部兼経営管理部長

「リモートで参加している人も臨場感を持って会議に参加できるので、より活発にコミュニケーションを取ることができるようになりました」と下村祐也取締役・車輛部兼経営管理部長は話した。音声を文字変換できるボイスレコーダーも導入しており、Web会議システムと連動させることで会議後の議事録作成といった業務を短時間で済ませることができるようにしている。

今後もICTで新しい価値を創造する

三方よしの精神でDXを推進。物流業界に新しい風を吹き込む「熱血プロ集団」 ハンナ(奈良県)
トラックが並ぶ様子は圧巻

ハンナは今後、テレワークを推進するなどより一層社員が働きやすい環境づくりを追求していきたいと考えている。「今後もハントスを進化させるとともに、社員が新しいデジタル機器やICTにトライしやすい社風を醸成していきたい」と抱負を語る下村社長。三方よしの精神とDXを融合することで、ハンナはこれからも物流の第一線で新しい価値を生み出していくに違いない。

企業概要

会社名株式会社ハンナ
本社奈良県奈良市北永井町372番地
HPhttps://www.hanna-tp.co.jp
電話0742-63-8787
設立1980年10月6日
従業員数150人
事業内容一般貨物自動車運送事業、貨物利用運送、通過型倉庫、車輌整備