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産経ニュース エディトリアルチーム
広島県広島市の印刷会社、株式会社ニシキプリントは、印刷業界のデジタル化が進むことを見据え、印刷のみならず情報分野全体に事業の裾野を広げている。2008年1月から新規事業としてホームページ制作事業を開始。その後、電子ブックやデジタルサイネージなどデジタル関係の事業展開に力を入れてきた。本業の印刷でもデジタル印刷機によるPOD(Print On Demand=オンデマンド印刷)を積極的に活用。その中で定型業務をソフトウェアロボットによって代行するRPA(Robotic Process Automation=ロボティック・プロセス・オートメーション)に着目し、その導入を加速している。(TOP写真:ニシキプリントが活用するRPAを導入したPOD印刷機)
デジタル技術で印刷会社から情報受発信会社に
「印刷会社にとってデジタルコンテンツ制作の技術力の向上と新たな市場開拓は、これからの重要なテーマです。お客様からいただいた印刷の仕事に徹してきたこれまでのビジネスモデルを転換する必要があると考えています。創造力を強化して付加価値が高いソリューションをお客様に提供できる情報受発信企業にニシキプリントを進化させていきたい」。株式会社ニシキプリントの宮﨑真代表取締役は今後の戦略を力強く語った。
PODは、オフセット印刷で必要な版を作る必要がないため、必要な時に必要な部数を迅速に印刷できる強みを持っている。ニシキプリントはPODの活用についての社内調査を行い、封筒印刷などの分野で、オフセット印刷からPODへ移行しても十分対応可能であるという結論を出した。
仕事の洗い出しを行い、設定したルールに従って定型業務を実行するRPAで仕事の属人化を解消
ニシキプリントは現在、生産性向上の第一歩として特定の人に作業が偏っている属人化した仕事の洗い出しを行っている。あらかじめ設定したルールに従って定型業務を実行するRPAは仕事の属人化解消に大きな効果が見込める。「デジタル印刷機によるPODは、従来、人が行っていた入力、転記、照合などの定型業務を代行するRPAと高い親和性を持っています。RPAを推進することで時間に余裕が生まれ、その分を仕事のスキル向上や企画立案など創造的な取り組みにあてることが可能になります。人手不足の解消や働き方改革への効果を期待しています」と宮﨑社長は話した。今後5年でできる限り仕事の属人化を解消したいという。
RPAにより手入力を廃止。PODの印刷時間の短縮や誤入力の防止を実現。障害者が携わる範囲が拡大できる
取り組みの第1弾として2022年12月、東広島市にある東広島工場のPODの印刷工程でRPAシステムを導入。広島市の本社で印刷データを制作して指定フォルダに入れると、約60キロ離れた東広島工場のPOD印刷機のモニターやメールを通じて担当者に通知が来る。データの内容を確認して承認するだけで自動的に印刷できるようにした。POD印刷機に担当者がデータを手入力する必要がなくなったことで、印刷時間の短縮や誤入力の防止を実現できたという。今後も製本など様々な工程でRPAのシステム導入を考えており、RPAのマニュアル作成も検討している。
現在、POD印刷機のタッチレス化など福祉事業所の利用者が操作しやすい作業環境の整備が可能か、調査を進めている。最終的には印刷の工程を、経営情報システムを通して可視化できるようにしたいという。「RPAで定型的な仕事の自動化を進めることで、障害者が携わることができる仕事の種類を広げていきたい。うまく活用することで印刷分野の経験が浅い人でも短期間で熟練の人に近い仕事ができるようにしていきたい」と宮﨑社長は話した。
EC(電子商取引)やデジタルコンテンツの市場を開拓
ニシキプリントは印刷のDXと並行してEC(Electronic Commerce=電子商取引)や動画などのデジタルコンテンツの市場開拓にも取り組んでいる。その中で大きな役割を担っているのが、従業員提案で企画を立ち上げ、2015年から展開している広島県発の商品開発と情報発信のプロジェクト「安芸ん堂(あきんどう)」のサイトだ。
コロナ禍では、宮島(厳島)の大聖院と連携してオンライン初詣を企画
コロナ禍で行動制限が求められていた2021年1月には、広島県廿日市市の宮島にある寺院、大聖院(真言宗御室派)と連携し、安芸ん堂のサイトでのオンライン初詣を企画。新年の初祈祷の動画配信やお札、お守りのオンライン販売などを実施した。オンライン初詣は、感染防止対策と参拝を両立できる地域貢献の取り組みとして注目を集め、メディアでも取り上げられた。
ECを行うための販売管理、受注、発送完了通知、請求書作成等をニシキプリントが代行サービス提供へ
また、安芸ん堂のオンラインショップを通じて商品を販売する企業の誘致にも力を入れている。商品販売時に、企業の販売管理、受注、発送完了通知、請求書作成などに関する作業をニシキプリントが代行するので、企業は少ない手間と負担で商品を販売できる。ECに関心を持っているが具体的なノウハウを持っていない企業の販売窓口となることを目指し、体制を強化していきたいという。
会社の情報発信にFacebook、Twitterを積極活用
会社の知名度や認知度を上げて受注開拓につなげられるようにホームページ、Facebook、Twitterを活用した情報発信も並行して進めている。アクセス結果を定期的に分析し、会社の雰囲気、従業員の個性が伝わる情報や画像を受け手の反応に合わせて掲載することを心掛けているという。
Facebookでは定期的に社内の各部署や福祉事業所の取り組み、広島県の話題を発信。Twitterでは、ニシキプリントのオリジナルキャラクター「カメくん」を使って本社近くの自然や風景、天気、広島カープなどの話題を発信している。
「情報発信を幅広く行うことは、営業活動に効果があるだけでなく会社の知名度向上を通じて従業員のモチベーションアップにもつながります。自ら情報発信のノウハウを蓄積することで、情報発信のコンサルティングも事業の一つとして育てていきたいと考えています」と宮﨑社長は積極的に情報発信に取り組む狙いについて話した。
新卒採用向けに自社でPR動画を制作
動画などのデジタルコンテンツ編集のスキルアップや学校、企業の周年事業をターゲットにした動画需要のニーズ調査、デジタル動画作成に関する知識を持った営業スタッフの育成にも力を注いでいる。スキルの向上にはオンライン学習を活用しているという。
20代には動画でのPRが高い訴求力を持っていることから、新卒人材の募集にも動画を積極的に活用している。ホームページなどで発信している人材募集のPR動画は、シナリオの作成から小道具の準備、撮影、編集まですべて自社で行った。関心を集める動画づくりのノウハウを蓄積することで今後拡大していく動画作成の受託事業にも反映できると考えている。「従業員一丸となって動画を中心に様々なデジタルコンテンツの市場開拓に取り組んでいきたい」と宮﨑社長は力を込めた。
働きがいとCSR(企業の社会的責任)を意識した企業経営に取り組む
ニシキプリントは2022年、これまでの事業部をマネージメント、マーケティング、プロダクトの各事業部に再編した。働きがいとCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)を根底にした企業経営に取り組み、10年後を目標に、業界トップクラスの給与水準と福利厚生、働きがいナンバーワン、障害者雇用の進化、地域で唯一の情報提供支援業者となることを目指している。
「各事業部の取り組みを融合することで、従来の印刷関連の仕事をよりお客様目線で行い、ECに取り組む中小企業の受発注の管理請負、地域活性化などの地域貢献、エシカル消費につながる新製品開発に取り組んでいきます。そうすることで地域に必要とされる企業へと進化していけると考えています」と宮﨑社長は抱負を述べた。
現在取り組んでいる印刷、デジタル、それらに関連する事業を追求し、各部門が連携して意識改革と組織改革に取り組んでいるニシキプリント。ICTとデジタル機器を効果的に活用することでこれからも新たな価値を創造していくに違いない。
企業概要
会社名 | 株式会社ニシキプリント |
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本社 | 広島県広島市西区商工センター7-5-33 |
HP | https://www.nishiki-p.co.jp/ |
電話 | 082-277-6954 |
設立 | 1975年9月(1967年6月創業) |
従業員数 | 30人 |
事業内容 | 書籍を中心とする各種印刷物の制作・製本業務、オンデマンド印刷、自費出版など出版物の企画・発行、刊行物の編集代行業務、ホームページ、電子ブックなどの各種メディア制作 |
関連団体 | 一般社団法人東広島自立支援センターあゆみ |