目次

  1. 概要
  2. コミュニティデザインとは
  3. コミュニティデザインでできあがった図書館
  4. コミュニティデザインのワークショップ
  5. 官民連携を推進していくために
  6. サステナビリティ・SDGs について
  7. 今後の展望と目標

概要

【日時】
2021年7月29日登壇
【登壇者】
山崎 亮(株式会社studio-L代表取締役)
【概要】
株式会社studio-L代表取締役の山崎亮氏に、コミュニティで地域のことや人と人のつながり、仕組みをデザインする「コミュニティデザイン」をもとに、地域を豊かにするにはどうすれば良いのかというテーマでお話いただきました。
※本記事はTHE OWNERオンラインセミナーを全文書き起こして一部編集したものになります

コミュニティデザインとは

【司会】

まず簡単に⾃⼰紹介をお願いします。

【山崎】

山崎亮氏講演
(画像=山崎亮氏講演)

studio-Lという事務所をやっております⼭崎亮と申します。よろしくお願いします。もともと建築とかランドスケープデザインという勉強をしたり、仕事をしたりしてました。この仕事は、いわゆる街の公共施設を設計するという仕事です。

当然、建築で代表的なものは、住宅の設計になるわけですけれど、住宅の設計と公共施設の設計の⼤きな違いというのは、お⾦を出す⼈が使う⼈かどうか、ここが⼤きく違います。クライアントがユーザーかどうか、英語で⾔い換えてもいいかもしれません。住宅の場合は、お⾦を払う⼈がだいたいそこに住むんですね。だからお⾦を払って、ご依頼いただいた⽅の話を聞いて、なるほど、じゃあ、こんな空間がいいでしょうね、というふうに提案するということで、仕事をやっていても、別にモヤモヤすることはないわけです。

ところが、公共建築になると、お⾦を出してくれた⼈、依頼してくれた⼈と、その空間を使う⼈は別なことのほうが多いです。公園を設計してくださいと⾔われたときに、公園緑地課⻑の話ばっかり聞いて公園を設計したら、使い⼿が使いにくいという場合がある。図書館、あるいは美術館、教育庁の話ばっかり聞いて、なるほど和⾵がいいですか、じゃあ、和⾵の建物にしましょうなんてやって、できあがったら、みなさんが、「なんだこの建築」っていうふうに⾔うと。

当の教育庁は「実は私、隣の市に住んでましてね」なんて⾔って、ほとんど使わないと。 こういうことが起きてしまうのにモヤモヤしはじめて、やはりこれはユーザーの意⾒、使う⼈の意⾒を聞かないと嘘だろうなと思ったというのが、今⽇お話しするコミュニティデザインという仕事をやるきっかけです。

結局どうしたのかというと、公共施設の設計を頼まれたときは、必ず地域の⽅々に集まっていただいて。100⼈、200⼈くらいの⽅々に集まっていただいて、今⽇もみなさんに集まっていただいてますが。その⽅々に⼩規模なグループを作ってもらって、それぞれに話をしていただく。この街でどう⽣きていきたいのか。これからの将来、どういうスケジュールが⾃分たちにあるのか。そしていったい、誰とつながりたいと思っていて、どんなことをしたいと思っているかというのを、1カ⽉に1回ずつくらいワークショップを開いて話し合ってもらう。そのなかで、今回できる図書館をどう活⽤したいと思っているのか。新しい図書館ができたのなら、あなたたちは何をしたいのか。こんなことを 10回、20回くらいのワークショップで徐々に徐々に聞いていくというようなことをやっています。

このタイプの仕事のことを、なんと呼べばいいのかわからなくて、コミュニティの⽅と⼀緒にデザインを考えるという仕事だから、コミュニティデザインというふうに呼んでみようということで、⾃分の studio-Lという事務所がやっている仕事内容についてコミュニティデザインと⾔うようになりました。

今年で17年⽬くらいの事務所で、25⼈くらいのスタッフとやっている、⼩さな会社です。 全国で呼んでいただければ、スタッフ2、3⼈でチームになってそこに⾏って、ワークショップを開催させていただき、100⼈、200⼈の⽅々と⼀緒に街の未来について考えていくというようなことをやります。いままでに 250くらいの地域に呼んでいただいたので、そういうところで100⼈、200⼈くらいの友だちができたというような、ありがたい仕事でもあるなと思っています。

あともうひとつ、ジャンルですけど、もともと公共施設を建てるというときに声をかけてもらうことが多かったのですが、あなたたちのような仕事は、たとえば商店街の元気がなくなってきちゃっているというときにどうしたらいいのかを、みんなで集まって考えるというようなこともできるよねとか。医療とか福祉とか地域包括ケアとか、⾼齢社会に対応するような住⺠の活動を⽣み出すためにも使えるよねとか。もちろんみんなで⼀緒にアートの作品を創るなんてこともできるよねとか。教育の場所を、そういった話し合いの場所に変えていくこともできるよね、とかいうようなことで。

その後、いろんなジャンルの⽅から声をかけていただくようになりまして。今うちの事業のなかで、公共建築の設計にまつわるプロジェクトって、1割くらいですね。残り9割くらいは、設計、デザインという、ものの形に関わらないような役所の計画書だったり、⾷育計画を考えましょう、総合計画を考えましょう、産業振興ビジョンをみんなで考えましょうとか。違う分野の仕事が増えているなと、そんな印象です。

【司会】

まさに物理的なコミュニティのデザインをつくるだけでなく、空間も、そこに対しても設計されているということですね。このコミュニティデザインということに関して、本⽇はお話をうかがえればと思います。よろしくお願いします。 ひとつ⽬のアジェンダです。

もともとは⼤学で建築を学ばれて、その後建築に進まれて、今コミュニティデザインという形で活動されていますけれど、そこに携わった経緯といいますか、建築からコミュニティデザインにシフトしたというところのきっかけのところ、もう少し詳しくお話しいただければと思います。

【山崎】

山崎亮氏講演
(画像=山崎亮氏講演)

基本的には今お話ししたとおり、建築の設計をやっているときのモヤモヤみたいなやつがあって、コミュニティデザインということをやるようにはなりましたが。ただ、その後、建築の設計じゃないのに声をかけてくれる⼈が増えてきたという。これはなぜなのか、⾃分ではちょっと経緯がわからないんですよ。

もともと空間をつくるということで、地域の⼈に集まっていただき、ワークショップをやっていたわけですが。もしきっかけがあるとすれば、⾃分たちの仕事のことを、ちょっとでも知ってもらおうと思って、当時はブログとか、Facebookが出てきたくらいだったかな?Facebookとかで、私たち、こんなことをやっているんですよ。名前がうまくつけられないので、コミュニティデザインとか呼んでおきますね、とか⾔って。「コミュニティデザインってなんだ?」ってみんなに⾔われながら、こんなことやっているんですよ、というふうに、なるべく⼩さいけれど、情報発信をしようと思ってやってました。

そうしたら、あるときから、ちょっとおもしろい仕事をしているじゃん、と。「あんたのやり⽅は、公共施設の設計のときじゃなくても使えるんじゃない?」というふうに声をかけてくれる役所の⽅が出てきたり。それから研究者の⽅が、研究の対象にさせてほしいと依頼してきたり。それからメディアの⽅が、テレビ局とか雑誌社の⽅々が、ちょっと変わった仕事をしているねということで、取材していただいたりして。それが世のなかに出ていくと、またメールで問い合わせが来るわけですね。

ちょっと違う分野かもしれませんけど、たとえば、「うちの会社の研修とかできますか?」みたいなことを⾔われたり。僕ら、研修とか、やるんすか? と思いながら、「やってみましょう、おもしろそうですね」ってやったりとか。もちろん、役所の研修もありますね。役所のなかの、縦割りになっちゃっているようなところを、みなつないでいくようなこと、できますか? って⾔われて。やったことないけど、やってみますということで。もう10年くらい、そういうこともやったりもしています。

さっきの商店街のことなんかもそうですね。その地域の、買い物難⺠になってしまうような⼈たちが出てくるとか。そんなようなことで、声をかけられるようになってきたというのがあります。だから、きっかけがなんだったのかって、ちょっとわからないですけど。情報発信をしていたら、それに着⽬してくれる⼈たちがじわじわと増えた。

そうだな、ここで増えたなって、ターニングポイントみたいなものがあるとすれば、東⽇本⼤震災かもしれないですね。2011年のときに、震災で明らかになったことって、いくつかあったと思いますけど。そのうち、東北の地域の商店街をはじめとするような商業機能であったり、それから⼈⼝を⻑いこと減らしているような中山間離島地域の集落であったり、農業であったり、漁業であったり、こういうものがかなり課題を抱えている。

それに対して、コンサルタントとかシンクタンクの⽅に答えを求めると、こうやればいいですよって⾔ってくれるんだけど、地元⾃治体がやって、うまくいかないと、また別のシンクタンクの⼈に頼んで答えを教えてもらうって、こればっかり繰り返していて。これじゃダメじゃないかって思ったというのが、よく東北から聞かれたことでしたね。

そうじゃなくて、住んでいる住⺠の⼈たちが学びあって、つながりあって、⾃分たちの街はこうするぜと、こんなことをやるぜって⽴ち上がって動き出さないとダメなんじゃないかという話を聞きはじめるにつけ、連絡が来て、コミュニティデザイン何かできないかって⾔わ問い合わせが増えた。あれはたぶん、東⽇本⼤震災が東北とか関東とかいうところに、危機意識をまずもたらし、それに基づいてたぶん、我々への問い合わせが増えてきた。そんなことだったのかもしれないと思いますね。

【司会】

コミュニティデザインを、ないところから実際に作って、⽂化、パワーワードをつくられて、そこから発信されていったと思うんですけど。コミュニティデザインを進めるにあたっての苦労みたいなところは何かありましたか?

【山崎】

まず最初のうちは、胡散臭がられたというのが、⼀番⼤きな苦労ですね。だいたいあれですよね。それぞれの⽇本の地域に⾏くと、東京とか⼤阪以外の地域にお邪魔 すると、ものすごく胡散臭い職業というか、呼び名はプロデューサーとかデザイナーですよね。この⼈たちは⾦ぶんどっていくなって。何もやらないのに、⾼いお⾦を持っていくから、あいつらには騙されるなよって思われて警戒されるのが、プロデューサーと名乗る⼈やデザイナーと名乗る⼈で。僕は、そんな感じで⾒られがちですね。住⺠をプロデュースするのか、とか、デザインをするのかって思われるので。

なるべく、それっぽく⾒られないような服装とか。短パンでぽろっと⾏ったりとか。お前、ちょっと違うみたいだなというふうに⾒てもらうようにする。そんなところはあります。ただ、コミュニティデザイナーという⾔葉に対する胡散臭さが払拭できたとして。次に難しいのは、もう⻑い間この国は、街のことについて何か要望があれば役所に⾔えばいいんだって思いこまされてきたという。そこがやっぱり難しいところだと思いますね。役所がやってくれるんでしょ? 我々税⾦収めているんだから、あんたらがそれをやるのが当たり前だろうという気持ちが⻑い間あった。だけど、それって近代以降なんですよね。

特に戦後以降、それが当たり前になって。それよりも前、縄⽂時代の5万年と、稲作始まってから1万年くらいは、⾃分たちの街のことは⾃分たちでやっていたはずで。本当にそれが、誰かに任せることになったのって、1945年以降ですね。この45年以降って、どういう時代だったかというと、⾼度経済成⻑期なので、つまり税収が伸び続けていた時代ですね。だから役所がこれまでできなかったことができるようになりますよ。それもやって差し上げましょうか? あ、それも役所に任せてくださいって、これをずっと聞いてきた世代の⼈たちがいるわけで、この⽅々は、⼈⼝が減少する局⾯になっても、これは20年前から⽇本の地⽅では、⼈⼝が減ってますけれども。

この20年間、⼈⼝が減っているのにもかかわらず、増えていたときのように、役所はこれ やれ、役所はあれやれって⾔う⼈がまだ残っていたということです。ただようやく、最近になって若い⼈たちは、20年間⼈⼝がずっと減っていて、東京の財務省からの交付税だったりとか、ああいうものも年々減っているわけで。役所に頼めばなんでもやってくれる時代じゃないよねっていう感覚を共有しはじめている。これは我々の仕事にとっては、すごくありがたいことで。

かつてであれば、コミュニティデザインですって、100⼈、200⼈、「ワークショップに集まって街の未来を考えましょう」って⾔ったら、「そんなもん、俺らの時間を使ってやることちゃうやろ」と。「そんなもん役場に任せておいたらいいやろ」っていう⼈たちが、圧倒的に多かったのが、最近は、「ちょっと楽しそうなことをやるんだったら⾏くよ、私たち」っていうふうに、若い層の⼈たちが、新鮮な感覚でワークショップの場に来てくれるということになりましたので。それはだいぶ助かってますね。

コミュニティデザインでできあがった図書館

山崎亮氏講演
(画像=山崎亮氏講演)

【司会】

地⽅創⽣という⾔葉ができて以来、若者の感度であったりですとか。特に今回コロナによってリモートワークで働けるみたいなところで、地⽅に移住されたり、二重拠点で⽣活をされたりする⼈が増えているというところで、地⽅に関する関⼼って、けっこう⾼まっていますよね。

【山崎】

そうですね。それは今⾼まってる気がしますが。なんでこんなに家賃の⾼いところに住んでいるんだろうとか。なんでこんなに、ランチすげえ並んで⾷べなきゃいけないんだろうとか。しかもわりと値段が⾼いんだけれども、お腹いっぱいにならないんだけど、っていうようなランチに30分くらい並んで。やばい、もうお昼の時間終わるって⾔って、がーってかきこんで会社に戻るみたいな毎⽇が。あれ? あんなことにもう⼀回戻らなきゃいけないんだっけ? というのが今みんなが感じていることだと思います。

もちろん通勤電⾞というのが槍玉に挙げられましたから。あれに戻ろうなんて気持ちも、 みんなさらさらないだろうと思うんですね。しかも構造が⾒えてきたんでしょうね。通勤電⾞というのは、本当に、鉄道会社の都合によって僕らは押し込まれていたんだなっていうことが、よくわかっちゃったってことですね。

本当は、快適に電⾞に乗ってもらいたいんだったら、電⾞の本数を増やすのか、あるいは列⾞の⻑さをもっと⻑くすればいいわけで。そうすれば全員が座れて、全員普通に通勤なんか快適にできたはずなんでしょうけど。あれだけ詰め込んでいたというのは。隣の⼈にぎゅっと⾜を踏まれたりですとか。しかも列⾞のなかに乗っていると、マナーを守りましょうとか⾔われたりするわけですよね。

マナー以前に、この詰め込み⽅はお前らマナーあるの? とか。あ、ごめんなさい、なんか。鉄道会社の⼈いたらごめんなさいね。ここまでぎゅうぎゅう詰めにしておきながら、マナーを説きますか、あなたたちは、という。懐かしい時代だなと、今はそう思うわけですけど。そうなったとき、ひょっとしたらオンラインで、今⽇もオンラインですけど、これだけの⼈たちが、こういうコミュニケーションが取れるのであれば、東京都⼼部でなくてもいいのかもしれないなと。

僕も東京には住んでません。兵庫県に住んでいて。兵庫県から今お話をしていますが 全然問題ないなということが、バレちゃった。バレちゃった以上、⽇本のそれぞれの地域、東京以外の地域に可能性を感じる⼈たちというのは、今すごく増えているだろうなというのは、ご指摘の通りだと思いますね。

【司会】

それでは、視聴者さまからの質問も受けておりますので、いくつかピックアップしたいと思います。今、地⽅で新しい図書館を作る構想があって、何年も滞ってますと。こちらを進めるにあたって、市⺠全体の何パーセント、もしくは何⼈くらいの意⾒を聞き取りすれば、市⺠の意⾒を反映させたと⾔えるのでしょうかと。具体的なお話になるのですが、こちらに関して、⼭崎さまのご意⾒をお聞かせください。

【山崎】

何⼈くらいの意⾒を聞けばいいですよ、というのは、なかなか僕も⾔いにくいし。それは市⺠全員の何割であれば、市⺠の意⾒を聞いたと⾔えるかっていうのは、それはまた答えにくいところではあります。

というのは、我々も図書館に関するプロジェクトなんか、いくつかありますが。⼈⼝が何⼈の街であっても、だいたい 50⼈から 100⼈、200⼈くらいの⼈たちですね。それくらいの⼈たちとしゃべっていることが多いんですよ。なので、10万⼈の街のなかで、100⼈集まって決めましたって⾔ったら、そんなのごく⼀部じゃないかって⾔われることが多いんですけど。

実は建築の、図書館の形⾃体を住⺠に決めてもらっているわけではないというところが⼤事なんだと思います。図書館のプロジェクトいくつかありますけど、2017年から関わっている、⼭⼝県柳井市の複合図書館については、最初から、⾼校の跡地に図書館を建てるということだったので、⾼校⽣とか若い⼈たちに来てもらって話し合いしたいということで。

静かな図書館で、ワイワイ騒いだら、「しっ!」って⾔われて、もう⼆度とこんなところに来るもんかって思うような⾼校⽣を増やさないと。むしろおしゃべりしていて、にぎやかな図書館で、静かに本を読みたい⼈が防⾳室のなかに⼊って読めばいいじゃないかと。もっと⾔うと、なんで図書館に本なんか読みに来るんだって、そういう考え⽅ですね。図書館は本を読む場所だろうって、みんながおっしゃるかもしれないんだけど、アンケートを取ると、図書館には涼みに来ている⼈とか、図書館にはおしゃべりに来ている⼈が圧倒的に多いんです。図書館に本を読みに⾏きたいなんて思っている⼈はほとんどいなくて。図書館には本があるから⾏くだけなんですね。図書館には本があるから⾏くだけで、⾏ってみたら、誰かと出会えることが⼤事で。実際、本を開けて読むなんて⾏為はほとんどみんなしないってことがわかっている。

この時代には、それがわかっているということで、じゃあ、みんなでおしゃべりできるような図書館がいいよね、というようなことから、スタートしてます。⼩学⽣たちだったり、⾼校⽣たちだったりする⼈たちを中核にしながら、その周りに⼤⼈の⼈たちにも集まっていただいて、ワークショップを続けていこうということで。我々はいらなくなった雑誌とかそういうのをいっぱい持ち込んでいっては、それを切ったり貼ったりして、将来こんなイメージの図書館になっていくといいよねとか、図書館のなかで私たちこんなことがやりたいよね、ということとかを、さんざん話し合っていったり。

それから、設計者もみんなで⼀緒に話し合って決めていこうよということで。このときは⾕尻誠という、広島と東京で活動をしている建築家に設計をお願いできるようになったので。彼らにもこの場所に来ていただいて。

山崎亮氏講演
(画像=山崎亮氏講演)

今映っているのがそうですね。⾕尻誠さんの事務所の代表と共同代表の⼆⼈ですが、この⼆⼈にもワークショップに何度も来ていただいて、それぞれのチームが出してくる意⾒というのを設計のなかに反映していってもらいます。

ただし、ここで重要なのは、建築を⾚い⾊にしてほしいとか、⻘い⾊にしてほしいとか、和⾵がいいとか洋⾵がいいという話を、みなさんに聞くわけではないですよということで集まっていただいているわけですね。

そうではなくて、みなさんがこれから⽣きていくなかで、新しい図書館ができるなら、あなたは何がやってみたいですか? という話だけを集めていくことにしています。なので、やってみたいという⾏動について、活動について意⾒を集めていくと、これを建築家が設計に反映させます。その活動が成⽴するような空間を⽤意していくことになる。

だから建築家としては、10万⼈の街で10万⼈の⼈たちを対象にした建築をイメージして設計を進めるんですが。具体的に100⼈くらいからは、こう使いたいという活動を聞くことができる。だから、その意⾒も設計に反映しますよ。でも100⼈の意⾒だけで設計しましたというふうにはしないでくれというのは、建築家によく頼むことです。だって10万⼈のうち100⼈の意⾒しか聞かずに、それで設計を決めちゃったら、9万9,900⼈の意⾒を聞いてないってことになっちゃうので。

そうではなくて、設計者というのは、もともと誰の意⾒も聞かないけれど、みんなのためになるような空間を設計しようと思っていた。ところが、今回は100⼈ないし200⼈の⼈が⽬の前に来てくれているので、⾃分たちが想定しているものと、この街の中⾼⽣がイメージしているものがずれてないかどうかを確認しながら設計を進めていく。

でも、だったら、ワークショップってそんなに意味ないんじゃない? って思われるかもしれませんが、この100⼈、200⼈の⽅々が、図書館について⾃ら学んだり、その場に来て友だちになったり、なんか⼀緒に活動したいって思ってくれてチームが⽣まれること、これがワークショップのなかではすごく⼤事です。

というのは、こういう進め⽅をして、図書館が完成したあと、この⼈たちは真っ先に図書館に来て、いろんな活動をやってくれる⼈たちになるからですね。その活動している⼈たちを⾒て、図書館にふらっと来た⼈たちが、あれ、そんなことをやっていいんだったら、私たち図書館でこんなことやりたいけどっていうようなことを、また後から、後から、いろいろ実現してくれるということがあります。

山崎亮氏講演
(画像=山崎亮氏講演)

柳井市の図書館は、まだ計画のところまでで、完成した図をお⾒せできないんですけど。愛知県の安城市では、同じようなプログラムをやりながら、こんなでっかい図書館なんですが、複合施設が、もう既に完成しています。この完成しているところは、⼈々に話し合ってもらって、そしてチームを作って学び合ってもらって、図書館で何がしたいかっていう話し合いをして。実際に何がしたいって⾔ったものを市⺠に対して発表してもらい、⾃分たちで実際にやってみる。図書館のなかで、将来⾃分たちがやりたい活動、伝統料理とか、あるいはパパをサポートするような活動とか、読書会をやってみたいとか、マルシェを開きたいとか、みんなが⾔っていた活動を、とりあえずやってみるということを繰り返しました。これ、社会実験と呼んで。

これをやっている間に、図書館の⼯事が進んでいて、結果的にこの⼈たちが、いろいろ実験をほぼ2年くらい、街の各所でずっとやり続けていたら、ようやく図書館が完成し、そこにばっと⼈が集まってきて、練習しまくっていた⼈たちが、図書館のなかでその成果をどんどんやるわけだから。本を読みに来ているのか、こういう活動に参加しているのか、もはやよくわからない。だけど、どうもにぎやかな図書館であり。

これは 1メートル×1メートルを10円で借りましょう、みたいなことをこの図書館はや っているんですけど。だから、わりと広い空間を使っても、300円くらいで借りることができるということで。そんな図書館ですよ、ということにすると、この状況を⾒た⼈たちが、「じゃあ私も300円でそこを借りて、これがやりたい、あれがやりたい」というふうに⾔う。だから、「100⼈しか関わってないじゃないか、200⼈しか関わってないじゃないか」って⾔われるかもしれませんが、図書館が完成すると、その⼈たちが10団体、20団体、いろんな活動をしてくれるので、あとから来る⼈たちがみんな、「それをやっていいなら、私もこれやりたい」っていうふうに⾔ってくれる。図書館の使い⽅を事前に⽰してくれるような、取り扱い説明書を実際、⾃分でやってくれるような⼈たちが 100⼈くらいいるということですね。

なので、ワークショップで進めながらやるのがいいんじゃないかなと思っています。 ご質問にお答えするとすれば、何⼈くらいの話を聞けば⼗分ですか? というのは、なかなか何⼈というふうには⾔えないんですが。しかし聞いた⼈たちが、ただ聞くだけではなくて、実際に完成するまで活動を続けていって、できあがった公共の空間のなかでは、⼈々に図書館の使い⽅を実際にやって⾒せる⼈たちになること。これがすごく⼤事だと思います。

そうでなければ、たぶん、できあがった図書館は、みんな常識として、静かに使うと思うんですよ。静かに使う、しゃべっちゃダメ、飲み⾷いしちゃダメって図書館になってしまうと、図書館があまり好きではない次世代を作ってしまうことになりますので。完成したときから、あれやっていいの? これやっていいの? みたいなものを、具体的に⾒せてもらうこと。しかもこれは業者さんにお⾦を払ってイベントとしてやってもらうんじゃなくて、あの⼈たちみんな⾃分の趣味として、無料でやるわけですから、そういう⼈たちが図書館の応援団になってくれてることに価値があるのではないかなというふうに思います。