相続が気になるすべての方へ もめないための相続心理学
藤田 耕司(ふじた・こうじ)
公認会計士・税理士、心理カウンセラー(経営心理学)
FSGマネジメント株式会社 代表取締役、FSG税理士法人 代表社員
早稲田大学商学部卒業後、有限責任監査法人トーマツを経て、現職に至る。19歳の頃から心理学や脳の特性など、人間科学に関する勉強を始め、大学卒業後は公認会計士、税理士として数多くの経営者と関わる中で、現場で実践し経営を改善できる人間科学の必要性を痛感する。以来、人間科学を経営に応用し、心や感情の流れに重点を置いた経営コンサルティングを中心に、相続・事業承継業務、経営者コーチング・カウンセリング、会計コンサルティング、税務申告業務を行い、心・感情と会計・数字の両面からクライアントを支援する。また、全国で人間科学と経営・相続に関する講演・研修活動も行う。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
(Amazonの電子書籍Kindle版でご購入いただけます)

相続におけるお金の魔力と感情

相続する財産は金銭的な価値で評価されると、数字という具体的な形で表現されます。

それゆえに、お金の魔力も働きやすくなります。

お金の魔力は一般的に金額の大きさに比例してその力も増します。

相続においてはこれまでの人生で扱ったことのないくらいの大きな金額を扱うことがあることから、お金の魔力は猛威を振るうことが多々あります。

その結果が先にお話ししたような争いの件数に表れています。

それほどに相続となると争いが多いのが現状ですが、争いが起きる背景には怒りや不満といったマイナスの感情が存在します。

そして、争いを繰り広げる過程で怒りや不満といったマイナスの感情は増幅されていきます。

相続における争いはなかなかすぐに解決するようなものではなく、場合によっては相続での争いが原因でその後生涯にわたって親族が険悪な関係になることもあります。

このような状況にあっては、争っている相手のことを考える度に怒りや嫌悪感などのマイナスの感情を味わい続けることになります。

人間が本来的に求めることが、人生の一瞬一瞬をよりよい感情で過ごすということであるならば、生涯にわたってマイナスの感情を味わい続けるような状況は、何としてでも避けたいものです。

よりよい感情を得ることにお金の存在価値があるにもかかわらず、そのお金を巡って争いになり、結果として怒りや不満といったマイナスの感情を長期にわたって味わうことになる。

これは本末転倒のような気もします。

しかし、お金や財産そのものに意識が強く向かっていると、「なぜお金や財産を手に入れたいのか」ということに対する本質的な理由を見失いがちであり、感情にその答えがあるということに気付くことは難しいかもしれません。

人がお金や財産によって「本当は何を手に入れようとしているのか」という観点から、お金や財産を相続すること、そして遺産分割協議の在り方を考えてみると新たな発見があると思います。

また、相続税は事前に適切な対策を講じることで大幅な節税を行うことが可能になりますが、お金の魔力によって関係者間でもめていると、この対策を実行に移すことは困難となります。

その結果、事前に適切な対策を講じた場合と比べて多額の相続税を納めることになってしまいます。

被相続人が亡くなり相続が発生した後においても、相続税法では相続税を大幅に減額するための様々な制度が設けられています。

こういった制度を適用することで相続税を数百万円、場合によっては数千万円も減額することが可能となります。

ただし、その中には誰がどの遺産を相続するかについて、相続人全員が同意の上、その内容を遺産分割協議書としてまとめることが要件であるものもあります。

しかし、お金の魔力によって相続人同士で争いが起きた場合、遺産分割の結論を遺産分割協議書としてまとめることは極めて難しくなり、いつまでたっても議論は平行線のままで、まとまらないことも珍しくはありません。

その結果、相続税の大幅な減額の機会を逸してしまうことになります。

自分がより多くの財産を手に入れようと執着すると、生前対策や遺産分割協議における話し合いがまとまりにくくなり、結果として相続税を減額させる機会を逸することになる。

つまり、お金の魔力に囚われ過ぎて『こころ』のバランスを失うと、お金が逃げていく。

相続においてはこういったことが往々にしてあります。

そのため、相続の話し合いの場では、お金の魔力に囚われ過ぎることなく、『こころ』のバランスを保った状態で話し合いを進めることがいかに大切かということがおわかりいただけると思います。

円滑な相続のためには、税金や法律の問題といった『アタマ』に対する対策を講じると共に、冷静な対応が求められる状況に備えて、平常心を失わないよう、感情的にならないよう、自身の『こころ』のメカニズムを知り、『こころ』のバランスを保つための準備や心構えをしておく必要があります。

感情は野生の暴れ馬のようなもので、『こころ』のバランスを保ち、手網をきちんと引いていると安定していますが、『こころ』のバランスが崩れると暴れ始め、場合によっては手がつけられなくなります。

そのため、感情の手網を引き、上手く乗りこなすためには、『こころ』のバランスが崩れる要因を知っておくことがとても重要であり、いざ自らの『こころ』のバランスが崩れそうになった時には、その要因を分析することで、冷静になるためのきっかけを得ることができます。

そこで、ここからは相続において『こころ』のバランスが崩れる要因についてお話ししていきたいと思います。