相続が気になるすべての方へ もめないための相続心理学
藤田 耕司(ふじた・こうじ)
公認会計士・税理士、心理カウンセラー(経営心理学)
FSGマネジメント株式会社 代表取締役、FSG税理士法人 代表社員
早稲田大学商学部卒業後、有限責任監査法人トーマツを経て、現職に至る。19歳の頃から心理学や脳の特性など、人間科学に関する勉強を始め、大学卒業後は公認会計士、税理士として数多くの経営者と関わる中で、現場で実践し経営を改善できる人間科学の必要性を痛感する。以来、人間科学を経営に応用し、心や感情の流れに重点を置いた経営コンサルティングを中心に、相続・事業承継業務、経営者コーチング・カウンセリング、会計コンサルティング、税務申告業務を行い、心・感情と会計・数字の両面からクライアントを支援する。また、全国で人間科学と経営・相続に関する講演・研修活動も行う。

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『アタマ』と『こころ』の関係

相続対策というと、多くの場合、相続税の対策がクローズアップされます。

相続税は膨大な金額となることがあり、対策を講じた場合と講じなかった場合とでは、相続税の額は大きく変わってくるため、その後の相続人の人生にも大きな影響を与えることになります。

そのため、相続税に対する対策を講じておくことは極めて重要であると言えます。

税理士として相続税に関するご相談を受けた際には、色々な対策をご提案することになります。

詳細は第6章にてお話ししますが、相続税を少なくするための対策として、不動産や保険を活用したり、生前贈与を行ったり、その他にも様々な対策方法があります。

ただ、円滑な相続のための対策について具体的な対策案をご提案しても、その対策案が実行に移されるかどうかはまた別の話です。

親が都心の駅前の一等地にかなり広い土地を持っていて、どう考えても相当な相続税がかかりそうなので何らかの相続税対策をしないと大変なことになる。

相続税を減らすための対策も税理士に相談し、いくつか具体的な対策案をまとめてもらっている。

そんな場合であったとしても、親や兄弟とコミュニケーションをとるといつも険悪な雰囲気になってしまうといった状況ではいつまでたっても相続税対策に取り掛かることはできません。

相続に関係する人、つまり譲り渡す側と受け継ぐ側の全員が、相続税対策という目標に向けて協力関係が築けていないと、どんな対策案を考え出したとしても実行に移されることなく、結果として机上の空論に終わってしまいます。

そのため、相続税対策を実行するにあたっては、相続に関係する人全員といかに協力関係を築くかという課題をクリアすることが不可欠となります。

亡くなって財産を譲り渡す人のことを「被相続人」といい、被相続人から財産を相続する人を「相続人」といいます。

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、相続人全員で誰がどの遺産を相続するかについての話し合いをすることになります。

この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

円満な相続を実現させるためには、この遺産分割協議をいかに円満に終わらせるかが重要なポイントとなります。

そのためには不満や文句を言う相続人が出ないような形で誰がどの遺産を相続するかを決めなければならず、相続人同士で遺産分割協議を円満に終わらせるという目標に向けて、協力関係を築く必要があります。

この協力関係が築けていないと、どのような分け方を提案しても、へそを曲げたり、ごねられたりして、話し合いを前に進めることが難しくなります。

こういった協力関係を築く上で大切なことは、相手の頭と心の両方が納得してくれるようなコミュニケーションをとることです。

人間には、数字や分析、ロジック、言語など頭で把握し理解することと、感情や印象、想いなど心で感じることがあります。

人間は頭と心の両方でいろいろな物事を把握し、判断し、どのような発言や行動をするかを決めています。

「はじめに」でもお話ししましたが、私は公認会計士・税理士・心理カウンセラーという肩書きで仕事をしており、何か物事を捉える際には、公認会計士・税理士としての「数字、専門知識、分析、ロジック」という頭で「考える」ことと、心理カウンセラーとして、「気持ち、感情、心の動き」という心で「感じる」ことの2つの観点を持つようにしています。

これらの観点をわかりやすく説明するために、『アタマ』『こころ』という表現を使います。

このように概念と表現を2つに分けて使うことで、物事を捉える際にいずれかの観点が欠けることのないようにしています。

『アタマ』は、合理的か、論理的か、きちんとした理由があるかといった点に判断の基準があり、合理的なこと、論理的なこと、きちんとした理由があることについては納得し、GOサインを出してくれます。

『こころ』は、快か不快か、好きか嫌いか、いい感じか悪い感じか、印象が良いか悪いか、その結果プラスの感情が生じたかマイナスの感情が生じたかという点に判断の基準があり、プラスの感情が生じたことについては納得し、GOサインを出してくれます。

『アタマ』と『こころ』の両方が納得し、GOサインを出した時、人はその方向に動きます。

『アタマ』が納得しても、『こころ』が納得しないと人は動きません。

論理的で合理的な内容に対して『アタマ』が納得しGOサインを出すと、『こころ』にも好印象を与えるといった連動性もありますが、その好印象を上回る「不快」や「嫌い」、「悪い感じ」、「マイナスの感情」などを感じると、『こころ』は納得しません。

国会で法案を通す時に、衆議院と参議院の両方で可決されなければ法案は成立しません。『アタマ』と『こころ』の関係もそんな感じです。

例えば、ある人から何かの提案を受けた際に、その説明が論理的で数字の裏付けもあって、その内容が合理的であると『アタマ』は納得してGOサインを出します。

でも、その相手の言い方や態度が気に入らなかったりすると、『こころ』はマイナスの感情が湧いてくるため、納得しません。

その結果、その提案を受け入れようとはしないでしょう。

論理的な説明、合理的な内容、数字の裏付けのように『アタマ』で把握し理解することは目に見えるので具体的に捉えやすいことから、コミュニケーションにおいてもお互いに誤解なくスムーズに伝えることが可能です。

一方、『こころ』で感じることは具体的に目に見えるようなものではなく、コミュニケーションを通じて誤解なくスムーズに伝えることはとても難しいものです。

しかし、最終的に人を動かすのは『こころ』です。

人間の脳には『アタマ』を司る部分と『こころ』を司る部分がありますが、『こころ』を司る部分は最終的な意思決定を行い、行動に移すための指令を出します。

そのため、人間は感情によって動く生き物と言われるのでしょう。

相手の『こころ』を打つコミュニケーション、相手の『こころ』に響くコミュニケーションをとることができれば、お互いの仲は大きく深まり、そして相手は動いてくれます。

スマートで論理的な説明をしても、たくさんのお金を積んでも納得してくれない。

そんな相手であったとしても、「いつもありがとう」の一言が相手の態度を大きく変えることもあります。

『アタマ』にうったえかける言葉だけではなく、不器用な言葉であったとしても、『こころ』に届く言葉を伝える。

信頼関係や協力関係を築いていくためにはこういったコミュニケーションが大切になります。