目次
- 社長就任2年目から成長に向けた取り組みを開始。人員を増やし、異業種からも情報収集を徹底的に行う
- ホームページの刷新を契機にデジタル化推進が加速。SNSの活用も視野に入れ、広報部門を立ち上げた
- 女性や若手を育て、生かす仕組み・組織づくりが必要
- 業務全般にDXを落とし込んでいきたい。そのために専門人材を採用してまずは仕組みを構築
- 企業の社会的責任を果たすため、SDGsにも本気で取り組む
- 地域の文化交流拠点「Q1」に入居。市民や異業種との協業による創造力で新しい何かが生まれる期待も
- 今後期待するのは若い社員からの提案。主体性を持ってアイデアをどんどん出してほしい
- 今は新しいことにチャレンジをする時期。会社規模を大きくして収益を上げ、働きやすい環境を作りたい
産経ニュース エディトリアルチーム
山形県山形市に本社を置く愛和建設株式会社。1944年創業の山形東南土木工業株式会社が1974年創業のハウスウメーカー、カネフジハウス工業と1995年に合併し、愛和建設株式会社と商号を改めた。同社が強みとするのは軽量鉄骨「アイワフレーム」によるオリジナルのシステム建築で、設計から製造、施工までを自社で行っている。そのため、建設会社というより製造業としての色合いが強く、事業比率では公共事業1~3割に対し、民間建築物件の受注が7割以上に及び、受注先は県内外に広がっている。
東日本大震災直後には仮設住宅の施工も手がけ、4年ほど前までは倉庫や事務所の再建を数多く手がけるなど復興にも貢献。震災需要が落ち着いたここ5年ほどで、10億円クラスの倉庫や6〜8億円クラスの工場といった大型物件にも、元請けとして応じるようになってきたという。現在、愛和建設で陣頭指揮を執る横山隆太代表取締役社長は、大学卒業後の2003年にグループ会社のカネックスに入社して営業として経験を積み、2005年に愛和建設に移籍。2017年に社長に就任した。当時すでに時代はデジタル化へと歩みを進めており、コロナ禍でさらに加速。建設業でもその流れは否応なしだ。そして現在、横山社長はこの激動の時代を自社の成長期と捉え、組織改変と並行して積極的にDXを推進していた。(写真はアイワフレームにより施工した店舗)
社長就任2年目から成長に向けた取り組みを開始。人員を増やし、異業種からも情報収集を徹底的に行う
先代の社長、横山正巳氏から2017年に会社を引き継いだ横山隆太社長。地元企業の再生にも手腕を発揮した先代社長は「厳しい人だった」という。横山社長は昔ながらの建設業の社風を否定するわけではなかったが、時代に応じた職場環境づくりの必要性も感じていた。しかし、社長に就任して最初の3年間は何も変えないつもりでいたという。
「ここで好き勝手なことをすると、みんながついて来ないと思って。でも、父は最初の1年だけ共同代表をやりましたが、2年目からは私に全権を託して一切会社に来なくなりました。その潔さは尊敬します」と振り返る。そして、ここからが成長期だと腹を決め、まずは徹底的に情報収集に取り組んだ。とりわけ異業種の経営者に会うことで得られた情報は大いに刺激となったという。「とにかく色々な人に会いましたね。DMを送ってきた人には全員会いましたし、全国から人が集まる異業種の会にも参加しましたけれど、自分のようにスーツにネクタイなんて人、いないんですよ。それを見てまずいなあって感じましたね。でも、そこでさまざまな新しい取り組みを知ることができました」
さらにDXについて自ら調べ、当時県で立ち上げられたたY-biz(ビジネスコンサルティングセンター)からも多くの情報を得ていた。こうして情報収集に力を注ぐ中、人員の増員に向けても動き始めた。2022年までに採用した社員はグループ全体で15名。2019年にはキーマンとなる人物が入社した。
ホームページの刷新を契機にデジタル化推進が加速。SNSの活用も視野に入れ、広報部門を立ち上げた
現在経営企画部の課長を務める荒井愛氏は、2019年に入社し営業支援の部署に配属された。荒井課長が入社して早々に気になったのはホームページだった。当時のホームページは更新頻度が少なく、情報の質・量ともに改善の余地があると感じられたという。
「上司に相談したところ『リサーチをしてみたら』と助言をもらったので、私なりに情報収集をしました。でも、何より自分の提案に確信を持てたのはアドヴァンス・プロジェクトのメンバーからも同様の意見が出たことでした」と振り返る荒井課長。この「アドヴァンス・プロジェクト」とは先代社長がかつて作った「若手の会」という組織を横山社長が形を変えて復活させたもので、20〜30代までが参加できる集まりだ。横山社長はプロジェクトが迷走しないよう「やりたいこと」と「やらなければならないこと」を軸に据え、自由な意見や提案を出してもらっている。若手だけゆえに気兼ねなく意見を交わすことができるのがメリットだ。このプロジェクトで手応えを得た荒井課長は入社1年後、ホームページ刷新を横山社長に提案した。
「それまでは自分で人脈を広げるという営業方法をとっていて、ホームページで顧客を取ろうという発想もなかったので、サイトは私が片手間に更新していたんです。でも、すでにSNSが発達している現状で、専門部署の必要性を感じたことから広報部門を立ち上げ、荒井課長に担当してもらいました」と話す横山社長。若手の提案をどう活かすかには、経営陣の慎重な判断が求められる。しかし、「任せる」ことで社員のモチベーションは確実に上がる。情報を集め、ホームページ刷新に向けて粘り強く取り組む荒井課長の熱意を感じ取った横山社長は、ホームページリニューアルのミッションを託した。そして、2021年に現在のホームページが出来上がった。その結果問い合わせが増え、採用にもつながっているという。
女性や若手を育て、生かす仕組み・組織づくりが必要
ホームページリニューアルプロジェクトを契機に同社ではさまざまな取り組みを始めている。とりわけ若手人材や女性の増員に応じて、働きやすい仕組みづくり・組織づくりにも力を注いできた。
女性社員はグループの社員74人中23人と、ここ2年で増えている。「女性は建設現場での作業を希望されても実際は難しいです。とはいえ、建築の勉強をしている人はいますので、当社では設計部門に4人配置しています。また、今年から現場の統括をする部門として工務管理部を立ち上げ、これまで現場管理人がやっていた準備や報告書作成などの管理業務を分業する形で女性も担っています。いずれは現場代理人としても活躍できるでしょう」
また、これまで「営業支援」としていたアシスタント的な仕事も「営業職」として統括し、営業活動も担ってもらうことにした。前述の広報部門や、荒井課長が現在所属する経営企画部でも女性が活躍中だ。このように、次々と組織改変が行われ、女性や若手が活躍できる部門の選択肢が増えつつある。
若手社員には入社後に現場から営業、設計など全ての部署を経験してもらうが、現場でのOJTには難しさがあると横山社長は指摘する。「現場は危険と隣り合わせですので、現場代理人たちは常に気持ちが張り詰めています。また、工期にゆとりのある案件はほぼありませんし、お金の話もしなきゃいけない。そのうえ若手を育てろというのは酷なことでしょう」。工事部と工務管理部を切り離したのはこうした背景もあったのだ。そして、横山社長がさらに期待を寄せるのはDXによる業務改革だった。
業務全般にDXを落とし込んでいきたい。そのために専門人材を採用してまずは仕組みを構築
「2021年からバックオフィスのデジタル化を進めてきましたが、まだ業務全般へのDXの落とし込みができていません。早急に専門人材を採用して基盤となる仕組み作りに力を入れたい」と意気込みを語る横山社長。
2021年に役員と営業スタッフを対象にSIMカードを備えたパソコン※を導入したところ、ビジネスチャットツールを用いた情報共有をはじめ、クラウド上で写真や図面が閲覧できるため、コロナ禍のテレワーク対応やWeb会議、採用活動にも効果を発揮。(※Wi-Fiがなくても、スマートフォンと同じように単体でインターネットに接続できるパソコン)
2022年にはIT補助金を活用し、建設業で普及拡大が進むBIM(Building Information Modeling)に取り組んでいる。BIMは、建築図面を当初から3Dモデルで作成し、躯体の内部構造や外構に至るまで完成形との差異を付き合わせしやすく、工期の削減や設計変更時のコスト把握にも効果を発揮する。したがって、横山社長はこれを活用してデータのインデックス付けをすれば、AIを用いた図面や見積りの作成もできると見込んでいる。「BIMは大手ゼネコンでもまだ試験的にやっていて、まだ手探りの状況。だからこそ今がチャンスです。自社でいち早く使えるように今オペレーターを育成中です」と意気込む。
定型化した業務であれば、RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)も活用したいと積極的だ。さらに「今年は是が非でもChatGPTやSiriを業務の中に組み込んでいきたい」と語る横山社長は「我々の世代はデジタル化を仕事に結びつけるのが苦手。だからこそ自分は逃げずに向かっていきたい」とDX推進に向けた決意を固めている。
企業の社会的責任を果たすため、SDGsにも本気で取り組む
こうした社内組織の改変による働き方改革や女性の登用、DX推進とともに、組織の社会的存在価値を高めるために欠かせないのがSDGsへの取り組みである。横山社長は山形市の青年会議所に所属していた頃から取り組みに携わっており、早い段階でのスタートだった。
「SDGsについては経営企画部が中心になって企業活動、社会貢献活動として取り組むことにし、SDGs宣言を行いました」。早速実施したのがSDGsの理解を深めるための研修だった。まずは推進メンバーが2回にわたりワークショップを受講し、自分ごととして理解し、社内での取り組みを促進していった。
活動の一環で2022年に実現したのが「リフレッシュルーム」の構築だった。以前は社員の昼食スペースだった部屋をリノベーションし、椅子やテーブルやパーティションも全てフレキシブルな組み合わせができるものに刷新した結果、食事や休憩のみならずミーティングなど多用途に活用されるようになり、社員の福利厚生にも大いに貢献している。
地域の文化交流拠点「Q1」に入居。市民や異業種との協業による創造力で新しい何かが生まれる期待も
2022年9月、山形市中心部の旧第一小学校の校舎に「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」がオープンした。この場所は文化交流を軸に地域内外の人が交流を深めるための共創プラットフォームとして市民・企業・行政が連携し、創造性を産業や人材育成へとつなげる取り組みを行い、県内外から注目を集めている。建物は山形県初の鉄筋コンクリート造の学校建築として国の登録有形文化財になっている旧第一小学校の内部をリノベーションし、東北芸術工科大学の馬場正尊教授がプロジェクトのプロデューサーを務めている。愛和建設はこの施設のリノベーション工事に参画し、さらにテナントとして同社の家具部門がサテライトオフィスとして入居している。これは単なるビジネス目的ではなかった。
「工事がきっかけで入居させていただきましたが、何より経営者にもクリエイターとしての視点が重要だと感じたこともあります。昨年オープンしたばかりで、まだこれからどう活用していくか、という段階ですが」と、何やら楽しそうにも見える。ここからさまざまな企業や市民、行政との協業が実現する日が楽しみだ。
今後期待するのは若い社員からの提案。主体性を持ってアイデアをどんどん出してほしい
このように2021年から次々とアクションを起こしてきた横山社長だが、ここ5年間で若手社員が増え、先述したアドヴァンス・プロジェクトへの期待をにじませる。今後は社員からの主体性を持ったアイデアに大きな期待を寄せているという。「これまでは私がやりたいことを社員にお願いしていました。でも、これからはもっとみんなの力が欲しい、と伝えました。ゼロからのことでも、改善案でもいい。みんなに荒井課長の事例のようなことをやってもらえれば嬉しいですね」と話す横山社長。
荒井課長は横山社長の言葉に応えるように「社長は提案したことに対して、『できるよ』と言って任せてくれることが非常に多いので『期待に応えなきゃ』という気持ちになります。だからこそ一人ひとりに経営者のようなスタンスが求められるのではないでしょうか」と話す。
今は新しいことにチャレンジをする時期。会社規模を大きくして収益を上げ、働きやすい環境を作りたい
「2022年にはグループ全体で15人も採用しました。だから2023年は勝負の年です」と気を引き締める横山社長だが、今後も人を増やして事業規模を拡大することを目標として掲げている。「事業規模を大きくしないと、やりたいこともできません。事業規模が大きくなれば収益も大きくなり、残業の軽減にもつながりますし、人が増えれば育休や産休による欠員にも備えられます。マネジメントをしやすくするためにも人を増やすことが必要です」。
人を採用し、働きやすい仕組みや環境を作る。そのためにDXを積極的に活用しようとしている横山社長は「今は新しいチャレンジに向かっている時期」と意気込む。「愛和」という社名に先代社長が込めた思いを引き継ぎ、「社員が働いていて楽しい会社にしたい」と決意を新たにする横山社長の求心力のあるリーダーシップと、若手を信じる度量の大きさに、多くの人が惹きつけられていくに違いない。
企業概要
会社名 | 愛和建設株式会社 |
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所在地 | 山形県山形市北町3-9-15 |
HP | https://www.aiwakk.co.jp |
電話 | 023-664-0068 |
設立 | 1944年4月 |
従業員数 | 74人 |
事業内容 | 建設業(建築) |