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産経ニュース エディトリアルチーム
コンテナほどの大きな装置が工場の中に置かれている。「金属の板から部品を切り出すファイバーレーザー加工機です」と、株式会社三興プレス工場の富重庸平代表取締役専務は説明する。棚から送り込まれた金属の板をレーザーで加工して、部品となる材料を切り出す装置で、切断後の部材はロボットによって自動的に仕分けされ、板金加工や溶接、塗装といった次の工程へと移されることになる。(TOP写真:レーザー加工機、株式会社三興プレス工場内)
仕分けロボット導入で従業員の負担軽減
株式会社三興プレス工場が、ファイバーレーザー加工機にこの仕分けロボットを設置したのは2022年8月のこと。「それ以前は、切り出された部材を、従業員が図面を見ながら顧客別に仕分けしていました。ロボットによる自動仕分けを行うようにしたことで、そうした手間が減って従業員は他の作業に手や時間を振り向けられるようになりました」(富重庸平代表取締役専務)。持ち上げられる重量に制限があるため、今はまだ薄板だけしか扱えないが、「重い厚板は扱う従業員の腰に負担をかけます。そちらも早く自動化して業務を楽にしてあげたいと考えています」(富重専務)と、さらなる自動化に意欲を見せる。
埼玉県春日部市にある三興プレス工場は、1953年の創業時は東京都足立区の町屋で鍛造による金属部品の製造を行っていた。「当時は自転車の部品を作っていたと聞いています」(富重専務)。やがてプレス加工機も入れて業務も鍛造からプレスへとシフトしていった。その後、周辺に住む人が増えて操業が難しくなり、県を越えて春日部市へと移転した。「その当時で、業務の7割から8割がプレスになっていたそうです」(富重専務)
社名に「プレス」が入っているのも、そうした時代の業務内容を表したものだが、「実は今は、プレス加工は全体の1割ほどになっていて、レーザー加工による部品製造が事業の中心になっています」(富重専務)。手掛ける製品も、以前は自動車の部品が多かったが、自動車メーカーによる生産拠点の海外移転が進み、部品の調達が減ったことに対応し、大手メーカーが製造する建機や農機具向け部品へとシフトしていった。
小ロットで短納期の製品も積極的に受注
「作っているのは建機の足回り部品や、ホイルローダーに乗り降りする際に足を掛けるステップ、バッテリーを囲む金属製の箱といったものになります」(富重専務)。同社ではそうした部品を小ロットから引き受けて、短納期で提供することで多くの顧客を得てきた。「特別な技術を持っているわけではありませんし、大手のように同じ部品を大量に生産して供給する能力もありません。それなら、手間がかかってコスト高になるからと他の会社が敬遠するような仕事を、積極的に受注していこうと考えました」(富重専務)
その上で、業務の効率化を徹底することで、利幅の薄い仕事でも損が出ないような体制を整えることに注力した。施策の一つが、量産加工型生産管理システムの導入だ。受注に対してどの程度の生産能力があり、どれくらいの期間で納品できるのかといったことを把握した上で、現場が1日にどれくらいの作業をしなくてはならないか、1週間ならどれくらいになるのかを示し、作業してもらうように変えていった。
生産管理システム導入が働き方改革につながった
「どれくらい生産できたかを、作業指示書に従って生産された製品に付けていくバーコードによって把握しています。そうやって上がってきた進捗状況を毎日入力していくことで、全体の状況を把握できます」(富重専務)。受注した分の生産に必要な時間も割り出せるため、定時の作業では不足があるとわかれば早めに残業を指示するようにした。これによって納期の直前に長時間の残業を強いる必要がなくなった。生産効率のアップが同時に働き方改革にもつながった。
見込生産が減り、新たな受注や増産ができる体制に
「生産管理システムは、顧客から注文を受けて納品までにどのようにすれば良いかといった生産計画を綿密に立てられる機能を持っています。ただ、今の時点では、発注元や協力工場といったすべての取引先と連係しているわけではないので、受注前にこれだけ必要だろうといった見込みで生産しているところがあります」(富重専務)。読みを間違えれば無駄が出てしまうが、そこは長く事業を営む中で蓄積してきた、取引先がどのタイミングで発注してくるかといった経験を元に、ほぼロスなく生産できている。
また、「以前のように、1ヶ月先の受注分まで製造するような無駄はなくなりました。1週間から2週間といったスパンで区切って、細かく生産するようになりました」(富重専務)。結果として、生産された部品が出荷されないまま倉庫に積み上がるような事態を避けられるようになった。「そうやって空いたスペースには機械を増設して、新しい受注や増産に振り向けています」(富重専務)。小ロットではどうしても手間がかかって薄くなる利益を、取り扱う品数を増やすことでカバーして積み増していく。生産管理システムの導入が、そうした体制の構築を可能にした。
図面を電子化して、間違い防止や最後の検品も、楽に、正確になった
今はまだ、請求書を発行する受発注管理システムも別になっている。加工を依頼する協力メーカーが多くあったり、発注元にもデジタル化が進んでいないところがあったりして、すべてのワークフローを組み込めるわけではないからだ。それでも効率化を実現するため、早い段階で生産管理に受発注管理を一体化していければと考えている。事務担当者が毎日のように最新データを入力する手間は生まれるが、それを上回ってあまりある効果を期待している。
数千点にも及ぶ製品を取り扱っている関係上、使用する図面も膨大になる。同社では、それらを電子化した上でサーバーに蓄積することで、必要な図面が見つからなかったり、間違えた図面を使ったりするような事態を防いでいる。生産管理システムと図面を紐づけすることで、受注した品番から指示書を作る際に、図面も一緒に載るようにして、間違った製品を作らないようにしている。
できあがった製品に付けられたバーコードを工場にあるパソコンやタブレットなどで読み取ると、図面が表示されて正しく生産されたかも確認できる。電子化したことで様々なシーンで図面を活用できるようになった。
機械のリモート監視や出退勤のICカード化も実施 社内のICT化を積極的に進め働きやすい環境を整備
製造装置のリモート管理にも取り組んでいる。レーザー加工機がしっかりと稼働しているかをシステムが常時モニタリングして、異常があれば知らせてくれる。異常が起きないかチェックするために現場に詰めるような事態をこれで防げる。働き方の効率化につながるシステムと言えそうだ。
同じことは、数年前から導入しているICカードを使った出退勤管理にも言える。タイムカードの打刻をアナログで集計していた時代と違って、自動的に勤務時間や残業時間を集計してくれる。事務担当者には大助かりのシステムだ。最近のバージョンアップでは、有給休暇等の管理をしっかりと行えるようにした。
現場へのロボット導入も、リモート管理の実施や勤怠管理システムの運用も、突き詰めれば無駄な仕事を減らして、必要な業務へと人材を集中させることにつながっている。背景には採用難があり、すでに影響が出始めている少子化の問題がある。「以前は工業高校に募集をかけて新卒者を採用していましたが、今はなかなか来てくれません」(富重専務)。ホームページを刷新して企業イメージを良くし、具体的な仕事の内容を伝えて関心を持ってもらえるようにしたが、それだけで採用を伸ばせるほど状況は甘くはない。
時代の変化に対応して創業70周年、これからも時代の変化に対応し100周年を目指す
「それよりも現場の業務を効率化して、今いる従業員のリソースを必要なところに集中できるようにする方が効果的です」(富重専務)。業務自体は、土木・建設工事の好調ぶりを背景に当面は伸びが見込まれる。自動車の世界で進んでいるEV(電気自動車)化に伴う部品点数の減少も、建機や農機具が中心の同社にはあまり影響は出ない。その意味で将来への不安は少ない。
それでも、勝ち残るためにはより受注を積極的に行いつつ、コストダウンにも力を入れる必要がある。生産管理システムの導入をきっかけにして、より引き締まった体質へと変化を目指し、70周年を迎えた企業を80周年へと、そして創業100周年という大きな節目へと向かわせる。
企業概要
会社名 | 株式会社三興プレス工場 |
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住所 | 埼玉県春日部市豊野町3-5-4 |
電話 | 048-738-1881 |
HP | https://www.sankopk.co.jp/ |
設立 | 1981年5月 |
従業員数 | 47人 |
事業内容 | 【製品種目】プレス、レーザー、NCターレットパンチング等による板金加工一般、溶接加工、スポット溶接、組み立て等 【営業品目】建設車両、産業車両、農機具商品、自動車部品、電力送電、配電、工事用工具部品、通信及びJR関係金物、遮断機等、その他各種部品 |