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産経ニュース エディトリアルチーム
経済産業省が2022年度から始めた「DXセレクション」は、中堅・中小企業が取り組んでいるDXの優良事例を選びこれからDXに取り組もうとしている企業のモデルケースにしてもらおうという表彰制度だ。新潟県柏崎市で自動車部品や生産設備の製造を手掛けている株式会社テック長沢は、初年度の「DXセレクション2022」に選ばれた16社のうちの1社として表彰を受けた。(TOP写真:テック長沢の長澤智信代表取締役(左)と長澤博専務取締役(右))
経済産業省「DXセレクション2022」で表彰を受ける
「会社が持つ力を高めるために社内で取り組んできた、従業員が持つ様々なスキルを把握して管理する仕組みや、業務の工程を動画で撮影してマニュアルとして活用する仕組みを作り、連係させたことが評価されました」。そう話すのは、44歳で株式会社テック長沢を率いている代表取締役の長澤智信氏。弟の長澤博専務取締役とともに基幹システムの構築からタレントマネジメントシステムの構築、勤怠管理システムの導入などを着々と進めて、テック長沢を経産省が認めるICT活用企業へと変貌させた。
パソコンでシステムにアクセスすると、テック長沢で働いている人たちの名簿のようなものが表示される。この一人ひとりがどのようなスキルを持っているか、どのような作業を経験してきたかが、氏名に紐付く形ですべて記録されている。「生産スケジュールを組む時に、生産管理の部署でどの従業員をどこに当てはめるかを検討するのですが、このシステムができたことで、過去の生産実績や必要なスキルの有無を確認して、適切な配置を行いやすくなりました」(長澤博専務)と効果を説明する。
従業員のスキルを把握して記載し有効活用
「この従業員はこの作業を苦手にしているようだから外す、ということもできます」(長澤博専務)。ただ、できないからと振り落とすだけではなく、「ベテランと組み合わせることでスキルアップにつなげてもらうような人員配置も行えます」(長澤博専務)。企業で最も必要な人材の育成と有効活用において、このシステムが持つ価値はとても大きい。
資格のようにわかりやすいものとは違って、業務に関するスキルには明文化されたものはない。そこでテック長沢では、「業務を通して得られるのはどのようなスキルなのかを洗い出し、リスト化していく作業を行いました。専門のプロジェクトチームを作って数ヶ月かけました」(長澤智信社長)。その上で、誰がどのようなスキルを持っているのかを全従業員について当てはめていった。
ここで大切なのが、スキルに関する記録の“鮮度”を常に見直していくことだ。「ある作業を通じて得たスキルでも、同じ作業を長い期間手掛けなければ衰えてしまいますから」(長澤博専務)。日々の作業記録を元にして、スキルが維持されていることをしっかりと把握している。
文字より見られやすい動画マニュアルを作成
テック長沢では、こうしたスキルマップの構築に関連して、具体的にどのような作業を行うものなのかを説明する動画マニュアルも作り、スキルリストからリンクをたどって動画を見られるようにした。製造業の現場では、先輩の指導の下で若手が仕事を覚えていくようなところがあったが、「口頭では教え方に差が出てしまうことがありました」(長澤専務)。だからといって紙のマニュアルを作っても、現場ではあまり読まれないという。
「動画なら、標準化された作業手順を伝えることができますし、紙のマニュアルを読むよりも簡単に内容に触れられます。外国から来ている技能実習生も、紙のマニュアルを読むよりは動画を見て覚える方が早いようです」(長澤博専務)。SNSの利用も文章から動画へと移り変わっている時代だけに、マニュアルも動画を中心したものに変えていく方が良いようだ。
Tec Nagasawa DX Visionを掲げ生産性の向上、経営理念の追求
テック長沢が「DXセレクション2022」を受賞するほどICTの推進に熱心な企業。「Tec Nagasawa DX Vision」を掲げ、「あらゆる業務プロセスに、デジタル技術やデータ分析を取り込むことによって『マネジメントの改革』『技術力のダントツ向上』を実現し、生産性を向上させ、経営理念の追求に寄与する」としている。
兄と弟で会社のDX化に取り組む
長澤智信社長が祖父の代から続くテック長沢に入ったのは2003年のこと。2011年に3代目の社長に就任して経営の舵取りを行うようになった際、業務の効率化や企業イメージの向上にはDXが不可欠と考え、以後様々な施策に取り組んできた。「自分は文系なので、ホームページを専用ソフトで構築することくらいしか最初はできませんでした」(長澤智信社長)。それでも基幹システムの構築を行いDX化に端緒を開いた。
2006年には弟の長澤博専務が入社し、大学で学んでいた情報工学の知識を生かしたシステム開発を手掛けるようになった。「最初はタッチパネル方式で動かすお弁当の注文システムを作った程度でした」(長沢博専務)。ホームページの刷新にも取り組んだが、徐々に社内の業務の見える化と改善のためのシステムを作っていった。人事管理に紐付いたスキルマップの制作もそうした活動のひとつ。ほかに、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って、ちょっとした作業の自動化にも取り組み始めている。
たとえば、取引先との間で契約書や受発注書、納品書、請求書といったもののEDI(電子データ交換)を行っているが、これらがどのように推移しているかを毎月チェックする際に、EDIからダウンロードしたデータをCSVファイルにしてExcelに入れた上で、変更点をチェックするような手間が発生していた。「こうした差分のチェックにRPAを使うことで、作業が自動化されて担当者の手間を減らすことができます」(長澤博専務)。仕入先からの見積りへの回答を、RPAで自動的に登録できるようにして、手作業を減らすことにも使っているという。
RPAの積み重ねで省力化を実現
「一つひとつの作業は、人間が手で行ってもそれほど時間がかかるものではありません。ただ、5分の作業でも積み重なれば相当な時間になります。RPAを使うことでそうした作業を省力化できるのです」(長澤博専務)。こうした発想に至った背景には、「社内で行っていたタイピングコンテストで、熟練者でも300点超えがやっとだった得点で、いきなり900点近くを叩き出した人がいたことがあります」(長澤智信社長)。高得点の理由を聞くと、作業に簡単なRPAを使ったとのこと。熟練者でも届かない作業を自動的に行ってくれる仕組みがあるなら、使わない手はないと考えた。
良いとわかればすぐに踏み切る決断力も働いて、周囲でいろいろな作業へのRPA適用が進んでいった。「これからも、社内から意見を募って可能なところは置き換えていければと考えています」(長澤博専務)。営業などの現場で、取引先とのやりとりを入力してデータ化しておくことで、適切な時にどのような施策を打つべきかをアドバイスしてくれるようなAIの登場にも期待を示す。
出退勤のチェックをタイムカードではなく、ICカードすら使わない静脈認証にしようと検討を進めている。「カードを取り出す手間がありませんし、誰かが代わってタッチするようなことも起こりません」(長澤智信社長)。生産された部品の検査結果をタブレットやパソコンに手で入力する代わりに、口頭で話した音声によって入力できないかとも考えている。ICTによって効率化を進め、都市圏から離れた地域にある企業が共通で抱えている人手不足や、これから深刻化する人口減少の問題をカバーしようと懸命だ。
フォーカスの見定めや自社製品の開発で会社を変えていく
その上で本業についても、これから訪れる様々な変革に対応していく。「多く手掛けている自動車の部品は、EV(電気自動車)の登場で大きく変わっていくと思われます。以前なら数年後に量産が始まる車種のために見積りを出し、試作を行い量産へと移っていたものが、今はそうした先の案件がなくなっています。先が見えない状況です」(長澤智信社長)。そうした時代に、「どこにフォーカスを向けるかを考え、変わっていかなくてはなりません」(長澤智信社長)。
自社製品の企画・開発にも取り組む。製作したねじが規格に合っているかを確認する作業を電動で行い、作業者の負担を減らす「電動ねじゲージ」は、大手自動車メーカーにも採用されるほど好評を得ている。共に40歳半ばと若い兄弟が、力を合わせて全社的な改革に挑み、情報を武器にして次の時代を切り開こうとしている。
企業概要
会社名 | 株式会社テック長沢 |
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本社 | 新潟県柏崎市藤井1358-4 |
HP | https://www.tec-naga.com/ |
電話 | 0257-24-1125 |
創業 | 1963年10月1日 |
従業員数 | 170人 |
事業内容 | 素形材の切削加工をコア技術に、自動車、エネルギー、印刷機、半導体、産業用設備など幅広い産業向けに加工部品を提供 |