経営参謀としての士業戦略
藤田 耕司(ふじた・こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事、FSGマネジメント株式会社代表取締役、FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
19歳から心理学を学び、心理カウンセラー等の複数の心理系資格を取得。2011年に監査法人トーマツを退職し、コンサルティング会社と会計事務所を設立。人材育成から労務問題、採用、営業、マーケティングまで幅広い分野で、これまでに1,000件超の経営相談を受け、数字と人間心理の両面から経営改善を行う。また、これまでの経営改善事例から経営者の心理、部下の心理、顧客の心理、自己の心理を分析し、経営心理学として体系化することで経営指導の成果を大きく高める。現在、経営者人材や経営参謀の育成を目的として経営心理学を伝える経営心理士講座を主宰。全国から経営者や士業が集まっている。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『もめないための相続心理学』(中央経済社)がある。

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経営課題に踏み込む会話例

経営課題に踏み込む具体的な会話の進め方について、前章の労務コンサルティングを業務とする場合の会話例に続く形でご紹介します。

士業「採用して人が増やせれば、売上を伸ばせるという話でしたね。そうすると、御社の魅力を応募者に伝える方法を考える必要がありますが、御社の魅力を表現するとしたら、どういったことが表現できそうですか?」

経営者「そうですね、弊社の魅力は……(詳細に説明)」

士業「なるほど。この点について従業員の方はどのように話していますか?」

経営者「従業員ですか、どうでしょう。聞いたこともありませんでした」

士業「社内で採用に関する会議は行ってはいないですか?」

経営者「特にしていません。自分一人で考えています」

士業「それは、採用も含めて、会社の経営に関しては基本的に社長が一人だけで考えているということですか?」

経営者「自分以外の従業員は全員エンジニアで、彼らにはひたすらホームページの制作をやってもらっています。ですから、経営に関して相談する相手はいないのが正直なところです」

士業「なるほど。今の人数からさらに人を増やすとなると結構な人数になりますが、その人数だと戦略的に組織を作っていかないと、いずれ限界がくるかもしれないですね。私が関与する会社も以前は組織作りを深く考えずに人を増やした結果、社長が一人で経営と現場の両方を対応する状況が限界を迎えて、大事な連絡の返信を忘れたり、現場への指示が不十分になったりして、トラブルが頻発する状況に陥っていました」

経営者「そうですか。弊社も実はそんな懸念もあるんです」

士業「なるほど。組織体制の構築や経営の運営方法についてお役に立てる情報を提供できると思いますので、一度、ランチでもいかがですか。いろいろな会社の経営に関与しているので、守秘義務の範囲内でよければ他社事例もお話しできると思います」

経営者「それはぜひお聞きしたいですね。お願いします」

この会話では、採用の課題から入り、組織体制に関する質問をすることで経営課題に踏み込んでいます。組織体制について、「社内で経営の相談ができる相手はいますか?」という聞き方では少し直接的すぎるので、「採用に関する会議は社内では行っていないですか?」という間接的な聞き方から組織体制を把握していきます。

さらに経営の相談相手やナンバー2がいない、組織体制が整っていないという経営課題を確認できれば、次にそれがいかに問題であるかを認識していただくための事例を話しています。この事例が話せるかどうか、つまり例証ができるかどうかで説得力は大きく変わります。そのためにも経営者が抱える悩みについて詳しくなることが重要です。