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産経ニュース エディトリアルチーム
古来、日本人は昆布、かつお節、しいたけなどの乾物から旨味を取り様々な料理に生かしてきた。かつお節、あじ節、さば節、のりなど多彩な約100種類の商品を揃え、日本のだし文化の発信に力を入れる1軒の乾物店が、香川県高松市中心部の南新町商店街にある。戦後間もない1946年に創業した「丸一」だ。丸一を運営する丸一倉庫株式会社は、コロナ禍からの反転攻勢を見据え、販売管理、在庫管理、財務管理、オンラインショップの運営、外国人観光客の対応といった業務でICTの活用を強化しようとしている。(TOP写真:香川県高松市の商店街で存在感を放つ丸一の店舗)
優良な乾物を手頃な価格で顧客に提供
丸一は、経営陣自らが産地に赴いて納得できる乾物だけを仕入れるというスタイルを創業時から貫き、80年近くにわたって現地の生産者と消費者との信頼関係を大切にしてきた。商店街の角地で看板を掲げ存在感を放つ丸一の店内には、多種多様な商品が並ぶ。金色のシールが貼られているのは、丸一が独自に製造も手掛けている商品だ。香川県内の多くの飲食店、ホテル、うどん店が丸一と取引している。
「仕入れから製造、販売まで一気通貫で手掛けることができるのが丸一の強みです。優良な乾物を手頃な価格でお客様に届けることをモットーにしています。讃岐うどんの美味しさの秘訣であるいりこは長年、瀬戸内海の伊吹島の漁師と関係を築いてきたことで良質なものを仕入れることができます。丸一のいりこは県内の多くのうどん店にご愛用いただいてます」と丸一倉庫株式会社の平井賢治取締役は胸を張った。
良質の乾物を選び抜く「目利きの力」が最大の強み
仕入先の産地は北海道から九州まで全国に広がっている。同じ産地でも育つ場所、環境、育てる人によって品質は大幅に異なる。平井取締役の祖父にあたる丸一の創業者は、香川の料亭や老舗割烹の料理人の高い要求水準に応えるため、全国の選りすぐりの乾物を自分の目で確かめて納得したものしか仕入れない厳格さを貫いた。この姿勢が今も踏襲され、良質の乾物を選び抜く「目利きの力」につながっているという。
システムを活用して1,000件の取引先を効率的に管理
企業や店舗を中心に個人を含めると取引先は約1,000件に上る。手間と時間をかけずに顧客情報を管理する上で10年ほど前から導入している販売管理システム、在庫管理システム、財務管理システムは経営に欠かせない存在になっている。
「働き手不足が加速する中で、地方の中小企業が従業員を増やすのは簡単ではありません。営業や配送といったICTや機械で代替できない仕事以外は、ICTを活用することで作業を効率化することを心掛けています」と平井取締役は話す。2021年末のサーバー更新に合わせてそれぞれのシステムをバージョンアップした。
オンラインショップの運営にも注力
丸一はオンラインショップの運営に力を入れている。オンラインショップで扱っている商品数は約300点にのぼる。
「大型ショッピングセンターが増えたことで、商店街で店舗を構える商売のモデルが主流ではなくなってきました。従来のお客様に商店街に足を運ばなくても引き続きご愛顧いただけるように、オンライン販売に力を入れてきました」と平井取締役は説明した。
システム同士の連動で商品配送の作業効率を2倍に
忙しい時は1日50件から100件の注文が入ることがある。システムのバージョンアップに伴って販売管理システムと送り状の作成システムを連動したことで、注文を受けてから発送するまでのリードタイムを短縮することができたという。以前はシステムを個別に運用していたので、販売管理システムに注文者の情報を入力した後、改めて送り状を作成していたことから二度手間になっていた。
「オンラインでの注文に伴う商品配送の作業が以前の半分程度の労力で済むようになりました。今後、注文数が増えても対応していける目途を立てることができました。以前と比べて迅速に発送できるのでお客様へのサービス向上につながっているのが何よりうれしいですね」と平井取締役は満足そうに話した。
県外の新規顧客の獲得にも力を入れているが、オンラインショップ間の競争は激しく簡単ではないという。「誘客を図るには様々な仕掛けが必要です。時間をかけてオンラインショップの認知度を高めていきたい」と平井取締役は力を込めた。
掛け算の感覚でICTを活用していきたい
平井取締役は今後、販売管理、在庫管理、財務管理の各システムの連動を強化し、販売戦略の策定に顧客データや売上データを必要に応じて活用できるようにしたいという。「ICTは使いこなすくらいの気持ちで扱わなければならないと最近思い始めています。足し算ではなく掛け算の感覚で使うようにしていきたい」と平井取締役。
アフターコロナを見据え外国人観光客向けの対応を強化
2013年12月に和食がユネスコの無形文化遺産に登録された後、海外で和食に対する関心が広がっていることを肌で感じている。店舗に足を運ぶ外国人観光客が増加し、中でも欧米人は日本のだしの文化や乾物の役割について多くの知識を仕入れているという。コロナ禍の間、外国人観光客は激減したが、2022年秋以降の入国制限の緩和に伴って徐々に流れが戻りつつある。
コロナ禍前と比較して実感しているのが翻訳アプリケーションの進化だ。ほとんどの外国人観光客はスマートフォンで日本語の商品名や説明文を撮影し、アプリを使って翻訳することで内容を理解しているという。「技術の進歩が言語の壁を崩してくれているように思います。これからは、手間をかけて外国語で表示するよりも、写真を使ったり、アプリが翻訳しやすい日本語で表示した方が情報を伝える上ではベターかもしれません。外国人観光客にSNSなどで情報発信してもらえれば大きなPR効果が期待できます。デジタル技術について最新の情報を集めながら効果的な対応を考えていきたいと思っています」と平井取締役は話した。
独自ブランドのだしパック「花の将」を立ち上げ
平井取締役は、海外で乾物の関心が高まる一方で、インスタント食品、化学調味料、冷凍食品、ファーストフードの普及に伴って、乾物やだしづくりになじみを持たない日本人が増えていることを憂慮している。そこで手間をかけずに本格的な天然素材のだしを楽しめる商品を作りたいと考え、2017年6月から独自ブランドとして立ち上げたのが、だしパック「花の将」だ。濃いめの味付けにも引けを取らない強い旨味が特徴の伊吹いりこだし、様々な料理に対応できる深い味わいが特徴の万能かつおだし、あご(トビウオ)の甘さを生かした上品な旨味とコクが特徴の香味あごだしなどを展開している。
「花の将は、素材のありのままの美味しさを伝えることをコンセプトにしています。粉末にしてしまうと素材本来の旨みがすぐになくなってしまうので、天然素材をそのままパックにすることで旨味を保っています。それぞれの商品は料理に合わせて最適なブレンドにしているので、水につけたり、煮沸するだけでだしを取ることができます」と平井取締役は花の将について説明した。
ICTで商店街の魅力を発信したい
高松市の商店街ではご当地Vチューバ―と連携して店舗の情報発信にも取り組んでいる。平井取締役は、商店街に観光客を誘致する上で、買い物だけでなく体験を提供することが重要と考えている。「日本らしさや老舗らしさを大事に、しっかりと店舗の佇まいを残していくつもりです。商店街そのものを観光資源として位置付け、買い物をアトラクションと感じてもらえるようなICTの活用方法を考えていきたい」と平井取締役は先を見据える。
和食文化を日本中、世界中に発信する上でもICTは大きな効果を発揮するはずだ。平井取締役は「だしの伝道師として、天然素材の本当の美味しさを世界中の人々に伝えていけるように頑張ります」と明るい表情で話した。
企業概要
会社名 | 丸一倉庫株式会社 |
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本社 | 香川県高松市南新町4-1 |
HP | https://maru-1.hananosyo.com |
電話 | 087-831-3307 |
設立 | 1959年4月(創業1946年) |
従業員数 | 30人 |
事業内容 | かつお節、昆布、煮干し、しいたけ、のり、わかめ、うどん、そうめん、佃煮など乾物、海産物の販売 |