矢野経済研究所
(画像=Aleksandr Matveev/stock.adobe.com)

6月18日、北海道千歳市を西村経済産業大臣が訪問、次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス」の工場建設予定地を視察した。国は新工場の建設費用として既に3300億円の助成を決定しているが、鈴木北海道知事はインフラ整備への追加支援を国に要請、西村氏は「しっかり検討したい」と応じた。
産業競争力の強化、そして、経済安全保障という観点から半導体の戦略的重要性は論を俟たない。しかし、かつて世界市場の過半を押さえた日本勢のシェアは今や一桁台、日本の半導体産業は「10年から20年遅れている」というのが現状だ。

そこで、ラピダスである。同社は2022年8月、国内企業8社(キオクシア、ソニー、トヨタ、デンソー、ソフトバンク、NEC、NTT、三菱UFJ銀行)の出資を受けて設立、2025年に試作ラインを立ち上げ、2027年までに2nm世代の量産化を目指す。現在の日本の量産化技術が40nm程度であることを鑑みると、周回遅れから一挙に世界のトップグループに並ぶ目算だ。同社によれば「日本は製造装置や材料分野で世界をリードしており、その強みが活かせる。また、量産化に向けての先端技術は世界有数の半導体研究機関アイメック(ベルギー)とIBM(米)との提携を通じて習得する」という。

課題は資金だ。今後、技術開発と生産ライン整備に5兆円規模の投資が必要だ。しかし、上記8社の出資総額は73億円、よって国の追加支援が必須となる。とは言え、それでも物足りない。既に3nm世代の量産化を実現している半導体ファウンドリ最大手TSMC(台湾)の年間投資額は300-400億ドルだ。加えて半導体市場の不安定さは言うに及ばない。国の関与が事業の成功を保証しないことはエルピーダ、JDI、JOLEDの事例をみれば明らかである。果たして国はどこまでリスクをとるのか、投じた国費は回収できるのか。

ラピダスは「日の丸連合では勝てない、国際連携で勝負」という。しかしながら、資金を国に頼り、重要技術を海外企業に依存したまま事業を主導できるのか。この4月、米半導体大手グローバルファウンドリーズはラピダスなどに企業機密を漏洩したとしてIBMを提訴した。一方、経済安全保障も当然ながら日本だけの問題でなく、それは常に自国ファーストだ。米政府がEVの税優遇で同盟国である日韓欧州を除外したことは記憶に新しい。結局、事業の成功要件は自前の技術力であり、未来を担う人材の育成が鍵となる。そして、出来れば成功体験を知らないミレニアル世代以降の経営者がいい。ここが成功への近道である。

今週の“ひらめき”視点 6.18 – 6.22
代表取締役社長 水越 孝