中小企業にとって、金融機関との付き合い方や関係構築のし方は重要なテーマだ。金融機関と上手に付き合うことで、資金繰りが悪化したときの融資がスムーズになるなど、さまざまなメリットがある。この記事では、経営者が金融機関と付き合うときの心構えや金融機関にまつわる知識を解説する。
目次
中小企業が金融機関と付き合う目的やメリット
中小企業が金融機関と付き合う主な目的は融資だ。会社は創業期や拡大期、事業承継期など経営ステージに応じて資金調達が必要となる。資金調達にはさまざまな方法があるが、最もポピュラーなのは金融機関からの融資だろう。
中小企業が金融機関と長く付き合って関係を構築するメリットは、融資がスムーズになることだ。日頃から信頼関係を構築しておけば、予測できない事態に見舞われて資金繰りが悪化した際にも、融資を受けやすくなるだろう。
金融庁が2022年に地域金融機関等をメインバンクとする中堅・中小企業約3万社にアンケート調査をしたところ、約6割の企業が「メインバンクは経営に関する課題や評価を伝えてくれる」と回答している。
経営課題の解決につながる分析や評価を受けられることも金融機関と付き合うメリットと言えるかもしれない。
中小企業が金融機関と関係構築して上手に付き合うための心構え6つ
続いては、中小企業の経営者が金融機関と付き合うときの心構えを6つ紹介する。すべてを実践する必要はないが、自分なりに勘所を押さえて担当者と向き合うことが大切だ。
1.複数の金融機関と付き合う
いざというときにスムーズに融資を受けるためには、日頃から複数の金融機関と付き合っておくことが大切だ。
取引先の金融機関が1つだけだと、融資を断られたり融資額が希望に見合わなかったりした場合、ほかの金融機関に駆け込まねばならなくなる。しかし、金融機関の立場としては、日頃から取引もないのに困ったときだけ融資を求められても、いい印象を抱き難いだろう。
いざというときの融資のハードルが上がりかねないので、経営が順調なときこそ複数の金融機関と上手に付き合い、信頼を積み重ねておくことが重要だ。
2.自社の情報を伝える
会社の情報を金融機関に開示することは、信頼獲得につながる大切な行動だ。お金を貸した側としては、経営状態は常に気になるものだ。年に一度の決算書の提出だけでなく、月次試算表を開示したり四半期の業績報告をしたりすると、金融機関からの評価も高まるはずだ。
経済産業省が公開している、ベンチマークシートで経営状態を把握できる「ローカルベンチマーク(ロカベン)」を活用するのもいいだろう。
金融機関では、不正や癒着防止のために定期的な異動が行われており、担当者が変わることも多い。担当変更時は引き継ぎが行われるものだが、経営者としても新しい担当者に積極的に情報を開示するようにしたい。
また、業績が悪くなると金融機関に足が向かなくなりがちだが、そんな時こそ包み隠さず情報開示する姿勢が大切だ。金融機関の立場になって悪い情報も包み隠さず開示し、誠実さを態度で示すことで信頼関係が深まるだろう。
3.提出期限や連絡時間を守るなど当たり前の気遣いをする
提出期限を守る、書類の記載漏れがないようにする、連絡の時間帯に配慮するなど、当たり前の気遣いも大切だ。書類や質問への回答は、期限ぎりぎりではなく早いほどいい。連絡の時間帯は、お昼休みの12時から13時を避け、できるだけ営業時間内に連絡する方がいいだろう。
経営者はただでさえ多忙なので、気を抜くと自分のスケジュールを優先してしまいがちだ。また、従業員と関わることが多いと、期限などを指摘される機会がなくなってしまう。
金融機関の担当者は、日頃から多くの経営者として接している。担当者の立場になって提出期限や連絡時間帯に配慮してくれる経営者と、自分の都合を優先する配慮のない経営者だと、融資の稟議を通すときの担当者の熱量も自然と変わってくるだろう。
4.セミナーやイベントに参加する
金融機関からセミナーやイベントを案内されても、忙しい、興味がないなどの理由で聞き流していないだろうか。セミナーやイベントに参加することも、金融機関と上手に付き合うコツとなる。
金融機関は他社と合同でセミナーやイベントを企画することも多く、集客状況が悪いと付き合いに影響する恐れもある。自分が担当する顧客が1人もセミナーやイベントに参加してくれないと、担当者が居心地の悪い思いをする可能性もあるだろう。
毎回でなくとも、多少なりとも興味を引く内容なら、担当者の顔を立てて参加を検討するようにしたい。
5.担当者の目標達成に協力する
セミナーやイベントの参加以外にも、可能な範囲で担当者の目標達成に協力するのも上手に付き合うコツだ。
金融機関では、公共料金の自動引き落とし、定期預金の預入、投資信託や保険の購入など、担当者にさまざまなノルマが課されることがある。目標達成に協力することで、融資が必要になった際に対応してもらえる可能性が高まるだろう。
6.金融機関を訪問する
金融機関の担当者が会社を訪問してくれることがあるが、経営者からも定期的に金融機関の支店を訪問しておくと金融機関からの印象は良くなる。
月次試算表や資金繰り表を持参して経営状況を伝えたり、積極的にコミュニケーションを取ったりすることで、経営状況を把握しつつ人とのつながりも大切にする経営者だと印象付けられる。信頼関係が構築できていれば、資金繰りが悪化しても融資について相談しやすくなる。
金融機関から見た「付き合いたくない企業」5つの特徴
金融機関と良好な関係を築くためには、悪い印象につながる行動も知っておく必要がある。自分の行動が意図せず金融機関の印象を損ない、いざというときの融資を断られてしまうような状況は避けなければならない。
経営者ともなると、従業員や取引先から言動について指摘を受けることはほとんどないため、自分で省みる姿勢が大切だ。
1.金融機関を頻繁に変える
金融機関を頻繁に変えると、「何かトラブルがあったのでは」「問題のある会社なのでは」といった疑いを抱かせることになりかねない。最も利用機会が多いメインバンクは、よほどのことがない限り変えないほうがいいだろう。
実際に、金融庁が2022年に地域金融機関等をメインバンクとする中堅・中小企業約3万社にアンケート調査をしたところ、97.7%の企業が「メインバンクを変更していない」と回答している。
特に、借り換えは経営者を信頼して資金を貸した金融機関にとって大きく信頼を損ねる行為だ。融資条件や経営状況によっては借り換えを検討することもあるかもしれないが、安易な借り換えは避け、慎重に検討するようにしたい。
2.借入のときしか付き合わない
資金繰りが悪化し融資を受けたいときだけ金融機関に連絡すると、「困ったときだけ泣きついてくる」という印象を抱かせることになる。人間関係にたとえても、困ったときだけお金を借りに来る人に好印象を抱く人はまずいないだろう。
経営状況が良いときから小まめにコミュニケーションを取り、信頼を積み重ねてこそ、スムーズな融資が実現する。セミナー参加や目標達成への協力ができるとなお良いが、難しく考えず、会社の情報を開示したり支店を訪問したりするだけでも関係構築につながるだろう。
3.情報開示に過度に慎重
中小企業の経営者にとって、経営状況は懐事情にも近く、積極的に他人に開示したいと感じることは少ないはずだ。しかし、最低限の情報しか開示しないのは誠実な対応とは言い難い。
金融機関は、資金が不足したとき融資をしてくれる存在だ。金融機関の立場になると、情報開示に慎重な相手にお金を貸す際に不安になるのは当然だ。
金融機関が必要としている情報は躊躇せず開示するとともに、情報を先回りして開示するとなお良いだろう。
4.記載漏れが多く期限を守らない
金融機関は会社組織なので、担当者には上司がおり、社内には厳格に定められた手順がある。書類の記載漏れがあったり期限に遅れたりすると、担当者はその都度スケジュールを変更せざるを得ない。担当者の負担を増やしてしまい、何度も重なれば信頼関係は当然損なわれるだろう。
金融機関と気持ちのいい付き合いを続けるためには、お互いの仕事がスムーズに進むよう書類の記載内容や期限には注意を払おう。
5.ノンバンクから借入がある
消費者金融などのノンバンクから借入をしていると、金融機関から融資を受けられない経営状況なのではないかと疑われるリスクがある。
消費者金融は資金を受け取れるまでの期間が短く、気軽に利用できると感じられるかもしれない。しかし、金融機関との付き合いを考えれば慎重に利用を検討したほうがいいだろう。
金融機関の種類と選び方の知識
金融機関にはさまざまな種類があり、取引する金融機関をどうやって選べばいいか悩むこともあるだろう。続いては、金融機関の種類ごとの違いについて簡単に解説する。
金融機関は、次の3つに大別される。
さらに民間の金融機関は、次のように分類される。
銀行については、さらに次のように分類される。
中小企業がメインバンクを選ぶときは、まず地域密着でサービスを提供する地方銀行や第二地方銀行を検討したい。都市部の大手企業中心のメガバンクと比べると、地元の中小企業の支援に力を入れている銀行が多いからだ。
信用金庫や信用組合を検討するのもいいだろう。銀行と違って非営利法人のため、地域の利益を優先する姿勢が強く、熱心に地元企業を支援してくれる担当者もいる。
そのほか、商品やサービスを全国に展開しているならメガバンクの口座を開設したり、オンラインでの販売を行っているならネット銀行の口座を開設したりするのもいいだろう。
金融機関の立場を考え「長く付き合いたい企業」になろう
事業を末永く続けるためには、独りよがりではうまくいかない。顧客目線で商品やサービスを展開するだけでなく、取引先の立場になって良好な関係を築くことが大切だ。
いざというときの資金調達先である金融機関は、取引先の中でもかなり重要なポジションだろう。金融機関と上手に付き合えば、予測できない事態に陥ったとき、会社を倒産から守ることにつながるはずだ。
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文・木崎涼