(本記事は、白濱 龍太郎氏の著書『ぐっすり眠る習慣』=アスコム、2023年2月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
午後の眠気対策はランチメニューを見直せ
人間には、サーカディアンリズムと呼ばれる体内時計が備わっていますが、それとは別に「睡眠圧力」という眠気の強弱のリズムも同時に働いています。睡眠圧力の波が最初にもっとも強くなり眠くなる時間は起床時間から6~7時間後。つまり、朝6時に起床した場合であれば、12~13時ぐらいの時間帯となります。そこから今度は下がりはじめ、次に眠気が強くなるのは深夜の1~2時くらい。24時間のうち2回の眠気のピークがあり、そのひとつが昼過ぎにあたるわけです。
このことから、昼間に眠くなるのは当然の反応で、眠気がピークに達している時間帯は、脳のパフォーマンスが大きく低下します。寝不足だった場合は、もともと眠くなりやすい状態にあるわけですから、余計に眠くなってしまうでしょう。
もうひとつ、食事も眠くなる要因です。これは、食事をしたあとに上がる血糖値(食後血糖値)を下げるためにインスリンが分泌されるから。人間は、インスリンが分泌されると自然と眠くなるのですが、とくに満腹状態のあとはインスリンが大量に分泌されるので強い眠気に襲われます。そして、血糖値が上がったままだと生活習慣病につながる可能性が高まるため、睡眠とは別の意味でも注意が必要です。昼食は炭水化物(糖質)を控えめにして、タンパク質や野菜などの食物繊維を意識して食べるとそれほど強い眠気に襲われません。
それでも、どうしようもなく眠い……。そんな場合は病気を疑う必要があります。ナルコレプシーという病気は、時間や場所に関係なく、突然強烈な眠気に襲われてしまう過眠症の一種です。過眠症には脳内の神経細胞が覚醒に必要な物質をつくり出せなくなるケースや、なんらかの感染症や事故が影響するケース、遺伝的要因もあり、MRIなどの検査で発見することは困難とされています。きちんと眠っているのにどうしても昼間に寝落ちしてしまう、ぼんやりしてろれつが回らないなどの場合は、一度病院でみてもらうといいでしょう。
睡眠に悪いランチは「辛いもの」と「熱いもの」
朝食は、メラトニンの材料となる栄養素であるトリプトファンや、GABAを多く含む食材を摂取するのがおすすめです。大豆製品、牛乳、バナナ、ヨーグルトなどを積極的に取り入れるようにしましょう。
昼食は、朝食の4~5時間後にとるのがベストです。朝に食べたものが消化されており、身体に負担もかかりません。食事の間隔は、長すぎても短すぎてもよくないのです。
午後のエネルギッシュな活動のためにも、昼食では「身体の材料となる栄養素」であるタンパク質をしっかり摂取したいところ。肉類などの高タンパク食材をとるのにもっとも適しているのは、実は昼食です。
それとは逆に、昼食には適さないのが、鍋などの熱い汁物や、香辛料を大量に使った辛いもの。熱さや刺激でシャキッと頭が冴えそうなイメージですが、昼間に深部体温を過剰に上げたことの反動で、以降の体内時計のリズムが狂い、眠気に襲われたり夜眠れなくなってしまったりするおそれがあります。ぐっすり眠るためにも、食事の内容やタイミングを心がけてみてください。
筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。公立総合病院睡眠センター長などを経て、2013年に「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を設立。これまで2万人の睡眠に悩む人を救ってきた。自身がオンオフを切り替えるのが苦手だったという過去から、いかに睡眠が日中の活動に影響するかを実感し「睡眠投資」という考えを発信。マイクロソフト、PHILIPSなど世界的企業での講演や、東京オリンピックでは選手村で選手をサポートするなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い。慶應義塾大学特任准教授、国立大学法人福井大学客員准教授、武蔵野学院大学客員教授、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』『いびきを自分で治す方法』(アスコム)など著作多数。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)、「めざましテレビ」(フジテレビ)などメディアにも広く出演している。
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