5月24日、「日本郵政グループ労働組合は、期間雇用社員に対して夏冬それぞれ1日の有給休暇を付与する一方、正社員の有給休暇を同3日から1日に減らすとの会社提案を受け入れる」との報道があった。2020年10月、最高裁は日本郵政における正社員と非正規社員との待遇格差を「不合理」と認定、有給休暇の見直しはこれを受けての是正措置である。組合は引き換え条件として月額基本給の3200円増を要求、経営側はこれに同意したとのことであるが、“同一労働同一賃金” に向けての格差の是正が正社員にとっての不利益変更となったことの意味は小さくない。
その6日前、国立研究開発法人理化学研究所の労働組合は「雇用期間が10年に達した契約社員97人が雇い止めされた」と発表した。2013年4月1日、改正労働契約法が施行、雇用期間が10年を越えた有期雇用社員は “無期雇用への転換申込権を獲得できる” こととなる。ところが、理研は就業規則を改定、雇用期間の上限を10年までと規定した。組合はこれに反発、結局、改正法の施行から “10年目” にあと半年と迫った昨年9月、“最長10年ルール” は撤廃される。代わって、理研は新たに研究目標と雇用期間を定めた公募方式によるプロジェクト制を導入するが、組合は「募集要件は恣意的にコントロールできる。新制度は無期雇用への転換を防ぐことが狙い」と批判、両者の対立は続く。
4月28日、参議院本会議は「フリーランス新法」を可決、立場の弱いフリーランスを保護し、労働環境の改善をはかる。不当な減額、返品、著しく低い報酬等の禁止が明記されるとともに、取引条件の詳細を書面やメール等にて交付すること、納品後60日内の支払い、ハラスメントに対する相談体制の整備などが発注者に義務付けられる。とは言え、労災保険や健康保険など社会保障に関する課題は残されたままであり、また、これまで下請法の対象外であった中小企業の負担は小さくない。引き続き労働実態を踏まえた施策整備が必要であろう。
上記はいずれも「働き方改革」の一局面であると言えるが、そもそも国は何のために働き方を “改革” したいのか。そう、ゴールは産業構造改革による成長の実現である。ジョブ型雇用、副業の解禁、起業の奨励、リスキリング(学び直し)など、“多様な働き方” の名のもとで労働市場の流動化に向けての機運が高められる。と同時に、非正規から正社員への転換を後押しする政策も講じられる。正社員の解雇規制も終身雇用時代そのままだ。個別施策間に生じたぎくしゃく感や中途半端感は、それゆえにしっかりとしたセーフティネットの議論を遠ざける。誰一人置き去りにされない社会の実現に向けて、党派や省益を越えたオープンな議論を望む。
今週の“ひらめき”視点 5.21 – 5.25
代表取締役社長 水越 孝